HIMEHINA LIVE 2025『LIFETIME is BUBBLIN』
11/22(土)23(日・祝)パシフィコ横浜 国立大ホール
※レポートは23日に実施
今年7月にリリースした4thアルバム『Bubblin』を引っ提げ、パシフィコ横浜国立大ホールにて2days開催された、VTuberアーティストユニット・HIMEHINAによる“LIVE 2025『LIFETIME is BUBBLIN』”。HIMEHINAはコロナ禍の2021年に、同会場での公演開催を断念した過去がある。ようやく4年越しに実現させた同公演は、この世のテクノロジーとアイデア、遊び心を総動員したと言ってもいいほどに、妥協なきエンターテインメント&アートセンスが終始細部まで貫かれていた。
バーチャルを活かし現実では成し得ない理想の世界を創造する映像表現と、存在感を誇る美術セットや照明、生音といった実態を伴った表現、それぞれの長所を活かしたステージングはとにかく豪華絢爛だった。ステージには中央の巨大ビジョンを筆頭に縦型横型計5枚のモニターが配備され、両サイドにはバンドメンバーが定位置につく。上部には“バブル”を想起させるライトや風船風の田中ヒメと鈴木ヒナの巨大オブジェ、ライブタイトルロゴがあしらわれ、そのほかにもレーザーなど隅々まで照明セットが組まれるなど、舞台上のどこを見てもゴージャスなセットが目に入る。
だがそれだけ精巧かつデリケートで大規模な設備を用いているとなると、どうしてもトラブルに見舞われる率も高くなってしまう。初日は無事に公演を全うできたものの、最終日は機材トラブルにより開場と開演が後ろ倒しとなった。ヘビーなトラブルに見舞われながらもほぼ完全な状態で開演にこぎつけられたのは、このチームの実力があってこそだろう。トラブル下でライブをするために限られた時間で調整を重ね、ヒメとヒナも開演前の影アナで咄嗟のロングトークを繰り広げながら、観客の士気を高めた。
そのまま影ナレで開演を宣言すると、ふたりが歌うガムラン音楽風の「しゃぼんだま」が流れ、ステージを覆った紗幕に20人近くのキャンドルを持った怪しげな面布の集団が映し出され、巨大なシャボン玉が登場し、観客を異世界へと連れ出す。ポエトリーリーディングからオープニング曲につないだ後、紗幕上に投影された巨大なのヒメとヒナが幕を下ろすと実際にその紗幕も落ちて紗幕の奥にある実際のステージの様子があらわになり、開幕のカウントダウンへとなだれ込んだ。映像世界と現実世界をつないだ演出も相まって、カウントダウンの数字が小さくなるごとに観客の興奮は増していった。
ステージにHIMEHINAの両名が登場すると、冒頭から「V」「LADY CRAZY」「ヒトガタ」「WWW」とアッパーなラップ曲をたたみ掛ける。彼女たちが自由自在に巨大化したり、次々と衣装とヘアチェンジをしたり、様々な設備が飛び出したり巨大ロボットが出現するなどバーチャルならではの見せ方もあれば、それと並行してロボットが運ぶ駕籠に乗って儒烏風亭らでんが颯爽とゲスト出演したり、可動式ステージに乗って高い位置から歌唱をしたり、大勢のダンサーとともにパフォーマンスをするなど現実世界をなぞった見せ方も取り入れ、その表現の多彩さとブレンドのバランス感覚が小気味よい。本人たちやダンサーの動きもバーチャルを感じさせないほど滑らかでありながらも、毛先などは現実世界では成し得ないほどに魅惑的な動きを作る。異なる次元をクロスオーバーさせるからこそ実現可能なステージだ。
ふたりは観客の前に立てたことへの感動を素直に表現し、ヒナは「今日は待たせちゃったぶん、とっておき見せるから!」と笑顔で意欲を語る。そこから7曲連続ノンストップのカバーセクションに入った。なかでも星街すいせいの「灼熱にて純情」、花譜の「過去を喰らう」のカバーは尋常ではない盛り上がりだ。音楽活動に注力するVTuberアーティストの楽曲をこの会場で歌うという物語も、しなやかでたくましい歌声とハーモニーも非常に美しかった。
「Int:The Past and God」で場面転換をして、ふたりのハーモニーからドラマチックに「密命」へとつなぎ、「Int:ElectronⅢ」を挟んだ後の「琥珀の⾝体」は切実さが伝わる迫真のボーカルが胸を締め付ける。「棄てられた鉄の王国」「魂にひそむ」でさらに内省的な世界へと引き込み、ふたりの会話の映像による「Int:わかれのうた」に入ると、そのままロックバラードの「遺⾔」へ。ふたりは主人公の気持ちを宿らせるように歌い、なかでも間奏に映し出されたファンへの手紙の前で優雅に舞うシーン、間奏明けの涙声のボーカルは前半パートのクライマックスだった。
