売上総取 Vol.3
2017年9月6日(水) TSUTAYA O-WEST
TEXT:兵庫慎司
PHOTO:Viola Kam (V’z Twinkle)
このバンドの登場は衝撃だった。テンポの具合、リズムの組み方、ギターの入れ方、楽曲の構成のしかた、どこをとっても「今時のギター・バンド」なのに、メジャーにもインディーズにもどこの地方のライブハウスにもうじゃうじゃいそうなタイプのそれなのに、画期的に新しい。歌う人演奏する人の感覚がその「今時のギター・バンド」というスタイルを超えている。つまり、内容が形式を超えている。その人の恋愛観や生活感を素直に歌うことがそのまま、聴き手の心臓をバクバクさせる、リアルで生々しい音楽になる。誰もが身に覚えがあるはずのどうしようもない思いを絶妙に形にする言葉の選び方、それをメロディにのっける時のセンス、どの曲ももうめったやたらと鋭い。だから聴いていて、1曲1曲、1フレーズ1フレーズに、いちいちハッとさせられる。
この日は、メジャーからのファースト・フル・アルバム『girls like girls』のリリースを9月20日に控えての東京ワンマン。
『売上総取』というタイトルは、以前に『売上折半』という2マン企画をやっていたから、とMCで説明していた。ベースのごっきん、「みんな、総取られしに来てくれてありがとう」と、彼女たちと同年代もしくはちょっと下くらいの子たちでびっしり埋まったフロアを見渡す。
女の子のファンがとても多い、という事実も、このバンドが本物だということを示している(若いバンドで同性からも支持されるかどうかというのはかなり大事で、それがある種の目安になるのです)。
あと、激しくて速くてノリがいい、オールスタンディングに適した曲が中心なのに、「踊る」「飛ぶ」「歌う」「腕を振り上げる」みたいなリアクションをするお客さん、少ない。じいいいっとステージを凝視しながら耳を傾けている、そして曲が終わるとドーッと拍手する人が多いのも、このバンドの本物感を表している、と思った。
みんな真剣なのだ、聴く姿勢が。なんで。自分のことが歌になっているからだ。自分が抱えているけどうまく形にできない感情を、言葉とメロディにしてギター・サウンドにのっけて形にしてくれる、ほかのバンドは決してやってくれないことをやってくれるバンドだからだ。
2回目のMCの時、「いったん休憩したいから、なんかおもしろい話して」と牛丸ありさ(Vo&g)に振られたごっきんが、「夏フェスでおぼえたアオり。みんないけんのかい!」と叫び、みんなそれに「おー!」と答えてからわははと笑う──というようなノリが成立する空気であることも、何かとてもいい。時流に乗っているっぽいけど全然違う存在であることが、端的に出ていて。
という意味で、めったやたらとソングライティングの才能があるだけじゃない、冷静で強かなバンドでもあるのだと思う。
『girls like girls』からは3曲だけだったのは、アルバムのリリース前だからだと思うが、そのことで、リリース後のツアーがいっそう楽しみになった。
この日も、チケットは瞬殺ソールドアウトだったそうだが、この先よりいっそう、加速度を増してそうなっていくと思う。というか、そうならないとおかしい破格の才能だと思う。
なるべく早く観ておくことをお勧めします。
アルバム・リリース翌日の9月21日には、Zepp Tokyoで女の子限定(ただし男も女装していれば入場可)のフリーライブ『女の子の逆襲』を開催。
その後は、10月12日心斎橋BRONZEを皮切りに、四国全県や山陰などをくまなく回る、全32本のツアーが切られている。
セットリスト
01. 最近のこと
02. さよならアイデンティティー
03. our time city
04. あのこのゆくえ
05. アボカド
06. センチメンタルシスター
07. バイマイサイ
08. サイドB
09. バッドエンド週末
10. サイケデリックイエスタデイ
11. しがないふたり
12. 悲しみはいつもの中
13. 最終回
14. ワンルーム
15. 恋と退屈
16. さよならバイバイ
17. トラック
18. さよならプリズナー