村越“HARRY”弘明 TOUR 2017 “BEAT FAST”
2017年10月8日(日) 横浜BAYSIS
TEXT/横山シンスケ
去年、五十嵐“Jimmy”正彦と2人のツインギターユニットによる39ヶ所にも及ぶロングツアーを大成功させたハリーだが、今年、ツインギターの4ピースバンドでのツアーが発表された時、僕らのような昔からのハリーファン界隈はかなりザワついた。
理由はもちろん、ハリーのツインギターによる4ピースバンドでのライブツアーは2000年のザ・ストリート・スライダーズ解散以来、初めてとなるからだ。
スライダーズの最大の魅力を「ツインギター」と語る人はとても多い。
ハリーと土屋“蘭丸”公平の絡み合うツインギターサウンドは、それまでの日本で聞いた事もないようなグルーヴで、僕らはそれに病みつきになり、当時のギター小僧達はみんな必死でそのギターサウンドマジックを研究したのだった。
スライダーズ解散から17年もの間、そのツインギターでのバンドスタイルをハリーが意図的に封印していたのかどうかは分からない。
ただ、ハリーがギター2人だけのユニットや、弾き語り、3ピース、時にはドラムとギターだけなど、あらゆるスタイルでライブをやるのを僕らハリーファンは追い続けながらも、いつかまたスライダーズのようなツインギターとドラムとベースの王道4ピースバンドスタイルによる“ロックンロールハリー”を見たいとみんな思っていたのだった。
だから今回のツアーが発表された時は色めき立ち、しかもそのギタリストが、今年春のハリーとのツインギターライブでも大絶賛され、斉藤和義やF-BLOODなど様々なビッグアーティストのサポートギターもつとめる、今最も注目を集めるギタリストの真壁 陽平だと知り、期待のボルテージも一気に高まったのだった。
ツアー初日となる横浜に行った。
チケットは完売してたので、ある程度ぎゅうぎゅうな感じになるのは覚悟していたが、ホールのドアを開けた途端に人の壁で、本当に超満員のパンパン状態だったので、居場所を確保するのにかなり焦った。
みんな今回の新たな4ピースバンドスタイルにただならぬ期待を抱いて集まっているという感じがヒシヒシと伝わった。
何とか自分の場所を確保して始まるのを待っていたら、隣には男性に初めてハリーのライブに連れて来られたと思われる女性がいて、その女性が男性に「なんでこんな静かなの?」「誰も歓声とか上げないの?」と不思議そうに何度も聞いていて、ハリーライブの常連と思われるその男性が「昔からいつもこうだよ」と平然と答えていて笑った。
そうなんだよな。自分も含めてだが、ハリーファンというのはスライダーズ時代からそうだけど、ニヒルというか斜に構えてるというか「ちょっとやそっとの事じゃ騒がねえぞ」「盛り上がらねえぞ」みたいなタイプのファンが多く(あと一人で来てる人も多いな)、いつもみんな静かに立ったまま、お酒とかをゆっくり飲みながら、ただ始まるのを待っている。
でもそれは決して盛り上がってない訳ではなく「ロックなんてそれぞれ自由に気楽に楽しむもんだ」と、ハリーに昔から教わってるから自然とこうなってしまうのだ。
でもそれって、凄い健全な事だよな。
そしてホールの明かりが消え、メンバーが出てきた。ドラムはハリーとは二度目のタッグとなる藍坊主の渡辺 拓郎。ベースはもう説明いらないが、元スライダーズメンバーで、解散以降も幾度とタッグを組む市川“James”洋二。そしてギターに真壁 陽平。そして我らがハリーだ。
さっきまで静かだった客席からも「ハリー!」という沢山の男女からの歓声が飛び交う。
ハリーはステージの真ん中に立ち、笑みを浮かべゆっくりと客席を見回した。そして一言「こんばんは」と言い、客席が沸き立つ中「Stuck in the Middle」という意表をつくクールな曲でライブはスタートした。
ベースとハリーの唄のみで静かに始まる曲で、途中からドラムが入り、そして真壁とハリーのギターが鳴り、二つのギターの音が絡み始めた瞬間、僕は無意識につい、こぶしを握った両腕を上げて「やった!」と声をあげてしまった。
そこに鳴り響いた四つの音と、ハリーの歌は、やはり格段に最高だった。
ハリーが様々な演奏スタイルを経て、スライダーズから17年経った今、4ピースのバンドサウンドを鳴らした理由が、この四つの音が交わり合った瞬間にわかった気がした。スライダーズから17年もの時間が必要だったのではなく、17年もの時間が経った今、それを意識する事もなく、ハリーは自然とまた4ピースバンドスタイルを自由に楽しめるようになったのだと思った。そして、その辿りついた場所に立ったハリーは、やはりズバ抜けてカッコいい最強のハリーだった。僕は興奮して、その曲が終わるまでの間、何度もこぶしを挙げて「やった」「やった」と声を出していた。
2曲目はこれまた意表をつく「CANCEL」。スライダーズ10枚目のアルバム「NASTY CHILDREN」に収録されてる、スライダーズの中でもどちらかというと地味なナンバーだが、スライダーズの中~後期が特に好みだった僕は(まわりに同意見のファンも多い)異様に盛り上がってしまった。
アーティストが、自分の往年のバンドのナンバーをライブで演奏するとなると、どうしても初期の派手で元気な人気の集まる曲ばかりを選びがちだが、ハリーの場合は気まぐれなのか、コアなファンへの何気ないサービスなのか、スライダーズの全ての時期のコアな曲を突然演奏する事が多く、そういう嬉しいサプライズがあるのもハリーのライブから目が離せなくなる理由で、この日も「LOVE YOU DARLIN’」「おかかえ運転手にはなりたくない」など、コアなスライダーズナンバーも続出するので、往年のファン達からは演奏が始まる度に、どよめきと歓声が上がった。
