去る5月12日(日)、Psycho le Cémuの20周年記念ワンマンライブ『エピローグ 〜もう一つの未来へ〜「あの理想郷旅行がはじまる…」』中野サンプラザホール公演を観た。
Psycho le Cémuのことをご存知ない方のために、ライブレポートを書き出す前に少しだけバンドのことを書いておく。
Psycho le Cémuは所謂ヴィジュアル系バンドであるが、ヴィジュアル系バンドの象徴とも言える化粧を通り越し、コスプレ衣装で演奏をするコスプレバンドだ。コスプレという日本的なカルチャーを纏ったこととで、日本だけではなく、世界で注目された。実際、2004年にはアメリカでのライブを成功させている。そして、同年10月には「ニューズウィーク日本版」の特集「世界が尊敬する日本人100」にも選出された。
だが、バンドが世界での活躍を期待されていたその時に事件が起きた。
2005年6月3日、ボーカルの薬物事件によって、突如バンド継続の危機に陥った。
その後、2006年に一旦活動再開を果たしたが、結局5月7日の中野サンプラザ公演をもってバンドは無期限活動休止となり、2009年に結成10周年公演開催、2015年に活動再開を果たすまで、メンバーはそれぞれの道を歩んでいた。
その中野サンプラザで『エピローグ 〜もう一つの未来へ〜「あの理想郷旅行がはじまる…」』と題して行うライブの意味は、バンド20周年のお祝いであると同時に、あの事件へのケジメであり、バンドにとっての本当の意味での再出発であると言える。
会場に到着すると中野サンプラザの入り口前の広場では、メンバー同様にコスプレしたファン同士が記念撮影をしたり、今日のライブへの期待を口にしたり、開演前から盛り上がっている。みんなPsycho le Cémuが再び中野サンプラザのステージに立つことを心から喜び、バンドの20周年を祝福している感じが手に取るようにわかる。そんな多幸感溢れる景色を見て、今日のライブへの期待を胸に会場に入った。
17時45分。定刻より15分押して、場内のBGMが止まり、会場が暗転し「REMEMBRANCE」のピアノVerがSEとして鳴り出す。
それと同時にステージのボーカル位置がピンスポットで照らされ、ボーカルマイクに向けて、天井から白い羽が降ってきた。その瞬間、オーディエンスからどよめきの声が挙がる。この景色、13年前の活動休止の中野サンプラザホールでのライブのラストシーンの再現だからだ。
13年前の中野サンプラザホールでの活動休止ライブは、最後が「REMEMBRANCE」で、ステージに白い羽が降り注ぐ中、この曲を演奏していたが、DAISHIが声を詰まらせ、Lidaはギターソロの途中で泣き崩れしまった。
つまり、REMEMBRANCE+白い羽=悲しみの象徴なのだ。
そんなシーンの再現の中、メンバーがステージに登場。
メンバーはコスプレではなく、活動休止前ラストライブと同じ、白で統一された正装を身に付けている。
厳粛な空気の中、1曲目がスタート。「Prism」という曲で、ギターのAYAとドラムのYURAサマは楽器演奏をせずダンスをする構成で、そのダンスに合わせて、オーディエンスも踊る。
どうやら、過去の悲しみに浸っている感じではなく、いつもの、むしろいつも以上にお祭り騒ぎなライブのスタートとなった。
飛ばしまくる演奏で、ライブ前半を駆け抜けるメンバーとオーディエンス。20周年祝賀ライブとしては最高のテンションだ。
だが、10曲目でメジャーデビューシングル「愛の唄」を演奏。更に、11曲目でバンド20周年イヤーを記念してリリースされた「FANTASIA~恋の幻想曲~」を演奏して、バンドはオーディエンスに何かを伝えようとした。
この「FANTASIA」は、あの事件によりバンドとファンを裏切ってしまったDAISHIの懺悔の気持ちを謳った歌で、歌詞の中に<破滅へと向かうの?あの世界僕が終わらせた>とか<忘れかけていた“愛の唄”を掴みかけていた夢のカケラ>という言葉が出てくる。