ヒメは「今日ライブができないかと思った」「できてよかった」、ヒナは「できないかと思ったし、遅れれば遅れるほどみんなに嫌になられるかもしれないと思った」「みんなは“そんなことないよ”って言ってくれるけどすごく悔しいし、そんなふうに言ってくれるみんなのことがとても大切で大好きで……」と様々な気持ちがない交ぜになった涙を流しながら、観客に感謝を告げる。「(自分たちが観客へのお詫びに)何ができるかというと、歌って踊って届けることしかできないから。もっともっとみんなと気持ちがひとつになれるように全力で歌うから」と真摯に伝えると、観客もそれにあたたかい歓声で応えた。
声出しで会場のテンションを高めると、直前の言葉を証明するように「マザードラッグ」「相思相愛リフレクション」「アダムとマダム」などを全身を振り絞るように歌い、観客も彼女たちにエネルギーを注ぎ込むように熱いコールを送る。観客のコール&レスポンスセクションである「Int:試される合唱の⼤地」を挟んだ後はキラーチューンの乱れ打ちだ。透明の巨大バスタブの裏で、キャスター椅子を使って泳いでいる風に見せて登場した「バブリン」に始まり「キスキツネ」、「愛包ダンスホール」などで会場の一体感を作ると、「うたかたよいかないで」と「涙の薫りがする」を1曲にまとめてさらに加速する。
後のMCによるとどうやらこの箇所は開演前に急遽、歌唱と演奏を映像トラブルに合わせるという手法が取られたため、結果的にこの展開となったそうだ。違和感を抱かせないほどにスムーズで、短時間でこの完成度を作り出したHIMEHINAチームの実力には恐れ入る。ラスサビでは銀テープの発射と同時に客電がつき、逆境を乗り越えたというシチュエーションもクライマックスムードをブーストさせていた。
だがここで終わらせないのもHIMEHINAのエンターテインメントである。華々しいラストシーンの後のエンドロール的なポジションとして、アコースティックテイストの「しゃぼんだま」と、アルバムのラストを飾るバラード「⽣と詩」で本編を締めくくる。エモーショナルなバンド演奏と壮大なストリングス、ピアノが響き渡るサウンド、透明感と強さを兼ね備えた歌声、純白の衣装にバレエのようなしなやかな振り付け、アウトロのポエトリーリーディング、ラストの大合唱と、最後の最後まで感情を揺さぶった。
オルゴールアレンジに乗せて観客が「涙の薫りがする」を合唱すると、ふたりの朗読からアンコールがスタートする。“未完成のモンスターであるHIMEHINAの今とこれから”を詰め込んだ新曲「フランケンシュタインの怪物」をサプライズ披露し、その後は福岡、大阪、宮城、愛知、北海道の国内5箇所に加え、台北と上海を含む計7都市を回る「HIMEHINA ASIA Tour 2026『LIFETIME is BUBBLIN』」の開催を発表した。
その後も「真夏の夢の提灯暗航」「アダムとマダムと藍の歌」「希織歌と時鐘」と疲れをまったく感じさせない堂々としたパフォーマンスを続け、「Int:Flying Bubbles」に最後にヒメが「この2日間から始まる未来に向けて歌います」と告げて「風編み⿃」を届けた。背景モニターにはHIMEHINAの理想の未来も次々と映し出され、そこには彼女たちが目標として掲げている日本武道館公演を達成する姿も描かれていた。夢に向かって羽ばたくような晴れやかな光景に、観客も心を重ねるように歌声を届ける。この先の未来を明るく照らす、輝かしいラストだった。
ヒナは「大事な『Bubblin』の曲を生でみんなに披露できて本当に幸せ」と興奮気味に語り、ヒメも「いっぱいいっぱい思いを込めて作ったアルバムだから、みんなと盛り上がれて本当に幸せだったよ」と感謝を告げる。そして「終わりたくないけど次はもうすぐだ! アジアツアーでみんな会うぞ!」「『LIFETIME is BUBBLIN』、まだまだ続くぞー!」「アジアツアーも全力で駆け抜けるぞー!」と笑顔で語りステージを後にして、影アナで再度別れを惜しみながら再会を約束した。
「HIMEHINA ASIA Tour 2026『LIFETIME is BUBBLIN』」は新旧の人気楽曲を織り交ぜて、ライブならではの特別アレンジや懐かしい楽曲を織り交ぜたスペシャルなセットリストを予定しているとのことだ。国内公演はZeppを中心とした大規模ライブハウスともあり、パシフィコ横浜とはまた異なる趣のライブとなることだろう。目標を見据え、チーム一枚岩になってアーティストとして鍛錬を重ね、飛躍し続けるHIMEHINA。新たな境地へと飛び立った彼女たちの勇姿にこの先も期待したい。
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