特別公演「君と僕だけが知らない宇宙へ」
2022年9月22日(木)中野サンプラザホール
一大ロードムービーを観ているような長さ、濃さ、中身の凄さ。現時点における銀杏BOYZの、人間・峯田和伸の「集大成」と言いたくなる曲数をやり遂げた。気づけばトータル3時間超えの内容に言葉も出ないほど、打ちのめされてしまった。
ライヴ中に峯田はかつて中野に住んでいたことがあり、来年に中野サンプラザが取り壊される事にも触れ、ジョン・ライドン率いるPiL、NIRVANA、KING CRIMSONなど海外アーティストがこの会場でライヴを行ったことにも言及。今日は思い出の地・中野サンプラザに、すべてを置いていくつもりで、峯田はこのステージに挑んだのではないだろうか。
今年3月に初のアコースティック・ライヴツアー「僕たちは世界に帰ることができない☆」で全国6カ所を回った銀杏BOYZが特別公演「君と僕だけが知らない宇宙へ」と題して、約6年ぶりとなる中野サンプラザ(東京)、バンド初となるオリックス劇場(大阪)にて2公演を開催。前回のアコースティック・ライヴツアーのレポートで「今後はバンド/アコースティックの2つのスタイルを導入してほしい」と書いたが、この中野でのライヴはまさに両方のスタイルを取り入れた形式で行われた。
(参照:銀杏BOYZ、バンド編成ツアー開催中。良質なメロディで雄弁に語りかけてくるアコースティックライヴ)
アコギ主体の第一部、エレキ主体の第二部からなる二部構成となり、楽曲の響き方がまた違って聴こえたりと、新鮮な驚きを感じる場面も多かった。
峯田のアコギ弾き語りによる「人間」で始まると、次の「NO FUTURE NO CRY」の途中から山本幹宗(G)、加藤綾太(G)、藤原寛(B)、岡山健二(Dr)が参加し、温かくも厚みが増したバンド演奏を届ける。「25年前に作った曲やります。恥ずかしい時期を過ぎて、曲の方から歌ってくれと言う」と告げると、「YOU&I VS.THE WORLD」を披露。曲をやり終えると、「サンプラザに19歳の情熱、怨念? フワ〜と昇華した」と付け加えた。また、「自分でも大好きな曲」と伝えて「夢で逢えたら」、さらに「I DON’T WANNA DIE FOREVER」と珠玉のメロディを炙り出すアコースティック・バージョンに心を激しく揺さぶれるばかりであった。
フジファブリックの志村正彦、スターリンの遠藤ミチロウ、オナニーマシーンのイノマーの名前を出し、「気持ちよく聴いてくれたらいいなあ・・・はい、湿っぽくなった。肉体がなくても隣で聴いてくれてる。久しぶりに歌おうかな・・・」と切り出し、「漂流教室」へ。ドリーミーなイントロを経て、天に駆け上がるスウィートな美メロが照り輝く。「君の涙をいつか笑顔に変えてくれ」、「はやく はやく こっちにおいでよ 君と僕は一生の友達なのさ」という歌詞が胸に突き刺さった。そして、Dr.kyOn(Key)を迎えた「東京」も特筆すべき素晴らしさで、自然と涙が溢れてくるほどであった。峯田は時に荒々しく、時に優しく歌い上げ、情景が浮かぶ歌詞にありったけの感情を込めていく。個人的には今日のハイライトの一つと言ってもいいだろう。
第二部に入ると、峯田はリッケンバッカーを持ち、あのノイジーなバンド・サウンドを炸裂させる。第一部のアコースティックとのギャップだろうか、銀杏BOYZのカオティックな演奏はよりパンチ力を高め、全身の細胞がざわめくような興奮に包まれてしまった。峯田は容赦なく叫びまくり、楽曲に生命を吹き込んでいく。怒涛のパンクチューン「駆け抜けて性春」ではステージに寝転んだり、あるいは、ひざまずいて歌い上げる峯田。そう、以前の銀杏BOYZらしい破天荒なパフォーマンスで飛ばしまくる。
後半、「俺はバンドを2回破滅に追いやっていて・・・(場内から笑いが漏れる)」と峯田は切り出し、以前は銀杏BOYZ(オリジナルメンバー在籍時)のライヴで10分前までセットリストが決まらない夢を2、3年見ていたという。しかし、近頃は今のサポートメンバーでステージに立つ夢を見るらしく、「今日、俺は夢に見た場所にいる」と誇らしげに語る姿が印象的だった。そこにはGOING STEADY〜銀杏BOYZとこれまでのバンド人生で起きたすべてを受け止め、前をキッと向いた峯田がそこにいた。今回の中野サンプラザ公演はお世辞抜きで「伝説」の名に値するショウとなった。9月28日に行われるオリックス劇場公演は、絶対に観た方がいい。これまで見たことがなかった、新たな銀杏BOYZに出会えるだろう。