この2曲を連奏し、事件への決着という大きなテーマに踏み込んだところで前半が終了した。
後半はPsycho le Cémuのライブではお馴染みのお芝居からスタート。
このお芝居の設定がPsycho le Cémuらしかった。
この世の果てにドラゴンが住んでいた頃という時代設定で、そこに5人の勇者が仲良く暮らしていた。だが、その内の一人が、堕天使の媚薬に手を出し、さらにアールバームなる経典を盗むという事件を起こす。ちなみに、このお芝居では、リーダーのLidaが事件を起こす役。そしてDAISHIが、そのLidaを心配し、更生させようと励ます。お芝居の中で「プレッシャーに負けて、媚薬に手を出す気持ちわかるー。でも媚薬を止めるか人間辞めるか?やで」と言ったDAISHIの台詞があり、Lidaが「お前にそんなこと言われる日が来るとは!」と返す場面があり、爆笑を巻き起こす。
実はDASIHIとLidaは幼なじみなので、実際の事件の時は、Lidaが一番DAISHIを責め、そして心配していたはずだ。
それをお芝居では立場を逆転させ、しかも笑いまで取りながら気持ちを伝えるあたりがPsycho le Cémuの真骨頂と言える。
このお芝居のこれ以上の詳細は、後日映像化の予定があるようなので、そちらに譲るが、芝居の中で、Lidaに他の4人が言葉をかけるシーンがある。ただ、その言葉は芝居の台詞ではなく、素でLidaに言葉を贈る設定で、その言葉が胸を打った。
ギターのAYAは上京当時同じアパートに泊まっていたLidaからギターの特訓を受けた想い出を語り、感謝を述べた。
ベースのseekは、Lidaが書いた「REMEMBRANCE」が好きで、Psycho le Cémuに加入した話をし、故郷・姫路を飛び出し東京に来て2006年、13年前の涙の「REMEMBRANCE」からこうして再び5人で中野サンプラザに立てることに感謝した。
DAISHIは、幼なじみのLidaとの想い出を小さい頃から順番に挙げていった。そして、“事件のあと、面会に来て、坊主で丸々太った僕を見て笑ったのを覚えてますか?”“13年前のあの「REMEMBRANCE」の演奏の最中に『お前も頑張れよ!』と言ってくれたのを覚えてますか?”と語りかけ、忘れられない想い出と共にLidaへの心からの感謝を表した。
ドラムのYURAサマは、僕の人生において僕を笑顔にしてくれた回数が一番多いのがリーダーなので、YURAサマ大賞を差し上げます!と勢いよく締めくくった。
そんなメンバーからの言葉を受けてリーダーであるLidaが、ここからまた5人で新しい未来へ向けて頑張って行こうと高らかに宣言。
こうして、5人は再び絆で結ばれ、新しい未来の扉を開けた……。
そして、会場からは温かい、大きな拍手が自然と巻き起こった。
そんな風にPsycho le Cémuの新たな輝かしい未来への扉が開き、ライブは後半の演奏に突入。
後半は全9曲。
後半の2曲「BLADE DANCE」「JUNGLE×JUNGLE」はメンバーが楽器を持たずダンスをするスタイルで、オーディエンスを躍りまくらせる。
残りの7曲はバンド形態での演奏。Psycho le Cémuはコスプレ、ダンス、お笑いといった部分だけが注目されがちだが、個人的にはバンドとしてのタイトな演奏がとても好きだ。しかも、メンバー全員楽器をプレイする姿が本当に絵になる。
そんなバンドプレイとDAISHIの圧倒的なボーカルでオーディエンスのテンションもマックスで、激しいヘドバンで曲と演奏を全身で悦楽している。
更に、メンバーもMCで煽る。
AYAは「Psycho le Cému20周年おめでとう。飛ばしていくぞ、中野!!」と煽り「あきらめないDAYS」をぶちこみ会場を一つにした。
