デビュー10周年のタイミングでリリースされる本作には、「あたしの心臓あげる」「虎視眈々と淡々と」「解放区への旅」「檸檬の棘」など全作品の表題曲のほか、ベスト盤と同名の書き下ろし小説とリンクした新曲「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる」などを収録。デビューから10年間の軌跡、そして、この先の黒木渚のビジョンを示す濃密な作品に仕上がっている。2022年7月8日(金)には東京国際フォーラム ホールCでワンマンライブ『黒木渚 ONEMAN LIVE 2022「予測不能の1秒先も濁流みたいに愛してる」~100周年記念ワンマン~』も決定。ベストアルバムの制作を軸に、この10年の軌跡とライブへの意気込みを黒木自身の言葉で語ってもらった。
編集の方からいただいたお題ですね。去年、短編の官能小説を書いたんですが(『小説現代』2021年7月号に寄稿した「げんざい」)、それも「ちゃんとエロいやつを書いてください」という編集者の依頼だったんです。それが高校生の話だったので、今度は「ちゃんと“青い”青春小説を書いてみませんか」というお話をいただいて。私も「今のうちに青春の残像を念写しておきたい」と思って、お引き受けしました。
私自身、“汗と涙と青春、キラキラ!”みたいな体験をしてないので(笑)、そういうものは書けないんですよ。すごい陰キャだったし、学校の雰囲気も恋愛に夢中になるような感じではなかったので。お付き合いしていた人はいたんですけど、“違うクラスの彼と文通”ですから(笑)。小説で描いているのは、もっと普通の高校生ですね。
これは私に似てますね。私が音楽を始めたのは大学のサークルだったんですけど、当時の彼氏がギタリストで、一緒に練習したり、二人の時間を持ちたくて始めたところもあって。彼がどこかに行ってしまったときに、自分の主軸がじつは音楽だったことに気付いたんですよ。別れた直後のライブは大変でしたけどね。二人でステージに立つはずだったのに、彼が来なかったから、全然弾けないギターを持って一人でライブをやって。2コードでオリジナル曲を5曲歌って(笑)、「もう音楽はやめた」と思ってたら、ライブハウスの方から「来月もやってほしい」と言われたんです。
小説のなかでシッポちゃんが曲をどんどん生み出して、それが私のなかで立ち上がってきて。10周年のベスト盤だけど、今までのシングルやアルバムの表題曲だけではなくて、新曲を作ることでこの10年を回収すべきだなと思ったんですよね。なので「予測不能の~」という楽曲は、シッポちゃん発信です(笑)。このタイトルは、小説を書き出したときからあって、じつは題名が先に出来たんですよ。このフレーズありきで物語を書き進めたし、それが楽曲にもつながって。ふだんはタイトルを最後に付けることが多いので、真逆ですね。
ありますね。たとえば隕石が頭に当たったとしても、「そういうこともある」と納得しかねない(笑)。
そうやって何かが起きるたびにちゃんと濁流にのみ込まれるんですよ。こんなのもうこりごり!って思うんだけど、結局それが好きだし、馴れちゃってるんですよね。すべてが物語めいているというか、予測できないようなことが起きても「はは~ん、これは何かの伏線だな」と思っちゃう(笑)。喉を壊したときもそうですけど、最後は音楽や小説になるから、結果オーライかなと。
ありがとうございます。“シッポちゃん”も幼少期からスポットライトを追いかけているんですけど、それは私の感覚でもあるんです。小さい頃から“光”が見えていたんですよ。将来の夢を聞かれると、親や先生の手前、お医者さんとか弁護士って言ってたんですけど(笑)、本当はずっと“光”しか見えてなくて。ずっと「これは何だろう?」と思っていたんですが、渋谷公会堂の舞台に立って(2014年に行われたワンマンツアー「革命がえし」のファイナル)スポットライトを浴びたときに「これだ!」って一致して。
そうなんです。でも、喉を壊して満足に歌えなかった3~4年間は、光が消えてたんですよね。そのことにもゾッとしたんですが、「檸檬の棘」(2019年)を出した頃にまた戻ってきて。私にとっての“光”は、未来は明るいという精神性の指標みたいなものなんだろうなと。
そうですよね(笑)。アレンジは宮田“レフティ”リョウさんにお願いしたんですが、レフティさんは言葉だけじゃなくて、身体言語も通じるんですよ。友達としても最高だし、もちろん音楽仲間としても素晴らしい人で。「ここで転調してみよう」「ここに合唱団みたいなコーラスを入れてみたら?」みたいな感じで、いい意味でふざけながら作れるんですよね。この曲も「このタイトルなんだから、予測されちゃうような展開じゃダメでしょ!」って笑いながら作ってました。