SPYAIR「JUST LIKE THIS 2023」
2023年8月11日(金祝)
富士急ハイランド・コニファーフォレスト
SPYAIRが2年ぶりに夏の野外ライブ<JUST LIKE THIS>を、バンドのメジャーデビュー記念日である8月11日、いつもの場所、富士急ハイランド・コニファーフォレストにて開催した。
ライブ開幕前。誰もが不安だったーー。
「お客さんもそうですけど、俺らもどう転がるか分かってないという、まさに“新感覚”の<JUST LIKE THIS>です。今回は」
<JUST LIKE THIS>経験者のUZ(Gt&Programming)、MOMIKEN(Ba)、KENTA(Dr)は、カオス渦巻くいまの自分たちとファンの心境をそんな言葉で表現した。スタッフもきっと彼らと同じ心境だったに違いない。そのなかで、唯一あの景色をまだ観たことがない新ボーカル・YOSUKE(Vo)だけは、楽しみな気持ちと不安な気持ちと「半々?」といって、無邪気さと愛らしさが入り混じった表情を浮かべてニコリ。それだけで周りが和んだ。3人のYOSUKEを見つめる目が穏やかになった。柔らかな笑顔で、人をホッとさせるような雰囲気をもったYOSUKEの加入で、新体制となったSPYAIRをとりまく空気、オーラは明るくなった。
太陽もそれを後押しするかのように、雨がつきものだった<JUST LIKE THIS>に今年は夏の日差しを連れてきた。日本列島には台風が接近、現地も前日まで雨がパラつき、当日も夕方から雨予報が出ていたにも関わらず、それを覆しての晴天の下での開催となったこの日。
オープニング映像が流れだすと、いつもなら大騒ぎが始まる会場に不安と緊張感が走る。UZ、KENTA、MOMIKEN、サポートメンバーのtasuku(Gt)がまずはオンステージ。そうして、最後に、この日の太陽を呼び寄せるような派手な赤いメッシュを入れたYOSUKEが現れ、歌い出したのは「Rockin' the World」だった。緊張感あふれるYOSUKEのボーカルを、頼もしいバンドサウンドが支える。お立ち台に立ち「富士急!」と叫んだあとは、舞台から客席に伸びた花道に元気いっぱいに飛び出し、「轍~Wadachi~」へと展開。SPYAIRをこれまで何度も救ってきた“銀魂”シリーズ。それがいまこの瞬間、YOSUKEの気持ちを支えているのがヒリヒリするほど伝わってきた。SPYAIRはボーカル以外のメンバーがほとんどの曲を作詞・作曲してきたロックバンドだ。歌い手が書いた歌詞ではないからこそ、様々な形で各々の人生に入り込み、それをひき受けたところで独りじゃないんだとエールを送り続ける。そんな真っ直ぐな人間賛歌を歌うSPYAIRが、これまでみんなを支えてきた。
大事なのは、どれだけSPYAIRの曲に本気で自分の人生をぶつけ、音楽と向き合い、どこまで魂を削って歌えるかだ。YOSUKEはそれができるボーカリストであることを冒頭で証明。さらに、このどデカいステージでSPYAIRのフロントマンとしてどう振る舞うのか。「アイム・ア・ビリーバー」ではさっそく花道の先端にあるセンターステージまでいき、観客のシンガロングを誘いながらステージで寝転んだり、観客に笑顔でピースサインを送ったり、溌剌としたパフォーマンスを繰り出し、ライブをリードしてみせる。その度胸たるや、「この人、本当にプロ未経験?」、「SPYAIRに加入して4カ月?」と驚きを隠せない観客たちに向かって「<JUST LIKE THIS>初めての人っていらっしゃいますか?(手をあげる観客を眺め)俺と一緒ですね。宜しくお願いします」と頭を下げ、無邪気に笑う。変にカッコつけるのでもなく、気負うでもなく、そのまんまな姿で観客の心をつかみ、持ち前のオーラでみんなを和ませていくYOSUKE。
こうして緊張感や不安が解き放たれたところで、次のブロックからはオーディエンスがシンガロングやクラップでメンバーと一緒にライブを作っていく。「WENDY~It's You~」が始まると、イントロから観客は盛大なクラップとともにコーラスを大合唱。そこにYOSUKEが得意なフェイクを重ね、この曲に新しいスパイスを加えてみせる。MOMIKEN以外のメンバー全員がサングラスをつけた「JUST ONE LIFE」はオーディエンスとの掛け合いで大盛り上がり。イントロから“oi”コールが広がった「現状ディストラクション」では、間奏でYOSUKEが「ギター、UZ!」と叫び、UZの肩を抱き寄せるとオーディエンスは悲鳴をあげて大興奮。そのUZがギターでアルペジオを弾き始めたあとは、「My World」と「サクラミツツキ」を続けてパフォーマンス。せつない曲に入り込みながら、観客たちが野外ならではの空の変化、涼しくなってきた風を味わっていると、YOSUKEが「ちょっと違うアレンジで」という言葉を添えて、始まったのは「Last Moment」だった。UZはエレキをアコースティックギターに持ち替え、ファンキーなカッティングをバックにこの曲を届けていった。
