「還暦記念 BIRTHDAY LIVE」
2019年1月26日(土) LIQUIDROOM
昨年のデビュー35周年記念ライブ直後に、ザ・ストリート・スライダーズの相棒だった土屋公平とのユニット、JOY-POPSの18年振りの復活と全国ツアーを突如発表し、30本以上のライブツアーをソールドアウトさせまくり、その不動の人気と実力の凄さを見せつけてくれた村越弘明。
去年はスライダーズデビュー35周年イヤーという事で、村越も僕らファンもまさにJOY-POPSに明け暮れた1年という感じで、全国の新旧のファン達を往年のスライダーズの名曲の数々(新曲も素晴らしかった)で心から堪能させてくれた。
そんな派手な1年だったので、今年の村越の動きに僕らファン達は興味津々で注目していたのだが、まずは年始早々に村越の60歳の誕生日でもある1月26日に還暦記念のライブをバンドで行うというニュースを知った。メンバーも五十嵐JIMMY正彦(G)、市川JAMES洋二(B)、鈴木ZUZU将雄(Dr)という村越にとって全員旧知の仲であり、なおかつ最強タッグとも言えるこのJAMES BAND3人を迎えての一夜限りの特別ライブという事なので、年始早々勝手に期待値をアゲまくって恵比寿リキッドルームに向かった。
会場は当然完売御礼の超満員。以前にも書いたが村越のお客さんは昔から開演前にコールしたり声援をあげたり騒いだりする事がなく、みんな比較的静かに(年齢もあるが)それぞれ勝手に始まるのを待ってるという感じなのだが、この夜はいつもと違い会場全体が村越60歳のお祝いムードというか、パーティー会場のようなざわめきとハッピーな温かい空気が会場を包みこんでいた。いつもの村越のライブに漂う、どこか緊張した空気もほとんどなく、お客さんもみんな笑顔で村越のバースデーとこれから繰り広げられるライブを思う存分楽しもうという雰囲気が漂っていた。
そんな今までにはなかった空間がライブ前に自然に出来上がっていた時点で、「今夜はきっと特別なライブになるだろう」と僕は思った。
ほぼ定刻に客電が落ち、大歓声の中、笑顔の村越と、メンバー達がステージに現れた。さっそく沢山のお客さんから「おめでとう!」という大きな声援が上がりまくる。村越はしばらくギターを抱えようとせず、ゆっくりとその温かな客席を見渡しながら、「サンキュー!」とテレくさそうに微笑みながらそれに応えていた。
「オレ達のハリーが、今オレ達の目の前で、本当に嬉しそうに60歳を迎えている。」
36年前には互いに想像すらした事となかったその景色に、何だか僕はいきなり胸が熱くなってしまった。「ハリーと一緒に年を重ね、36年経った今も変わらずそのハリーのライブ会場にいる。」そんな、長い活動を続けているアーティストとそのファンにしかわからない幸せな気持ちを僕は噛みしめていた。
ライブが始まり、最強なバンドメンバーと共にソロの人気曲2曲が演奏された後、村越の「オレも60歳になれました。」というチャーミングなMCが入る。それに会場が沸き立つ中、「前半からノリのいいのやるからノリ遅れないようにしてね。」という更なるMCと共に、バンドはソロ人気曲やスライダーズの後期のまさにノリのイイ楽曲を立て続けに数曲披露し前半から会場を盛り上げまくる。
村越は去年にも増して更に元気でよく動いていた(苦手と言ってたMCもホント増えた!)。意識されたステージアクションも増え、動きに合わせた凝った照明の演出もあり、エンタメ感がより増したステージになっていた。
2016年に村越と二人きりで39本もの全国ツアーをこなしているJIMMYのギターは、村越のギターとまさに阿吽の呼吸で絶妙にマッチングしていて、何より村越の歌声をより響かせる為の歌心のあるギタープレイで絶妙に村越をバックアップしていた。
JAMESとZUZUのリズム隊はもう当然言うまでもなくで、今回も村越の歌と二人のギタープレイをクールかつパーフェクトに支えていた。もう何度かこの元スライダーズの3人によるライブ演奏を見ているが、その度に演奏される同じ楽曲でも、その楽曲の表情が毎回全然変わっている事にいつも本当に驚かされる。つまり新旧のどんな楽曲でもその時々の村越のモードを確認しながら、自分たちも絶えずそれをアップロードする事に挑戦しているという事だろう。まさに恐るべき百戦錬磨リズム隊、JAMESとZUZUである。
