共鳴レンサ 番外編 vol.10「光と影の共鳴」
2019年1月18日(金) Shibuya WWW X
Polaris / 安藤裕子 / Ryu Matsuyama
コンサートプロモーター・DISK GARAGEがツアーやイベントなど、さまざまなかたちで不定期に、そして、音楽のジャンルを限定せずに開催している対バンライヴイベント『共鳴レンサ』。その番外編となる『共鳴レンサ 番外編 vol.10「光と影の共鳴」』が1月18日、渋谷WWW Xで開催された。
今回の出演者は、出演順にRyu Matsuyama、安藤裕子、Polarisの3組。音楽性はそれぞれに違うものの、熱を演奏に滲ませ、観客を陶酔の境地に誘うという意味では共通していると言える3組の共演は、フィジカルないわゆるライヴハウスの盛り上がりとはひと味ふた味も違う、アダルトオリエンテッドという言葉が相応しい空間を作り出した。
“(この後も)すごい音楽の旅があるので楽しんでいってください”とトップバッターを務めたRyu MatsuyamaのRyu(Piano&Vo)は最後に言ったが、渋谷の街の喧騒から隔絶されたようにも思える空間で、たゆたうような時間の流れに身を任せる体験は、確かにスケジュールが綿密に決められた旅行ではなく、のんびり過ごすことを目的に出かける旅に似ていたと言えるかもしれない。
そのRyu Matsuyamaは、イタリア生まれ、イタリア育ちのRyuとTsuru(Ba&Cho)、Jackson(Dr&Cho)からなるピアノ3ピースバンド。Ryuが奏でるピアノが跳ねる1曲目の「City」をはじめ、昨年5月にリリースしたメジャーデビューアルバム『Between Night and Day』の収録曲に代表曲の数々を加えた全8曲を披露。淡々と演奏した「City」から一転、2曲目の「Crazy」でRyuは早速、伸びやかな歌声の魅力をアピール。その歌声に力がグッと入ると、気高さを宿したメロディーとテクニカルかつソリッドな質感のバンドサウンドが熱を帯び始めた。
“3年振りに『共鳴レンサ』に誘ってもらいました。結成間もない頃、まだツアーもしていない僕らが育ったイベントです。その番外編に呼ばれて嬉しい”と挨拶したRyu。厳かさを持ったピアノバラードの「Light」、エフェクトを効かせたピアノに、後方から照らす照明の中でファルセットを交え、力強い歌声を響かせた「That Mad Rad Tale」、フリーキーに鳴るドラムと音数を詰め込んだベースが演奏の熱を上げた「Afterglow」とつなげていった。観客は声を上げるわけでも、手を振るわけでもない。しかし、目を瞑ったまま頭や身体を横に揺らしている姿からは、しっかりと演奏を楽しんでいることがうかがえた。
“音楽と言うか、風景を届けるために、いろいろなところを飛び回っていきたい”と2019年の抱負を語った彼らが最後に披露したのは、バラードと思わせつつ、リズム隊が加わった途端、演奏が疾走し始めたポップナンバー「Landscapes」。どこまでも伸びていく歌声ととともに前へ前へと突き進む演奏が、Ryu Matsuyamaの3人が作り出す風景に風を起こしたように感じられた。
静かに流れるBGMが心地良かった15分ほどのセットチェンジの後、ステージに登場したのは、シンガーソングライターの安藤裕子。昨年、デビュー15周年を迎えた彼女は、現在、新たなキャリアを求め、さまざまなスタイルでライヴを行なっている。そんな彼女に興味津々という観客も少なくなかったはず 。そんな期待に応える気持ちがあったのか否か 。安藤はこの夜、昨年、リリースしたミニアルバム『ITALIN』をともに作り上げたトオミ ヨウ (Key&Cho)とShigekuni(Ba&Cho)そして、あらきゆうこ(Dr)とともにピアノワルツにアレンジした音源化前の新曲「1日の終わりに」をはじめ、全8曲を歌った。ファルセットと凄みさえ感じさせる低い歌声を1曲の中で大胆に使い分け、ダイナミックに身体を動かしながら歌い上げる彼女に会場から拍手が起こる。歌っている彼女の表情がはっきり見えないほど、暗い照明は、聴き手の想像力を駆り立てようと言うことか。
『ITALAN』収録の「SVAHA(スヴァーハー)」と、“基本、みなさんが知らない曲ばかりをやっていく所存です。気になる曲を覚えていってください”とこの日の趣旨を伝えてから始まった「コーヒー(仮タイトル)」で演奏にグルーブが生まれ、そこからベースのリフでつなげた「Lost in time」では、グッと熱を上げた演奏とともに奔放な歌声がさらに際立った。
悲劇的なピアノバラードにアレンジした「パラレル」、背後から照らす眩いライトの中で歌った「風雨凄凄」。誰もがステージの安藤を、固唾を呑んで見守っていたが、「風雨凄凄」が終わると、客席から声が上がり、拍手が起こった。それは誰もが張り詰めた緊張から解き放たれた瞬間だった。
