SUPER BEAVER「都会のラクダSP 〜東京ラクダストーリービヨンド〜」
2022年12月11日(日)有明アリーナ
自分たちの信念や抱いている想いを、行き違いがないようにしっかりと届けたい。もらったもののほうがありすぎるバンドだから、この場所に足を運んでくれたあなたには絶対にもっと多くの感謝を返したい。ライブ後半、言葉を丁寧に選びながら話す渋谷龍太(Vo.)のMCには、メンバー全員に共通するそんな熱い気持ちが美しいほどまっすぐに宿っていた。
SUPER BEAVERが自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーを開催。有明アリーナで行なわれた東京編2日目、12月11日(日)のライブの模様をレポートする。
場内が暗転すると、一瞬の静寂を切り裂くように爆音が轟く。ステージにはすでに柳沢亮太(Gt.)、上杉研太(Ba.)、藤原“34才”広明(Dr.)が板付いており、3分ほどのオープニングセッションに合わせて渋谷が現れ、そのまま設営された花道の先端へと歩き出す。そして、いきなり巨大な有明アリーナのド真ん中で、1万人の観客に彼が全方位を囲まれた状態で、「東京流星群」から勢いよくライブがスタートした。
モニターに星空のCGやメンバーの姿が投影され、頭上に巨大ミラーボールが鮮やかに輝くといった演出はありつつも、決して背伸びをするわけではなく、今まで培ってきた地力で、信じてきたロックバンドとしての表現で勝ちにいくという、あくまでいつもどおりのSUPER BEAVERのスタンス。にもかかわらず……いや、だからこそ、4人の演奏がとんでもないスケールをもってアリーナ会場に響きわたっている。その光景が痛快でたまらない。声が出せない状況を物ともしないオーディエンスの眩しいハンドクラップ、声が出せない状況を自分たちでカバーしてしまう彼らのお家芸であるコーラスワークものっけから気合十分だ。
「ようこそ、始めようか!」とステージに戻った渋谷が改めて呼びかけ、先程は陣形を広く取っていた4人が中央にギュッと集まる。イントロで火薬&音玉が炸裂した「スペシャル」では、その衝撃も束の間、メンバーの価値観が色濃く滲む“「普通」が 普通であるために 努力している人がいる 「信頼」なんて 気を抜いた途端に 甘えに変わる”と歌う出だしのフレーズが聴き手の心を掴む。「証明」へと続くにつれて一段とパワフルになるバンドサウンドの中、SUPER BEAVERらしさはどんどん強度を増していく。
「しっかり届くように歌いますんで、しっかり届くように俺たちにも伝えてください。よろしくお願いします!」
曲の歌詞だけじゃない。ライブ中に渋谷が発する言葉にも、一切のブレがなくてすごい。アルバム『27』(2016年発表)のリリース後、Zepp DiverCity(TOKYO)でのワンマンを観た際も“今のSUPER BEAVERはすごい!”と感動させられたものだけれど、彼らはとうとう1万人キャパの有明アリーナにまで到達してしまった。
「4人だけで大きい音を鳴らしてもライブじゃないし、なんにも面白くないってわかってるんです。俺たちの音楽があなたの中に入り込んで、あなたの気持ちになって、あなたが想いを投げ返してくれて、俺たちがキャッチして、また音楽に変えてあなたに届ける……それこそが、俺たちにとってのライブだから。俺たちは今日、明確な意志を持ってこの場所に立ってる。あなたがなぜ来たのか、なぜここにいるのかを、俺たちに少しでも教えてくれるのなら、2時間かけていっしょに最高の音楽を作れそうな気がします」
