HYDE LIVE 2022 BEAUTY & THE BEAST supported by EdgeTechプロジェクト
2022年9月11日(日) Zepp Haneda
コロナと向き合って約3年――。世界を見渡せば、会場の感染対策も来場者に対する制約もないなかでの開催が“当たり前”となってきた昨今の音楽ライヴシーン。そんななか、9月11日、HYDEが東京・Zepp Hanedaにて<HYDE LIVE 2022 BEAUTY&THE BEAST>(オールスタンディングの1階前方エリアは男性。1階後方エリアと2階席は女性エリア)を開催した。いまもマスク着用、声出し禁止などのガイドラインに従い、ルールを守りながら音楽ライヴを開催している日本のライヴシーンで、Stagecrowdを通して全世界に生配信されたこの日の公演。HYDEはそこで、ルールを破ることがロックではない。この環境を逆手に取れば、コロナ禍でもここまで芸術的でクレイジーなライヴができるんだということを世界中の人々に叩きつけて見せたのだ。これこそ、HYDEのANTIスピリッツの極み。HYDEという日本のアーティストが、そのHYDEを愛する音楽ファンが誇らしくて、本当に感無量の一夜だった。
一夜にしてこのショーができた訳ではけっしてない。ここにたどり着くまでの3年間。HYDEは規制やルールを徹底的に守り、感染者を出すことなく、いまあるライヴ空間でどうファンを楽しませられるのかを考えに考え抜き、努力して成功例を積み重ねていった。
始まりは本公演と同じZepp Hanedaだった。<HYDE LIVE 2020 Jekyll & Hyde>を行なったときはAcoustic Dayでは着席で50%以下の収容人数で、Rock Dayでは2階席のみ都内在住のFC会員限定でチケットを販売し、1階には生配信を観ている視聴者を映し出す大型パネルを設置して、フロア全面を使ってアクトをするショーを生み出した。そして<ANTI>をアンプラグドに落とし込んだ<HYDE LIVE 2020-2021 ANTI WIRE>では、各地のホール&アリーナにおいて着席50%キャパで、オーディエンスに声の代わりにクラップや打楽器の持ち込みを推奨。音でのライヴ参加を楽しませた。
ソロ20周年に突入後は、20年前にリリースしたがこれまでほとんどライヴは行われてこなかったあの伝説のソロ1stアルバム『ROENTGEN』初のツアー<20th Orchestra Tour HYDE ROENTGEN 2021>を、まさにこの時代にぴったりなオーケストラと着席スタイルという新たなライヴ形式で100%キャパで実演。このオーケストラスタイルを使って平安神宮公演、“HALLOWEEN”や“黑ミサ”も開催してみせた。
そして、2022年6月。3年ぶりに待望のオールスタンディング形式でのロックライヴへ、HYDEは挑んだ。まずは各地ごとにROTTENGRAFFTY、coldrain、Dragon Ash、THE ORAL CIGARETTES、GASTUNK、TOTALFAT、Crossfaith、CVLTE、NOISEMAKER、追加公演ではASH DA HEROを招き、対バンをしながら<HYDE LIVE 2022 RUMBLE FISH>を行なった。対バンを重ねるごとにステージ演出、観客の暴れかたはどんどんエキサイト。そしてスタンディング60%からスタートしたキャパはそれまでの実績が認められ、ついに100%のフルキャパが実現。9月7日、8日、10日、HYDEは満を持してワンマンで<HYDE LIVE 2022>をZepp Hanedaで行ない、その最終日。9月11日に本公演<HYDE LIVE 2022 BEAUTY&THE BEAST>へとたどりついたのだ。
コロナ禍のなか、HYDEとファンが創り上げてきた熱狂のパラダイス。その決定版となる本公演は「SET IT STONE」で幕を開けた。“666”とステージに浮かび上がったところからカウントダウンが始まり、これが“000”になった瞬間、そこにHYDEが映し出される。蛍光色でペイントされた部屋のなか、至近距離でカメラ目線を送り、フロアにいる観客と生配信で観ている画面の向こう側の視聴者を瞬殺していくのはHYDEお得意技。目はブルーに発光。人間なのか、あるいはモンスター、神なのか。そんな人間離れしたHYDEが曲の終わりに、マイクをピストルに見立て、自らを撃ち抜くと、ステージには架空の近未来都市“NEO TOKYO”の夜景が広がるシーンで、冒頭から観客の度肝を抜く。しかも、その街が細やかに変化していくのだから、とにかく手が凝っている。さっき映った部屋と同じように、蛍光塗料でペイントされたステージに、フェイスマスクをつけた4人の男が神輿を担いで登場。神輿の上には、玉座に座ったまま「LET IT OUT」を歌うHYDE がいる。誰も足元に寄せ付けないような、圧倒的な存在感とオーラに包まれている。ステージ上でテクニカルな演奏を続ける楽器隊も、全員がマスク姿。目の前に広がるこの異様な光景。まるで、近未来映画を観ているような演出でインパクトを与え、オーディエンスを刺激していく。
