井口裕香 バースデーパーティー2023 〜ゆかちンち〜
2023年7月8日(土)夜の部 恵比寿ザ・ガーデンルーム
2023年7月8日(土)「井口裕香 バースデーパーティー2023〜ゆかちンち〜」が恵比寿ザ・ガーデンルームにて開催された。
声優やラジオパーソナリティーとして活躍する一方で、ソロアーティストとしての顔も際立つ井口裕香は、今月12日にもミニアルバム『キミがキミでキミなんだよ』のリリースした。そんな井口裕香にとって、2023年は歌手活動10周年という記念すべき年でもある。アーティストとして一つの節目を迎えるにあたり、今回のバースデーパーティーは井口裕香にとって間違いなく“残る”景色となるはずだ。貴重な光景を祝福の意と共に見届けたい。
照明が灯ると、赤いドレスにバースデーパーティーサングラス、タスキという出立ちで、井口裕香がのほほんと登場した。大いに沸いた空気の中で、往年のお昼休みのバラエティ“ウキウキウォッチング”的なリズミカルな拍手の裁きを見せ、ファンとの息の良さを再確認した。
“テレホンショッキングノリ”で ゲストをご紹介、日笠陽子がひょっこりと登場した。「上の歯の”親知らず”が生えてきました!」という大発表で再びどっと会場を沸かせた。
さっきまでそこで二人で話していたかのようなナチュラルな掛け合いもそこそこに、早速バースデーケーキを食べましょう、と出てきたのは、全然華やかじゃあない!目を凝らすとハッピーバースデーとマヨネーズで書かれた餃子タワーであった。先ほど「お弁当を食べてきたらコーヒーとケーキで(食事を)締めたい」と放った日笠陽子のアシストが見事に泡となり消えた。
キンキンに冷えたビールを片手にファンとエアーで乾杯する。乾杯といえば直前のスピーチだ。そんな些細な瞬間もゆるいトークでしっかりボケてくれるから、井口裕香が好きだと思う。だから私たちは「ゆかちンち」に集まったのだ。ここはホームだというのが錯覚ならそれで良い。好きなだけ笑って、まるで家族のようにのほほんと過ごしたい。
餃子を堪能しながら、二人は楽曲「GYOZA」エピソードに入る。27歳のバースデーイベントも餃子を食べたんだよね、と振り返りながらも笑いの波は決して耐えない。
インスタグラムで募集した「皆さんのお便りを読むコーナー」に移ると、早速、まさかの声優伊瀬茉莉也さんからの投稿質問が読み上げられて、また笑いが起きた。
―壁にぶつかったとき、どうやって乗り越えてきましたか?―
―ベタですがお互いの第一印象とか。―
出会った頃を思い出して、感慨深くなるのか?いやいやのほほんと笑いが起きてなんと心地よいことか。
今年の夏にやりたいことを聞かれて「バーベキューやりたい!」とはしゃぐ日笠陽子に「本当にバーベキューやりたいひといるんだー!」とまた笑の波をかぶせる井口裕香。そんな井口は水着を買ったのでプールに行きたいのだという。ドキドキするような話題も爽やかに話が弾み、そのテンションがラジオ越しに聞き入った井口裕香の声と重なり…この場はあの公開ラジオ収録のようでもあるし、ドリフのホームコントのようでもあるし。井口裕香にしかなし得ないマジックタイムだ。
リリースを間近に控えた「ミニアルバムの話を全然してないよ!」と、焦る日笠陽子をよそにのほほんスタイルで我が道をゆく井口裕香。話題は「ゆかひよWikipediaクイズ」へ。
月一で自分のウィキペディアをチェックしているという井口裕香、自身のWikipediaの穴埋めクイズはさすがの解答率だ。「全部(このコーナー)をやりたい」と呟く井口裕香を眺めながら、新しくファンになってくれた人へ自身や日笠陽子をさりげなく知ってもらおうという思いが含まれたなんとも温かい企画だということを悟った。
二人が答えられない部分はファンが答える。答えただけで井口裕香が爆笑シュートをお見舞いしてくれる。井口裕香の優しさは周知のことと思うが、実際に同じ空間で触れたときに胸がじんわりと温度を持つ。この体験がどれほど人にとって価値のある体験だろうかと思う。
歌の準備を相棒の日笠陽子がそのままの空気で見事につなげて、やがてあたりは暗くなった。