ソロ曲とスライダーズの初期のレア曲の数々が織り交ぜられた素晴らしい選曲でライブが続いていく。村越のライブでのギターの音に対するこだわりは昔から強力で、曲によって頻繁にギターもチェンジするが、この日も数々のギターから村越にしか出せない圧倒的な音と素晴らしいカッティングを響かせ、今回は自らエフェクターも操作し、さらにギターソロも沢山披露した。きっとツインギターバンドの再開や、JOY-POPSでの活動がギタープレイヤーとしての村越に刺激を与え火をつけたのだろう。客席を見つめながら軽やかにギターソロを何度もキメていたシーンからは今の村越の自信の大きさと余裕、そしてギターをプレイする事の楽しさがにじみ出ていた。
後半にさしかかると、JOY-POPSでも披露されたスライダーズのヒット曲やバラードの名曲たちが次々と披露された。ふと照明で明るく照らされた客席を見ると、往年の僕と同世代のファン達がみんな一緒に歌っているのが分かった。改めて客層を見てると(若いファンも増えていて、一緒に全部歌ってるので驚いた)、村越のファンは男女比がほぼ半々な見事なバランスだという事に今さら気付かされる。その僕と同世代のファン達は当然もうみんな見事におじさんとおばさんだが、こうやってライブでスライダーズの楽曲をハリーと一緒に歌っている瞬間はみんなで10代20代だったあの頃にタイムスリップしてしまう。
この夜は記念すべきハリーの誕生日という事もあってか、その事がとても特別なかけがえのないひと時に思えた。この楽しい瞬間がこのままいつまでも続いてほしいという気持ちになった。
本編の最後は、ソロの人気ロックンロールナンバーやスライダーズのライブ定番テッパン曲が矢継ぎばやに次々と演奏され、それと共にバンドの音もパフォーマンスもどんどんうねりを増してピークに向かっていき、会場全体を思いっ切りシェイクし、ヒートアップさせまくって本編は終了した。
アンコールの拍手と大歓声の中、再び登場した4人は(JIMMYがZUZUにおんぶされて出てきたりメンバー達も盛り上がっているのが分かった)、おもむろにスライダーズのジャムセッション的な初期レアナンバー曲の演奏を始めた。村越も軽くステップを踏んで体を揺らせながら客席に一緒に歌うようにあおり、全員がゆらゆら揺れながら歌い始め、突如バンドとお客さんみんなでトリップしてるような妖しいグルーヴで会場全体が包み込まれた(ここほんとヤバくて最高に気持ちよかった)。そしてみんなをトリップさせたあと、同じアルバムからの激しい2曲を続けざまに披露して、みんなを驚かせながら踊らせまくってアンコールは終了した。
バンドは去っていったが、当然アンコールの拍手と大歓声は止まず、メンバーは再度出てきたのだが、JAMESがマイクで「誕生日おめでとう」と言ったと思ったら、何と60本の火のついたロウソクがさされギターがデコレイトされたバースデーケーキがステージに運ばれてきた。村越は驚きとあきれた表情で「聞いてねえぞ。」と言いながらも(あとでスタッフに聞いたらホントに何も言ってなかったそう。)その60本のローソクの火を一気に吹き消し、バンドもスタッフも僕らお客さんも会場のみんなが全員でハリーの60歳の誕生日を心から祝福した。
テレた微笑みを浮かべたままギターを抱えた村越は、「じゃあ最後に1曲だけ」と言って、僕たちの耳から今も離れないイントロのギターフレーズを奏でて、“のら犬にさえなれない”を歌い始めた。村越にとってもファンの僕らにとっても、最も思い入れの強い大切なあの曲がバースデー記念ライブの最後に選ばれて演奏されたのだ。その事に僕らも特別な意味を感じ取り、誰もがそれぞれの胸にこみ上げるものがあったと思う。そんな感動的な空気に包まれた中、演奏が終わりこの日のライブがすべて終了した。
終わったあと、ハリーは嬉しそうに何度も何度も「サンキュー」と言ってステージを去っていった。
後日、村越のホームページとSNSにファンへの感謝のメッセージと、この夜のライブ後の楽屋でバースデーケーキを前に最高に素敵な笑顔を見せる村越の写真がアップされた。書かれたメッセージの一言一言にグッときてしまうのと同時に、村越がもう次の全国ツアーへの意欲満々でまた新たな戦闘モードに入っているのがわかる。
ホントこんな人と一緒に歳を取っていけるなんて最高だと思った。
新しいツアーが今から楽しみで仕方ない。