最初のMCタイムで渋谷はきりりと言い切った。メンバー4人+“あなた”が居てこそ、SUPER BEAVERの音楽は成り立つ。その考え方もやはり一貫しているし、この4階席まである広い会場に集まった1万人の一人ひとりと向き合おうと臨む姿勢が素晴らしい。“あなたたち”ではなく、“あなた”のために。本気でそう奮起する彼らが次に鳴らした、柳沢の明るいギターカッティングから始まる「ラヴソング」でも、“幸せになって欲しいんだ”とストレートな願いが歌われる。“誰も知らないところでさ 懸命に戦ってるだろう”というラインは先の「スペシャル」と絶妙にリンクしていたりと、エネルギーの循環みたいなものが早くも実感できて驚くばかり。
「突破口」になれば、上杉と藤原を軸に刻むビートが加速し、“今をやめない やめない やめない”と、ここでもバンドの生きざまそのものと言えるメッセージが猛然と迫ってくる。ささくれ立った感情や荒々しいサウンドが混ざり合う「VS.」では、ステージ前方から火柱が上がり、レーザーが激しく飛び交い、エレクトリックなエフェクトが場を彩るというド派手な演出も。そして、柳沢が「もっと来いよ!」とオーディエンスをジャンプさせつつ、メタリックで熱いギターソロを決めてみせた。
「今日は1万人を超える人生がクロスオーバーしてるんだけど、すごくロマンチックだなと思うんです。自分は基本的に自分の人生しか生きられないものだし、こんなふうに他人の人生が交わる瞬間なんてそうそうないでしょ? この規模で俺たちの音楽がひとつの点になって、あなたの人生とクロスオーバーするような奇跡がもし起こせたら、それは最高なんじゃないかな」
約18年。ずっとライブハウスで育ってきたSUPER BEAVERが、この巨大なアリーナ会場に立っている理由を渋谷はそう話す。
「SUPER BEAVERの音楽はレコーディングして、パッケージングして、それがあなたの手元に届いて完成ではないです。というか、完成はない! 日々いっしょにライブをやることで形を変えていく」とも伝えるなど、バンドの誠実さがいっそう際立ってきたところで、最新曲の「ひたむき」へ。“いつだって今日が人生のピーク”の叫びが、物の見事に渋谷の発言とちゃんと共振していて嬉しくなる。また、同じく歌詞にあるような“自分なんて”と迷ってしまう人たちの心も、この曲でいよいよ完全に解き放たれた感じがした。
出会いの喜びを噛み締めて“会いに来たよ”とも歌い替えた「名前を呼ぶよ」以降の中盤は、場内の照明がだいぶ落ち着き、より深く感情移入できるナンバーが続く。「未来の話をしよう」の前には、「この先のライブの予定とか、楽しい集いとか、そういう約束は生きていないと叶えることができない。だから、俺たちはしつこいぐらいに何度もあなたと明日の話をしたいと思ってます」と渋谷が告げ、まさに対話をするような歌を披露。聴き手をやさしく包み込み、悲しみや後悔に沈んだところからも希望が描けると信じさせてくれる。
約3年に及ぶコロナ禍の日々を振り返りながら、「本当に大切なものが何なのかを考え続けた」と渋谷は言う。あなたのことをどれだけ大事に思っているか。これからどれだけ大事にしたいと考えているか。そんな想いを存分に込めた「人として」が、大きなグルーヴをもって歌詞字幕とともに演奏される。“信じ続けるしかないじゃないか 愛し続けるしかないじゃないか”——SUPER BEAVERというバンドはそうやって泥臭く、愚直なほどまっすぐにここまで歩んできたのだと改めて実感させられ、ついつい涙腺が緩んでしまう。
「(有明アリーナは)ずいぶんとデカいです。だとしても“ライブハウスより届かなかったよ”と言われたら、もうここではやりません」
“「信頼」なんて 気を抜いた途端に 甘えに変わる”と歌う彼ららしい、自らを戒めるような渋谷の宣言を経て、暖色系の光のもとで演奏されたのは、レアな選曲となった「your song」。そのくらいストイックに届けてくれるからこそ、一曲一曲に賭ける熱量が尋常じゃないからこそ、聴く側も自分に歌ってもらえていると信じられるのだ。