しんとした暗がりにふたつの明かりが灯っている。メロウな鍵盤が響く。「アノヒノコイ」だ。
「バースデーパーティーに集まってくれた皆さんに・・」歌い方がそう言っている。すっかり刹那な時を刻む空間は無数の光が心音を刻んでいる。「一番星ソノリティ」、そして「ナツサガシ」へ…。あたりはひんやりとした水色の光が井口裕香を照らしている。感傷的なメロディに時にもたれかかるように、時にそっと放つように魅せる声に耳を奪われた。
ふとMCに戻ると瞬時に“のほほん井口裕香”が現れる。声優・井口裕香の声で指田フミヤ(Key)を紹介、軽く笑いを誘った後で、また空気をホール仕様へと様変わりさせる。
「ボクらのタイミング」と「解けない魔法」が滑らかに巡った。昼夜歌い続けた声はときめきが少しも衰えさせることなく、甘さと優しさを含んで会場を包み込んだ。
歌い終えた後の“のほほん井口裕香”も衰えない。ここで佐藤希久生(Gt)が登場。ここからは新たに3名でのトークで歌手としての井口裕香を語った。
井口裕香には、30歳手前の複雑な女子心理を描いた「さらば29」という楽曲がある。今日の誕生日は、35歳を迎えようとする自身になぞって「さらば34」として披露してくれた。鍵盤に加えて切れ味の鋭い弦が響く。人々に安らぎと楽しさをもたらしてくれる井口裕香の、35歳に向かう繊細なリアリティが息遣いから肌に伝わってくる。そして一貫してやはり温かいのだ。楽曲は「GYOZA」へと続き、音粒に乗せて軽快なラップと共にギターがどこまでも喜び弾けていく。そして「Prologue」へ差し掛かると一変してしなやかに、メロディの帯が流れるようで見惚れた。
後半戦スタートは「Sheer Shimmer Summer」だ。ポエトリーとメロディの掛け合いが胸を穏やかに刺激する。キーボードとギターとヴォーカル。セットといい、演奏スタイルといい、ショーとしてはシンプルながら太陽と青空、そしてひまわりが目の前に広がってきた。四角い空間で椅子に腰掛けている我々を広大な青空の下へと連れ出しては心地よい風を吹かせてくれる。
夢心地の最中にアンセム「Grow Slowly」が鳴り出した。気づけばファンのライトの振りも高鳴っている。演者とギャラリーが見つめ合う視線が合わさっていく。特に誰が合図した訳でもなく、ただ歌うだけで、あの場にいた人々誰もが一体となっていたのだ。この歌の力を見た。喜びに満ちた拍手が鳴り響いた。
「最後はみんなでらららぁ〜♪となって締めたいと思います。」
少し寂しそうに語ると、夕暮れが井口裕香を包んだ。微かに綻んだ目が「キミのチカラ」のメロディを受け入れる。“ゆかち”は、歌詞をそのままメッセージにして届けているんだ…ふと気付くと、人々の瞳が光りながら揺れ始めた。
「ららら〜」と演者が、ファンが歌い出した。声が出せるライブであることに期待を膨らませていた井口裕香の願いがまた一つ叶ったひとときだった。愛してくれるファンと実現した誕生日ギフト。熱いものが心臓を急速に巡るのを感じた。
名残惜しさが空間を満たしていく。そこで井口裕香はそっとマイクを置いて、肉声での歌を聴かせてくれるという…曲は「stand still」。
歌唱力は言わずもがな、10年続けて見えた歌手・井口裕香の決意のようなものを感じる立ち姿であった。
最後ものほほんと締めようとする井口裕香だが、感謝を言葉にする声が震え始めた。決して自信はないけれど…側に居てくれる人々と優しさを交わし合いたい、そんなささやかな願いが掬いとれないほどに溢れ出ていた。それは我々も同じだと、両手を広げて受け止めようとするファンとチームがいた。
2ndミニアルバム『キミがキミでキミなんだよ』が7月12日にリリースし、同日19時には「GYOZA」のMVも解禁、さらにファンミーティング・ツアーも敢行されるとなれば、間違いなく熱い2023年になるだろう。涙を拭きながら今日という節目を越えようとする井口裕香を見送りながら、我々もまた新たな愛で井口裕香を見つめていきたいと思うのだった。
※編集部注:写真は昼公演の模様