Shout it Outラストツアー、マイナビBLITZ赤坂公演ライブレポート「今を死ぬ気でやってる、だから僕らの日々は素晴らしい」

ライブレポート | 2018.08.22 18:00

Shout it Out 1st ONEMAN TOUR「嗚呼美しき僕らの日々」
2018年8月9日(木) マイナビBLITZ赤坂

嵐のように駆け抜けたバンドだった。2012年、高校時代に結成したShout it Outは「未確認フェスティバル 2015」で初代グランプリを獲得すると、10代の頃から音楽シーンの注目を集めるようになる。2016年に19歳でメジャーデビュー。直後にベースとギターが脱退。それでも山内彰馬(Vo,Gt)と細川千弘(Dr)はふたりだけで進み続けることを選ぶと、1stフルアルバム『青年の主張』リリース後のツアーファイナルでは、見事TSUTAYA O-WESTでのワンマンライブをソールドアウトするバンドにまで成長を遂げた。

2018年8月をもってバンドが解散することが発表されたのは、その矢先だった。あまりに突然だったが、それは10代から20代という、人生で最も多感で変化の大きい時間の全てをバンドへと捧げたShout it Outらしい決断だと思う。解散に寄せて、山内は「Shout it Outは僕の青春を体現するために存在してくれていた」「これから歳を重ねていく自分が歌を歌い続けるためには、新しい未来に飛び込む必要がある」と、コメントを寄せている。

そして、開催されたのが全国10会場をまわったラストツアー「嗚呼美しき僕らの日々」だ。バンドにとって最初で最後のワンマンツアーとなった今回のチケットは、発売直後にほぼ全公演がソールドアウトしたという。それを受けて、急遽セミファイナルとして開催が決定したマイナビBLITZ赤坂公演。バンド史上最大キャパを誇る会場に立ったShout it Outは、そんなステージの広さに全く気負うことなく、出会ったときと同じように刹那的で、爆発しそうな衝動をそのまま音楽へとぶつけていたが、どこかその姿は「Shout it Out」という檻から解放されたように伸びやかで、何よりも演奏自体を心から楽しんでいるようだった。

会場に足を踏み入れると、ステージにはツアー名をデザインした巨大なバックドロップが掲げられていた。SEに忌野清志郎の名曲が流れ出すと、山内と細川、さらに今回のツアーから参加している新サポートメンバーを加えた4人がステージに現れた。ドラムセットの前で4人が集まって気合いを入れると、疾走感あふれるバンドサウンドにのせて、“足跡のない道をゆけ”と力強く歌い上げる「道を行け」からライブはスタートした。山内が大きく足を開き、低く腰を落とした、“ザ・フロントマン”というフォームでギタープレイを繰り出した「17歳」、オレンジ色の照明の下で瑞々しいコーラスとメロディが溶け合った「あなたと、」。曲間のインターバルは極めて短く、矢継ぎ早に繰り出されていく楽曲たちに引き込まれながら、どこか心の中では「ああ、これでShout it Outのライブを見るのは最後だな」という感傷に胸がチクチクと痛む。だが、そんなこちらの事情などお構いなしに、MCでは山内が「今日はツアー10本中9本目。セミファイナル、赤坂BLITZ。いままでの僕らのライブでは飛びぬけてデカいです。“デカいからこうする”とかは全然ないんですけど、これだけ前に人がいたら、さすがにテンションが上がります。楽しんでいきましょう。よろしく」とだけ言って、ペースを落とさず次の曲へと向かっていった。

斜め上から降り注いだブルーの光がメンバーを優しく照らした「青」のあと、性急に刻むビートにのせて“まだやれる”ともがく「夜間飛行」では、ミラーボールの光の粒が会場を美しく満たしていった。温かい光に包まれて、物事の“終わり”に漂うセンチメンタルを軽やかなメロディに綴った「髪を切って」、うっすらと花びらのようにピンクがかった照明が優しく楽曲の雰囲気に寄り添った「花になる」。マイナビBLITZ赤坂だからこそ作り出すことのできる様々な光の演出によって、それぞれの楽曲に豊かな色を与える光景は、今さらながらShout it Outの音楽が、こんなにも広い会場で逞しく響く可能性を秘めていて、その場所に似合うものであったことを改めて気づかせてくれる。

なかでも素晴らしかったのはピンスポットを浴びた山内がギターを爪弾きながら歌い出した「さよならBABY BLUE」。テクテクと彷徨い歩くような、ゆったりとしたテンポにのせて、“永遠だったはずの日々”に想いを馳せる楽曲は、Shout it Outのラストアルバム『また今夜も眠れない僕らは』に収録されている楽曲だ。おそらくデビュー当時の彼らには表現できなかったであろう切なさと儚さを孕んだ曲調のなかで、次第に演奏のエモーショナルが高まっていくと、細川が天を仰ぐようにして渾身の力でドラムを叩いていた。