ハリーのソロの人気ナンバーの数々、その間々にスライダーズのナンバーも惜しみなく4人のバンドグルーヴにより披露されていく。
噂通り、真壁 陽平のギターが素晴らしい。新しさも古さも兼ね備え、変幻自在のスタイルで、今までのハリーサウンドにはなかった新しい風を吹かせている。
音にうるさそうなオールドハリーファンのおじさん客達からも「真壁いいぞ~!」などと何度も野太い声援をうけて、本人もテレ嬉しそうに会釈してそれに応えていた。
渡辺 拓郎のドラムは以前見た時も思ったが、テクニックも抜群だが、何より歌心のあるドラミングで、ハリーの声とギターにぴったりとハマっている。
そしてジェームスのベースは言わずと知れただが、今回見てて気付いたのは、スライダーズナンバーの数々が披露される中、そのオリジナルであるジェームスのベースも、ハリーの今の歌声や真壁とのツインギター、渡辺のドラム、それぞれの個性に合わせて、さり気なく巧妙かつ絶妙に変化させている事だった。
そのジェームスらしいクールな職人技と、もう30年以上も前に発表した曲をハリーと一緒に今またさらに進化させて、昔よりもカッコよくしてしまう、その凄さにシビれてしまった。
そしてハリーだが。やはり改めて本当に素晴らしい声の持ち主で、圧倒的なボーカリストだとつくづく感じた。
自分以外にもギターがもう一人いて、さらに抜群のリズム隊がいるという、久しぶりのハリー本来の4人バンドスタイルだという事も大きく影響したと思うが、今回のハリーのボーカルはまさに解き放たれたという感じで、あの凄い歌声でのびのびと歌いまくるハリーの存在感はやっぱりすさまじかった。
そして、ハリーが何度も笑顔を見せたり「ありがとう」や「ロックンロール!」など珍しいMCもしたり、色んな声援に会話で楽しそうに答えたりするのを見て、この4ピースバンドでハリーが自分自身を解放しているのが見てる僕らにも伝わった。
そんなハリーのオープンな気持ちが会場全体に伝わったのか、スライダーズの代表曲「So Heavy」や「Back To Back」などが披露された時は、なんとハリーと一緒に超満員のお客さんもみんな一緒に声を出して歌うという、スライダーズ時代にはありえない光景の最高の盛り上がりとなり、ソロナンバーも次々と披露され、最後は名曲「SLIDER」で本編は終わった。
当然のごとく止むわけもない盛大なアンコールを受けて4人が出てきて、アコギに持ち替えたハリーは一言、「じゃあ、ブランキー・ジェット・シティのカバーで“不良の森”を。」と言って、何とブランキーのカバーを突如演奏し始めた。
僕もそうだが、会場全体があまりに意表を突かれて、一瞬何が始まったのか理解できないでいたが、途中からその素晴らしいカバー演奏(選曲も)に、みんな身をゆだねて揺れはじめた。
ハリーが去年のツアーで、ミッシェルガンエレファントの「世界の終わり」をカバーした事は大きな話題になったが、今年の弾き語りライブではなんとシオン、エレカシ、RCのカバーまでも披露し、ファンを驚喜させたが、今回はブランキーが選ばれカバーされたのだ。
ハリーがなぜ今、同時代の仲間達とも言っていい日本を代表するロックンロールアーティスト達のカバーを連発し始めたのかはわからない。
でも、そんな事を一番やらなそうだったハリーが、いまそれを思い切りやるのって、エンタテイメントとしても最高だと思った。
今後もこの日本のロックンロールアーティスト・カバーシリーズが続いていくのかと思うと、僕みたいな同世代の日本のロックンロールバンド好きは、ますますハリーのライブから目が離せなくなってしまうなあ。
そしてアンコール2曲目に「BOOTS ON THE GROUND」が怒涛のサイケデリックな演奏で披露され、曲が終わり4人が去っても、アンコールの拍手は全く鳴り止まず、再び出てきたハリーは「仕方ないなあ」と微笑みながら、ソロ代表曲でもある「狼煙」を披露し、大歓声大喝采の中ライブは終了した。
個人的にハリーがソロになってから見た数々のライブでも、最高レベルの素晴らしいライブだった。
今やっている12月末の東京まで続く全国ライブツアーで、この生まれたての4ピースバンドのグルーヴはきっと大変な事になっていくだろう。
そして、4ピースバンドという、ある意味、原点に戻ったハリーを期待して集まるファンも沢山いるだろう。
でもそこに立っているのは、原点に戻ったハリーではなく、またも新しいターンに入った“最新で最強になったハリー”が立っているのだ。
みんな油断しないように。
きっとブッ飛ばされるぜ。
横山シンスケ
渋谷のイベントライブハウス「東京カルチャーカルチャー」店長・チーフプロデューサー。その前10年くらい新宿ロフトプラスワンのプロデューサーや店長。外部イベント企画、司会、ライターもやってます。それにしてもスライダーズの曲って今聴くとホント通好みで、あの頃10代の女のコ達がそれを聴いて熱狂してたのって、今思うと不思議だよなあ、とライブを見ながらしみじみ思ってました(笑)。横山シンスケ ツイッター:https://twitter.com/shinsuke4586
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