seekは「ここから始まる未来に向かって思う存分暴れて行こう!」と叫び「Revenger-暗闇の復讐者-」というハードなナンバーで中野サンプラザをライブハウスへと変えた。
メンバー全員の気持ちの入ったテンションの高い演奏は本編最後の「妄想グラフィティー」まで続き、満員のサンプラザを揺らした。
そして、アンコール。
全4曲で、3曲目の「Murderer・Death・Kill」ではseekがフロアに降り、会場内を練り歩きながらオーディエンスを煽る。
会場のテンションがマックスに達したところで最後の曲へ。
最後はやはり「REMEMBRANCE」。
ここで白い羽が上空から再び舞った。シーンとしては13年前と同じだが、13年前の悲しみの「REMEMBRANCE」とは全く違う喜びと祝福と希望の「REMEMBRANCE」だ。そして曲の最後に、バンドの20周年と、輝かしいこれからの未来を祝して銀テープが放たれ全24曲の演奏が終了。
メンバーがステージ中央に集まる。
YURAサマが「最高ですよ!!!Psycho le Cémuはここからどんどん続いて行きます。そして最高の記録を更新して行きます。だから僕らに付いてきてください!!」と声を発した。
ステージ上のメンバーも、会場のオーディエンス全員が最高の笑顔だった。
そして、改めてメンバー各々がオーディエンスへの感謝や決意をそれぞれ告げた。
先ずAYAが「今までで一番いい『REMEMBRANCE』が弾けました!!ありがとう!」と嬉しさと感謝をにじませた。
続くDAISHIは「活動休止ライブとなった中野サンプラザに5人でまた立てるとは思っていなかったです。本当にどうもありがとうございます!!」と、支えたくれたファンに感謝を示した。
YURAサマは「人生楽しく!」とシンプルにバンドの未来を示した。
リーダーのLidaは「中野サンプラザに帰ってきました。13年前は悲しみの『REMEMBRANCE』だったけど、悲しいのは今日で終わりです。これからは笑顔で、元気で行こう!」としっかり前を見た。
そして最後にseekがPsycho le Cémuの果たしていない夢=武道館ライブへの想いを語った。「まだ僕らには夢がある。どうしても手が届かない夢がある。日本武道館。日本武道館にみんなを連れて行くまではあきらめない!」と語り会場からひときわ大きな拍手が起きた。
そう「理想郷旅行」は再び始まったのだ。
ステージを去るメンバーも、そして拍手を送るオーディエンスもみんながずっ
と笑顔なのが印象的だった。
音楽は最後に笑うためにあるものなのかもしれない。そんなことを感じさせく
れた全24曲、3時間のライブだった。
この笑顔全開のPsycho le Cémuで20周年を駆け抜けて欲しいし、完全復活を遂げたこの後、6月の「PLC Home Party」、7月のワンマンライブ、8月〜11月の対バンツアーでの5人の本気の暴走が楽しみで仕方ない。
SET LIST
01. Prism
02. 激愛メリーゴーランド
03. クロノス
04. インドラの矢
05. Mind Core
06. 道の空
07. one day
08. LOVE IS DEAD
09. 聖~excalibur~剣
10. 愛の唄
11. FANTASIA~恋の幻想曲~
-芝居-
12. BLADE DANCE
13. JUNGLE×JUNGLE
14. あきらめないDAYS
15. You&Me
16. 奇跡を知る僕らは五線譜に咲く希望を唄う
17. Revenger -暗闇の復讐者-
18. ノスフェラトゥ
19. LAST EMOTION
20. 妄想グラフィティー
En
01. ファイティング!
02. STAR TRAIN
03. Murderer・Death・Kill
04. REMEMBRANCE