二度目のMCでは、細川がツアーを振り返って、「ドキドキした日々を毎日送ってました。ライブが終わって移動して、その間もライブとかバンドの話をして、またライブをして。そんな美しい日々を送ってきました。ずっと“いまがいちばん楽しい”って言ってたんですけど、“楽しい”というよりも、“嬉しい”という感情が多くて、幸せだなって思います。このバンドは俺の自慢です」と言うと、今回のツアーを一緒にまわったサポートメンバーを紹介。ふたりとも「友だち」だと山内はいう。最後のツアーだからこそ、あえて気心の知れたメンバーだけまわったことも、間違いなくこの日のライブを風通しのよいものにしていた。

「2年ぐらい前に遠くにいったと友だちに向けて書いた曲を。2年経って今は全然違う気持ちで歌います」と言って、ドラマチックな演奏を聞かせた「これからのこと」のあと、自分の情けなさをフォーキーなメロディにのせた「ギターと月と缶コーヒー」、細川の表情豊かなドラムソロを挟んだ「灯火」を経て、いよいよライブはクライマックスへと向かっていた。山内がギターを掻き鳴らしながら、“孤独”をテーマにしたポエトリーリーディングのようなものを投げかけて突入したパンキッシュなショートチューン「また今夜も眠れない僕らは」では、“世界よ終われ そして新しい日々に新しい陽よ昇れ”というフレーズが印象的に響き渡った。そして、放課後の景色とともに刹那の今を抱きしめる「アフタースクール」、粗削りのまま前のめりな想いだけで爆走するような「光の唄」まで一気に駆け抜けたところで、山内が「終わりがあるから美しいなんてバカな話があるか。今を死ぬ気でやってる、だから僕らの日々は素晴らしい」と言うと、最後に届けたのは「鳴り止やまない」だった。この曲で歌われる、“それでも僕らのロックンロールが鳴り止むことはない”というフレーズは、Shout it Outが残す最後のメッセージだと思う。普段はシンガロングなど巻き起こすタイプではないShout it Outのライブだったが、この最後の曲だけは、会場に集まった全員が声を揃えて歌っていた。そして、細川はあらん限りの力でドラムスティックを振り下ろし、山内は地面に膝をついてのけぞるようにギターを掻き鳴らす。文字通り、明日に余力なんて残さない、全てを出し切ってやるという気迫のステージだった。

アンコールでは、メジャーデビューシングル「青春のすべて」を披露した。当時10代だったShout it Outが初期衝動を全開にして、“不確かなまま生きている”と叫んだ歌は、永遠に続くようにも思われたバンドを終わらせて、新しい道を歩もうとするふたりの「今」に、あまりにも相応しかった。その曲を終えて、ギターの残響音を残したままメンバーが退場すると、会場にBGMが流れ出しても、さらにアンコールを求める手拍子が鳴りやまなかった。そして、「もうアンコールはないだろう……」と思われたところで、再びメンバーが登場して届けたのは、二度目の「また今夜も眠れない僕らは」。ギターを持たず、両手でマイクを握り締めた山内がそのままお客さんの上へとダイブする。そして、再び何も言わずに退場すると、今度こそ本当にShout it Outのセミファイナルは惜しまれながら幕を閉じた。

この日、Shout it Outはライブのなかで「解散」という言葉を一度も使わなかった。だから、もしかしたら何も知らずに見ていたら、この次の日のライブを最後にShout it Outが解散するなんて微塵も思わなかったと思う。おそらく彼らは、バンドとして過去最大のキャパに挑んだその場所では、くだらない感傷やお涙頂戴を抜きにして、ただロックバンドとしてかっこいい姿だけを集まったお客さんの目に焼き付けてほしかったのだと思う。
これでShout it Outは終わる。だが、その音楽はいつまでも彼らを愛した全てのリスナーの心の中にあり続けることを願っている。

SET LIST

01. 道を行け
02. 17歳
03. 青年の主張
04. あなたと、
05. 青
06. 風を待っている
07. 夜間飛行
08. 髪を切って
09. 花になる
10. さよならBABY BLUE
11. これからのこと
12. ギターと月と缶コーヒー
13. 灯火
14. 一から
15. また今夜も眠れない僕らは
16. アフタースクール
17. そのまま
18. 光の唄
19. 鳴り止まない

ENCORE1
青春のすべて

ENCORE2
また今夜も眠れない僕らは

Spotify

RELEASE

「また今夜も眠れない僕らは」

ミニアルバム

「また今夜も眠れない僕らは」

(ポニーキャニオン)
NOW ON SALE
  • TEXT

    秦 理絵

  • PHOTO

    佐藤広理

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