玉座から立ち上がったHYDEは、NEO TOKYOのステージに静かに降臨すると、白煙が吹き上がるなか、いきなり「AFTER LIGHT」、「DEFEAT」のスピーディーなハードロックチューンで連発で襲いかかる。フロアはすぐさま熱狂の一体感に包まれる。HYDE のヴォーカルは、シャウト一辺倒で攻撃するだけではない。「DEFEAT」の中間パートはお立ち台に四つ這いになり、ブレス音を入れたひと声で、さっきまでジャンプや折りたたみで騒いでいた観客の熱狂をストンとダウンさせたり。NEO TOKYOに雨が降り注ぎ、『ブレードランナー』を思わせる背景をバックに始まった「FAKE DIVINE」では、イントロに変幻自在のフェイクで軽くからんだあと、ギターがアルペジオを奏で出すと、すぐに艶っぽい華麗な美声に切り替え、曲の世界観に歌を寄り添わせてみせた。「ON MY OWN」ではオートチューンをかけた声でエレクトロなサウンドをのりこなしたあと、渾身のデスヴォイスで地鳴りのするようなシャウトを轟かせるなど、シネマティックな演出の迫力もさることながら、それ以上に際立っていたのは、このシネマの主人公をつとめるHYDEの歌だった。
上手いのは当たり前。その上でさらに、歓声がないいまの世界だからこそ、テクニカルに喉を操って歌に緩急をつけ、様々な声色、歌唱法を曲のなかで魔法使いのように使い分けていくHYDEのテクニック、歌唱はロックシンガーのなかでは群を抜いた凄さで、衝撃的ですらあった。そのテクニックをまざまざと体感したのが次のロックバラード「THE ABYSS」。シャウトでごまかすことなく、苦悩する主人公の姿をファルセットの吐息までを丁寧に心を込め、歌いあげていく姿に、オーディエンスは息をするのも忘れて感情移入していった。
そのあとは、ステージが真っ赤に染まり、「INTEPLAY」が始まると、ジャンプやヘドバンでフロアの一体感を呼び込み、天井まで白煙が吹き上がるなか、続けて新曲「PANDORA」を叩きつけた。
ここまでノンストップで走り抜けたHYDE。本来なら1階フロアから立ち上がる男たちの野太い歓声を聞きたいところだが、それでも「今日は拍手が重いよ。野郎がいるのが伝わってくる」といって、この日集まったBEASTたちをまず讃えたHYDE。さらに、本来ならぐちゃぐちゃになりたいところだが「ルールを守って。それでも、存分に暴れてもらいますから」と客席に煽った。そうして、今日のライヴは世界中のお茶の間に配信されていることを告げ「僕の狂った芸術をお見せしたいと思います」と話したHYDEは、そのあと一息置いて「3年…耐えてきた俺たちです」とオーディエンスに話しかけた。真実味がありすぎて、ズシンと言葉が胸に響いた。「その間、1人でも感染者が出るとパーになるなか、成功を積み重ねて俺たちはここまでたどり着いた。分かるか?」。いつも以上に熱を内包したHYDEの言葉。そのあと「何もわかってない外野は引っ込んでろ!」と吐き捨てた瞬間、この言葉で、ここまで耐えてきた心が解き放たれた。
そこに「MAD QUALIA」。イントロだけで気持ちは大暴れ。その気持ちを分かってるぞというように、スピーカーにどんどんよじ登って、暴れていくHYDE。その頂からフロアを眺め「今日は頭おかしい人ばかりが来てるんだから、今回ね、コロナ禍で発明した“3、2、1,GO”っていったらその場で回るの、やってみて。かなりのカオス感が味わえるから」と、対バンツアーで見つけた、この時代に合った新しい暴れかたを伝授。そうして、HYDEの合図で観客全員が一斉にくるくる回転する姿はまさにカオス。HYDEが拡声器を構え、バスドラの上に立って歌う「SICK」、全員をフロアにしゃがませ「“3、チュー(2)、1”で一番高くジャンプした人にキスしてあげる」というセリフでも観客を悶えさせた「ANOTHER MOMENT」では、ステージに4体の巨大エアダンサーも登場し、クネクネ大暴れ。