そして、このあとはメンバー4人がセンターステージに移動したところから中盤戦へ。MOMIKENが「みんな座りなよ」と観客に声をかけ、楽器のセッティングをしながら4人で雨を望んでいる人はどのくらいいるのかという天気の話題で盛り上がる中、KENTAから「昨日ぎっくり腰になっちゃって」と驚きの告白が飛び出す。「でも、リハビリでここまでなんとか戻りました」といって観客を安心させたあと、ライブは再開。KENTAがピアノ、MOMIKENがベース、UZはアコギという恒例のアコースティック編成で、歌い出したのは「BEAUTIFUL DAYS」。この曲の、“暗闇の中で きっと光はあるさ”“「何が正しいか」って また悩んでしまうよりも「何がしたかった?」って ほら 優しく自分に聞いてよ”。歌詞のフレーズがいま目の前で起死回生のREBIRTH ストーリーを実現していく4人と重なり、その姿が心に深く沁み過ぎて、観客たちの頬には自然と涙がこぼれ落ちる。
このあと4人はメインステージに戻り、「INSIDE OF ME」へ。ここから激しいロックモードの曲を連投していくブロックになり、ここからYOSUKEがいっきに変貌。ステージに跪いて、吐き捨てるように“INSIDE OF ME”と歌ったあと、「What is Love」はKENTAの迫力あるパワードラムとともに、鬼気迫るシャウトを響かせる。KENTAのドラム台の横に移動したYOSUKEとUZがラップでかけあう「We’ll Never Die」は、曲中“頭振れますか!”とYOSUKEが叫ぶと、MOMIKENがフロントで体を前後に激しく折り畳みながら低音を轟かせる。こうしてメンバーが放つ熱量や客席のテンションがロックのパワーでどんどん大きくなり、高まっていったところに「RAGE OF DUST」を投下。花道で歌っていたYOUSUKEはMOMIKENが近づいてきた気配を察すると、すぐさまMOMIKENの真下に寝転び、アイコンタクトをおくってニンマリ。さらにその場所にUZも加わり、楽しそうにエモーショナルなギターソロを放出すると、それをメインステージで見ていたKENTAのドラムもヒートアップ。そうして、富士急の客席をライブハウスのように加熱させてみせた彼ら。
激しいロックナンバーでは水を得た魚のように勢いづいていったYOSUKEは「みなさん楽しめてますか?人生で一番楽しいです、僕。疲れたけど、なんかね、辛くないんです」といって笑顔を浮かべた。そうして、このあとは作詞・作曲にYOSUKEを加えて作った新体制のSPYAIRの最新曲「RE-BIRHT」へ。ハードなギターリフとエモーショナルなシャウトで真っ赤に燃え上がった照明は、YOSUKEが心地いい発音で英詞をファルセットで歌った瞬間、ブルーと紫が溶け合った色に変わり、暮れゆく空を彼方まで照らしていった。それは、いままでのSPYAIRでは見たことがないような新しい景色だった。サビではスクリーンに真っ青な空が広がり、曲の後半、3人の合唱を身体中で受け止めながら花道をリズミカルに歩いていたYOSUKEがラスト、“I will”と歌い終えた瞬間、ハンドマイクを持った手を力強く空に向かって突き上げた。それは、この場にいた全員が彼らのREBIRTHを受け止め、新体制のSPYAIRとともに新たなスタートをきると誓った瞬間にも思えた。その意思を伝えるように、このあとの「イマジネーション」、「サムライハート(Some Like It Hot!!)」でオーディエンスがはちゃめちゃな盛り上がりを見せると、トロッコに乗り込んだYOSUKE、UZ、MOMIKENは、そんな観客たちの決意に「ありがとう」と伝えるように、至近距離で笑顔を届けていった。そうしてこの後のことだった。
UZが、ここでバンドを代表して、本日に至るまでの想いを、丁寧に時間をかけて話し始めた。いまから18年前にSPYAIRを結成し、海外のアーティストのフェスを見て「俺らもこういうの、やりたいよな」という思いで、地元・名古屋の今はなき栄広場で野外ライブを始めたこと。そこからメジャーデビューを掴み、東京に出てくると、デビュー後は周りのバンドマン誰もが羨むような早いペースで、日本武道館、アリーナツアーへと駆け上がっていったが「それと同時にメンバーとは気持ちがすれ違っていって。目も合わさなくなったギクシャクした時期もありました」と当時の内情を赤裸々に告白。そういうなかで「みんなでもう1度大きなものを目指したい」という想いから<JUST LIKE THIS>を始めたことを説明。これを掲げたことで、バンドがなにをやりたいのか。ブレない“軸”が1つ定まったのだという。だが、そうやってなんとか進んでいったSPYAIRを、昨年、最大の危機が襲う。ボーカルのIKEの脱退である。残された3人は散々悩んだ。「SPYAIRを続けるべきなのか」、「IKEの声を失った自分たちはSPYAIRと名乗っていいのか」、「それならSPYAIRを終わらせるのか」など、悩んでいた当時の悲痛な想いを振り返るUZの言葉、それを静かに聞いているMOMIKEN とKENTAの表情に胸を締め付けられる思いがした。鼻をすすりだしたファンが、たまらず涙を拭う。そうやって悩み抜いた結果、UZがたどり着いた場所。
