“今の甲斐バンドが一番いい!”バンドは今、彼らにしかたどり着けない世界に足を踏み入れている。45周年ツアー東京公演をレポート!

ライブレポート | 2020.01.28 18:00

KAI BAND 45th Anniversary Tour HEROES 2019
2020年1月16日(木) NHKホール・東京

真の、本当のクライマックスはまだ先にあった。この日、「KAI BAND 45th Anniversary FINAL 100万$ナイトin横浜赤レンガ倉庫」と題した野外ライブが7月に行われることが発表されたからだ。つまり、45周年ツアーは夏まで続き、この日のライブはほぼ1年におよぶプロジェクトの、言わば折り返し点のような夜であることが明らかになったわけだ。
だからと言って、この日のステージの素晴らしさが色あせるようなことはもちろん全くない。むしろ、ライブの1本1本が常に特別な一夜になるライブ・バンドとしての本領を、そして“今の甲斐バンドが一番いい!”とさえ思わせてしまう現在の充実ぶりを強く実感することになった。

もっとも、甲斐よしひろのなかでは“それは筋書き通り”ということなのかもしれない。甲斐バンドは昨年夏、45年目にして初めてのライブハウス・ツアー「CIRCUS & CIRCUS 2019」を行ったが、そのツアーを始める時点ですでにこのホール・ツアーの締めくくりまでが見通されていたからだ。

オーディエンスの息遣いさえ間近に感じられるライブハウスの空間は、甲斐がインタビューで語った通り、“45年やってきたにもかかわらず、ある意味で剥き出しなものをぶつけないとダメな場”だから、バンドはそこで自らの初期衝動を再確認し、9本のステージを積み重ねることでバンドの核の部分を十分にたぎらせてきた。その成果を踏まえて臨んだのがこのホール・ツアー「HEROES 2019」であり、その11本目のステージとなったこの日のステージで、ここまで周到に段階を踏んできたバンドの状態が悪いはずがない。当然のように、オープニングからエンジン全開と言える演奏でオーディエンスを圧倒していった。

このツアーのセット・リストは、ツアー前にリリースされたリマスター・ベスト・アルバム『KAI BAND HEROES -45 th ANNIVERSARY BEST-』に収められた曲順通りに演奏される。ということは、オーディエンスのほとんどがそのセット・リストを予習し、思い思いのイメージをたっぷりと膨らませていたはずだが、バンドの演奏はそうしたイメージの堆積を軽々と飛び越え、この45年の間に何度も演奏されてきた曲たちに新しい輝きまでも加えていた。

例えば、『KAI BAND HEROES』に新しくレコーディングされたバージョンが収録された「らせん階段」だ。“新しい輝き”とは言っても、何か斬新なアレンジ・チェンジが施されたわけではないし、トリッキーなプレイが展開されるわけでもない。各パートのプレイはシンプルだし、基本的にはオリジナル・バージョンのアレンジに忠実な演奏なのだが、その精度と強度が月並みでないから、楽曲自体のスリリングな魅力がひときわ印象的に響くのだ。

同じく『KAI BAND HEROES』に新録音バージョンが収録された「ティーンエイジ・ラスト」も胸に残る。♪若さという階段の途中でいつかみた夢に今むかいあい/君と逃げずにたちむかう♪と甲斐が歌う時、このバンドと“若さ”や“夢”を共振させながら長い時間を駆け抜けてきたオーディエンスの共感はさらに深まり、演奏のグルーヴをいっそう増幅させていった。

この日のバンドの演奏に、ロック・バンドの成熟という命題についての一つの理想を見てとることも可能だろう。成熟した表現にはしたり顔的なまったり感が付きものだけれど、この日の彼らの演奏が連れてくる感覚はそれとは正反対の颯爽とした清々しさであり、前のめりと言ってもいいほどの躍動感だった。さらには、この日のためだけに迎えられた女性コーラス隊との共演で披露された「嵐の季節」が内包していた真っ直ぐな熱情と、ステージの最後を飾った「熱狂(ステージ)」の混じり気のないロマンティシズム。キャリアの最初から持ち合わせていた個性と45年の蓄積が相まって、甲斐バンドは今、彼らにしかたどり着けない世界に足を踏み入れている。

そんなことを感じさせてくれた先に、まだクライマックスが待っているのだ。甲斐バンドストーリーはまだまだ続く。その幸福を噛みしめた一夜だった。

  • 兼田達矢

    取材・文

    兼田達矢

  • 撮影

    三浦麻旅子

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