未発表曲「6or 9」はタオルを回し、VAMPS時代の「LOVE ADDICT」はHYDEがギターをかき鳴らすなど、次々と違うアトラクションを繰り出し、ライヴを楽しませていくHYDE。この後のMCでは、対バンツアーを「最初はやるかどうか迷った」と告げた上で「やってみたら、俺、身長小さいけど(笑)、毎回“俺、ちっちぇな”と思った」とそのときの心情を打ち明けた。”HYDEを倒せ“という勢いで本気で挑んでくる対バン相手に刺激を受けながら、彼らのいいところを全部取ってやるという気持ちで「俺たちの音楽を信じて戦ってきた」というHYDE。その結果、自分たちのライヴがどんどんヤバくなり、当初やる予定のなかった9月のZepp Haneda公演を急遽決行し、「これ、いま世界に流したほうがいいよ」という思いから、2階の観客はスマホでの撮影OK、SNSを通じてそれを公開することを許可。それとともに、インスタライヴ、映画館、ストリーミングサイトを使って、日々のライヴを生配信してきたのだ。こうして、スタンディングの会場において制約がまだまだある中ではあるが、100%のフルキャパでここまで狂ったライヴができることを、全世界に向けて証明したHYDEは「この後は他のバンドに引き継いでもらって。声出せるようになったら、また”BEAUTY& THE BEAST”やろう。それまで待ってて」と、オーディエンスと再開の約束を交わした。そうして「人生、思ったよりも短くて。俺はライヴに関してはまだやりたいことがいっぱいある。もっとクレイジーなライヴをやりたいから。これからも自分を信じて突き進んでいく」と伝え、それをみんなに誓うように「BELIEVING IN MYSELF」を熱唱。「さあ、お楽しみはここからですよ」とHYDEがいうと、ステージにはキーボードの前に新しくドラムセットが登場。ドラムヘッドにはダクトから滴り落ちる水が溜まり、スティックを振り下ろすと水しぶきが飛び散るのだが、これがめちゃくちゃカッコいいのだ。そのドラム台に足をかけ、HYDEはフラッグ片手にVAMPSの「UNDERWORLD」を投下。
Slipknotの「DUALITY」のカヴァーでは、金属バッドでビア樽をパーカッションに見立てて叩き、金属音を響かせたHYDEは最後、水が溜まり、下からライトアップされたドラムヘッドに向かってダイブ。ダクトの水を自ら頭から浴びにいき、上半身はびしょ濡れ。そうして「BEAUTYちゃんもBEASTちゃんも全部出していけ。悔いを残すな」と叫んでVAMPSの「BLOODSUCKERS」へ。白煙が吹き上がると同時に、NEO TOKYO街をサーチライトが照らし始めると、ステージでもサーチライトが灯り、客席を照らす。舞台に目を向けると、ジャケットを脱ぎ捨てたHYDEが床に寝転がりながら、カメラ目線でシャウトをしている。そうして、ラストは「MIDNIGHT CELEBRATION II」。身悶えながら、荒々しく声を歪ませて、叫ぶように絞り出す歌はこれまでの曲とは激変。歌とともに最後はパフォーマンスも大暴走。バンドが鳴らす爆音に導かれるようにドラム台に勢いよく飛び込んだHYDEは、そこにうつ伏せになり、寝転がって荒れ狂いながらドラムを蹴散らし、破壊を繰り返していく。これを観たフロアも、もちろん盛り上がらない訳がない。
こうして、ステージ上もオーディエンスもどんどんカオス化していったところで、HYDEはフラフラになりながらバンドメンバーを次々と引き寄せ、マスク越しに熱いキスをプレゼント。最後はバスドラの上に立ち上がり、“えいやっ!”の大ジャンプをきめて、ステージを締めくくった。「また帰ってくるから。首洗って待ってろよ」というファンにとっては最高のセリフを残してHYDEはステージを後にした。
SET LIST
01. SET IN STONE
02. LET IT OUT
03. AFTER LIGHT
04. DEFEAT
05. FAKE DIVINE
06. ON MY OWN
07. THE ABYSS
08. INTERPLAY
09. PANDORA ※新曲
10. MAD QUALIA
11. SICK
12. ANOTHER MOMENT
13. 6 or 9
14. LOVE ADDICT
15. BELIEVING IN MYSELF
16. UNDERWORLD
17. DUALITY
18. BLOODSUCKERS
19. MIDNIGHT CELEBRATION Ⅱ