「ぶーやん(渋谷)も言ってたけど、今日は1万人を超えてるんですよ。関わってくれるスタッフを含めて、(ここにいる人の)唯一の共通点はSUPER BEAVERじゃないですか。それってすごいことだし、めちゃくちゃ嬉しいことだなと思います!」(柳沢)
「まだまだ世の中は大変なことがいっぱいありますけど、こういう一日をいっしょに作れたのなら、来年も楽しみになっちゃうなってぐらい最高ですよ。これからもよろしくお願いします!」(上杉)
「(渋谷に「ウチのかわい子ちゃんです!」と紹介されて照れ臭そうに)最近よく言ってくるよねえ。ま、ちょっと嬉しいけど(笑)。いやいや、本当にありがとう。音楽最高だね。バンド最高だね。あなたも最高だよ!」(藤原)
柳沢、上杉、藤原もそれぞれ感謝を伝え、ライブは後半へ進む。オーディエンスの手拍子を味方につけ、入りのアカペラ部分をオフマイクで歌った「美しい日」では、渋谷が再び花道に颯爽と駆け出す。“今日までの 道のりがさ 正しく最短だったのかって わからないけど なんとなく これで良かったと思っている”“僕は 人に生かされて 人と生きている”というドラマチックな歌詞がこの瞬間にマッチしすぎていて、有明アリーナが興奮のあまり激しく揺れた。
さらに、会いたい人に会えないコロナ禍で発表された「アイラヴユー」、あなたが好きなことをやってほしいと願うメッセージソング「秘密」と、誰ひとり取り残さず幸せにしたいという気迫で演奏する4人。客席の1万人も拳を振り上げてヒートアップし、エネルギーを送り合う。
冒頭に書いた渋谷のMCは、その美しき相互作用のあとに語られ、「やりたいことがある人も、もちろんない人もいると思う。どっちが素晴らしいという話ではなく、自分で考えた気持ち、自分で起こした行動を尊敬してるし、そんなあなたに支えてもらってるバンドです。だからこそ、俺はSUPER BEAVERがマジで好きです。あなたが好きって言ってくれるから。さんざっぱら支えてもらいましたんで、この時間は俺たちが命を懸けて助けます!」と続いた。
何度も助けられた。それは観ているこちらも同じ。“愛されていて欲しい人がいる”と始まる人生賛歌「東京」で会場のムードがグッと過熱すると、柳沢と上杉も花道に出た歓喜の「青い春」では有明アリーナが完全にライブハウスと化す。
「あなたしか歩めない人生へ。どうぞ、いってらっしゃい!」という渋谷のひと声から、本編を締め括ったのは「最前線」。吹き上がる銀の紙吹雪に乗せて“情熱に幸あれ”と歌う、現実逃避のためじゃない、自分の人生と向き合っていくための音楽を餞のように贈り、SUPER BEAVERの4人は清々しい表情でステージを降りた。ここまで徹頭徹尾やり切ったライブをするバンドもそういない。
アンコールでは、この日の感触をオーディエンスが生活に持ち帰れるように、再会できることを誓うように「ロマン」を披露。“それぞれに頑張って また会おう”と日常へと送り出してくれるエンディングまで、圧倒的なパフォーマンスを繰り広げたSUPER BEAVER。4人の哲学、情熱、誇りが輝いてやまない、彼らにしかできない最高のライブだった。
SET LIST
01. 東京流星群
02. スペシャル
03. 証明
04. ラヴソング
05. 突破口
06. VS.
07. ひたむき
08. 名前を呼ぶよ
09. 未来の話をしよう
10. 人として
11. your song
12. 美しい日
13. アイラヴユー
14. 秘密
15. 東京
16. 青い春
17. 最前線
ENCORE
01. ロマン