そして、さらにノスタルジックなバラードの「クレヨン」、“ここで出会った男女が一夜をともにしてほしいという願いを込めて作った”という「箱庭」の2曲を披露。“靴を踏んで、相手を見つけてください(笑)”とメッセージを送った「箱庭」では、バンドが奏でるフォークロック調の演奏に合わせ、ステージから身を乗り出すように熱唱。“♪Hoo woo hoo”というスキャットのリフレインに会場の熱も上がった。
“19年は新曲をたくさん作るので、聴いてください”と最後に安藤は語ったが、この日演奏した新曲もこれからまだまだ変わっていきそうだ。さまざまなスタイルを使い分けている現在の彼女のライヴは、観るたびに新たな発見や驚きがあるに違いない。その中で彼女がどんな方向性を見出すのか、多くのファンが期待している。
ゆったりと過ごせるイベントだと思っていたら、仕事を終えてから駆け付けた観客も少なくなかったのか、やはり注目の3組だけあって、いつの間にかフロアーはいっぱいに。雑踏のSEが流れる中、 “お待たせしました”とステージに出てきたトリのPolaris――オオヤユウスケ(Vo&Gt)と柏原 譲(Ba)、そしてサポートドラマーの川上 優(Nabowa)を、フロアーを埋め尽くした観客が拍手で迎える。1曲目はオオヤ、原田郁子、永積タカシのユニットohanaのカバー「オハナレゲエ」。チャッ、チャッ、チャッとオオヤが刻むギターのカッティングと、ふわふわと漂うような彼の甘い歌声が心地良い。そこから川上の“1-2-3-4!”というカウントでつなげた「See The Light」は、同期で煌びやかなシンセとホーンも鳴らしたファンクナンバー。早速、フロアー全体が横に揺れ始める。
“今年、日本で初めてのライヴ。今年もよろしくお願いします“と短い挨拶を挟んで、オオヤが「深呼吸」とタイトルコール。“イエー!”とフロアーから声が上がる。今度は重低音で鳴る柏原の地を這うようなベースが心地良い。サビのポップな展開にフロアーからは“おぉ~”という声が上がった。“土日で韓国に1年振りぐらいに行ってきたんですけど、みんな歌うんですよね。ここ歌う?ってところも歌うんです(笑)。次はみんなで歌いたい曲があるんです”とオオヤが紹介した「流星」はイントロのリフがボサノバっぽいゆったりした一曲。3人が“♪ラララ”と重ねたコーラスのリフレインに観客が声を重ねて生まれた盛り上がりは、ラテン/ファンクな次の「グラデーション」で、さらに大きなものに。
“次で最後の曲です”。オオヤの言葉にフロアーから“え~”という声が上がったが、柏原が在籍しているバンド、フィッシュマンズの「SEASON」のPolarisバージョンに誰ひとりとして文句はなかったはず。しかも、「SEASON」は長尺の曲が多いPolarisのレパートリーの中でもひと際、尺が長い曲だ。3人がインプロを繰り広げながらドラマチックに展開していく演奏に、誰もが身体を揺らした。オオヤがギターを掻き鳴らしながらスキャットをリフレインして、アウトロをどこまでも引っ張ると、柏原のベースがうねり始める。その中でじわじわと上がってきた熱が沸点に達したと判断したのか、演奏を締め括ったのは、オオヤが上げた歓喜の声だった。
観客の拍手はバンドがステージを去ってももちろん、鳴り止まない。それに応えてステージに戻ってきたPolarisは、アンコールとして「光と影」を披露。“楽しかった!”と思わず声を上げたステージのメンバーたちも含め、そこにいる誰もが陶酔という言葉が相応しい心地良さを味わっていたに違いない。
次回、2月18日にTSUTAYA O-WESTにて、nano.RIPE、アカシック、mezcolanza、中村千尋が出演する『共鳴レンサ vol.35「ナオン時々ヤロウの共鳴」』が予定されているが、ライヴのスタイルも音楽のジャンルも限定しない、このイベントはこれからもさまざまなライヴの楽しみ方を提案してくれるはず。どんな風景を我々音楽ファンに見せてくれるのか楽しみだ。
SET LIST
【Ryu Matsuyama】
1. City
2. Crazy
3. Paper Planes
4. The Way to Home
5. Light
6. That Mad Rad Tale
7. Afterglow
8. Landscapes
【安藤裕子】
1. 一日の終わりに
2. SVAHA
3. コーヒー
4. Lost in time
5. パラレル
6. 風雨凄凄
7. クレヨン
8. 箱庭
【Polaris】
1. オハナレゲエ
2. See The Light
3. 深呼吸
4. 流星
5. グラデーション
6. SEASON
ENCORE
光と影