「俺はいま何をやりたいのか。それが<JUST LIKE THIS>でした。もう1度演りたい、あのステージに立とう、と。それで、SPYAIRを続けることを選択しました」と打ち明けた。そうして、ボーカル不在のなか、3人は<JUST LIKE THIS 2023>開催を決断。そうして動き出したら、YOSUKEと出会うことができたこと。そのYOSUKEについて「まだ若くて、いろんな可能性を持ったボーカリストだと思ってます」と伝えた上で「俺たちこの4人で、新しいSPYAIRとして進んでいきます。来年も再来年もここに戻ってこられるように、新しいSPYAIRを続けていきたいと思います」と高らかに宣言。その宣言を受けたYOSUKEが「つないでいくぜ、JUST LIKE THIS!!」とさらに力強い言葉を放ったところで、「JUST LIKE THIS」が始まった。この4人で新しいSPYAIRという、彼らやスタッフの愛情溢れる演出に胸が熱くなる。“ここまで来た10年”のなかに、YOSUKEはいなかったかもしれない。それでも、想いをつないだ歌がそこにはあった。“「やめよう」って何度も 立ち止まった でも君は俺を待っていたんだ”からの後半、YOSUKEはこの歌に自分の人生すべてを重ね、言葉を噛み締めるように魂を全開にした歌唱で、この大事なナンバーを見事に新しいSPYAIRの曲にしてみせた。そうして本編は終了。
オーディエンスが「SINGING」をみんなで大合唱するこのバンドならではのアンコールに応え、再びステージに現れたメンバーたち。YOSUKEが「俺がここに立ててるのは、次に演る曲があったからです」と映画のエンディングに流れていたSPYAIRの曲で「度肝を抜かれるぐらいカッコよくて。その曲だけめっちゃハマっていた」ことを回想。そうして、昨年やっていたバンドが解散してソロになって以降、この先音楽とどう向き合っていくのかという壁にぶちあたり「すげー迷ってたときにこの曲を聴いてたら、関連動画で出てきたの!“SPYAIR、ボーカル探してます”っていうのが。だったらやるしかねぇよな!」とボーカルオーデイションへの参加の経緯を語り、新しいSPYAIRならではの英語の曲紹介(ライブの途中から何曲かそうなっていて、発音もいいので、次にやる曲のカッコよさが倍増!)から、自分とSPYAIRをつないでくれた「0 GAME」をアクト。そうして、体に触れる空気が一段と涼しくなり、周囲の山々が夜のとばりに包まれてきた頃「次が最後の曲です」と伝えたYOSUKEは「この<JUST LIKE THIS>、すっげー最高なものだなと俺は感じました。この景色、来年、再来年とつないでいきたいです」と話したあと、たまらず「音楽最高!」、「ライブ最高!」ととびっきりの笑顔で叫んだ。そうして、ライブの終わりを告げる「SINGING」へ。照明で照らされたオーディエンスが一丸となって彼らにエールを送る合唱を届けたあと、会場の夜空には間髪入れずに次々と打ち上げ花火が上がる。真夏の夜空に高々と舞い上がった打ち上げ花火は豪快で、壮大で、凛としていた。まるで、新たな船出を飾った彼らのいまの気持ちを表すように。
これから彼ら、観客たちはそれぞれ各々の人生を背負って、再び日常生活に戻る。今日この日、この目で観て、耳で聴いて、身体が震え、涙が溢れたすべての瞬間は、これから様々な逆境に立たされたとき、私たちの人生の支えとなっていく。
SPYAIRを続けてくれてありがとう。そうして、お互いそれぞれに頑張って1年後、またこの場所で会おう。
SET LIST
01. Rockin' the World
02. 轍~Wadachi~
03. アイム・ア・ビリーバー
04. WENDY~It's You~
05. JUST ONE LIFE
06. 現状ディストラクション
07. My World
08. サクラミツツキ
09. Last Moment
10. BEAUTIFUL DAYS
11. INSIDE OF ME
12. What is Love
13. We'll Never Die
14. RAGE OF DUST
15. RE-BIRTH
16. イマジネーション
17. サムライハート(Some Like it Hot!!)
18. JUST LIKE THIS
ENCORE
En1. 0 GAME
En2. SINGING