安田成美、約40年ぶりのワンマンライブ。優しく幸福なムードに包まれた奇跡の一夜

ライブレポート | 2025.10.27 18:00

EBISU JAM 2025 安田成美
2025年10月10日(金)恵比寿ザ・ガーデンホール

奇跡の一夜だった。
2022年の初開催以来、毎年好評を得ている、究極の大人のパーティ「EBISU JAM」。4回目の開催となる今年、4日間の初日となる10月10日(金)、恵比寿ガーデンホールに安田成美が登場した。

安田成美の俳優としての活躍は多くの人が知るところだが、歌手としても1984年に「風の谷のナウシカ」でデビューしている。90年代以降、歌手活動はほぼ休止状態であったが、2015年の「松本 隆 作詞活動45周年記念オフィシャル・プロジェクト 風街レジェンド2015」で久しぶりにその歌声を聴かせてくれた。また、近年は2021年の「~松本 隆 作詞活動50周年記念 オフィシャル・プロジェクト!~ 風街オデッセイ2021」で日本武道館の舞台に立ち、今年は9月に東京オペラシティで行われた、夫の木梨憲武が主宰するコンサート「木梨クラシック」に出演。同月には東京国際フォーラム ホールAでの「~松本 隆 作詞活動55周年記念 オフィシャル・プロジェクト~ 風街ぽえてぃっく2025」でもその歌声を聴かせてくれた。久しぶりに歌手活動に力を入れている安田が、この度、40年ぶりのワンマンコンサートを開催することとなったのだ。

会場に「リブル(ジムノペディ第一番)」が流れると、客電が落ち、バンドメンバーたちが入場してくる。ピアノの静かな音色と共に、ステージ下手から純白の衣装を身にまとった安田成美が現れると、ひときわ大きな拍手が起こる。スタンドマイクの前に立ち歌い出したのは、昨年発表された「風の谷のナウシカ」2024ver.だ。作者・細野晴臣自身のリアレンジで作られたものである。バックのスクリーンにはLiquid Artが映され、オリジナルよりもグッと神秘的に生まれ変わった曲調は、まるでアンビエントミュージックのよう。

続いてファーストアルバムに収録された高橋幸宏作曲の「蝶をちぎった少女」へ。満点の星空の映像が歌の世界と融合して、幻想的な空間を作り出す。「月のミューズ」まで3曲を歌い終えた安田は最初のMCで、「ありがとうございました」とご挨拶。今回40年ぶりにライブを行うことになった理由は、娘から「自分のためにやりなよ!」と強く後押しされ、やる気になったからだと語った。
「自分の2枚のアルバムを改めて聴いてみて、素晴らしい曲をたくさんいただいていたんだな、と思いました。宝物を見つけた感じでした」
安田の発表した2枚のアルバムのうち、ファースト・アルバム『安田成美』には松本隆、細野晴臣、高橋幸宏、売野雅勇、大村雅朗、ムーンライダーズの鈴木博文、鈴木慶一、白井良明らが参加。セカンド・アルバム『ジィンジャー』は大貫妙子のプロデュースで、かしぶち哲郎、大村憲司、小林武史らが参加している。80年代ジャパニーズ・ポップスのトップランナーたちが、こぞって彼女に楽曲提供しているのだ。

その『ジィンジャー』から立て続けに5曲、大貫妙子プロデュースのナンバーを歌う。大貫特有のメロディーラインと、シンプルだが美しい言葉で綴られた「星の降る夜」では、銀河が流れるスクリーンに歌詞が映し出され、安田は語りかけるように歌い、会場を優しく包み込む。かと思うと麻生圭子作詞、大村憲司作曲によるセリフ入りの「ハイウェイ歩けば」では、ロックのビートにのって、まったく違う一面を見せてくれる。一人芝居のようなセリフパートで、はっちゃけた女性像を、さすがの演技力で表現し会場を沸かせた。そのまま安田は下手に下がり、バンドメンバーによるハードな演奏が続く。

ブルーの鮮やかなドレスに着替えて現れた安田は、そのままバンドのメンバー紹介へ。ギターの福原将宣は夫・木梨の「野猿」でもサポートを務めた経験があり、「夫婦ともどもお世話になっています」とお礼を述べた。他にベース目黒郁也、ドラム山本真央樹、コーラスENA、そしてキーボードでバンドマスターの安部潤といったメンバーが紹介された。

家族揃って細野晴臣のファンだという木梨家。安田自身もカーステレオで細野のアルバムをかけ愛聴しているそうだが、ここからは細野のアルバム曲を安田がカヴァーするという貴重なコーナーがスタート。まず2011年の細野のアルバム『HoSoNoVa』に収録されている「ローズマリー、ティートゥリー」をハイチェアに腰掛け、アコースティックなバックでしっとりと歌った。続いて17年の『Vu Ja De』収録の「寝ても覚めてもブギウギ〜Vu Ja De ver.〜」と「Mohican~Vu Ja De ver.~」。細野ファンでもなかなか思いつかないマニアックな選曲だが、タイプの異なる3曲を歌う安田の姿は実に楽しそうで、久しぶりに音楽と触れ合えた喜びが伝わってくるようだ。

「風の刺青」を歌い終えた安田は、多くの名曲を作ってくれた作家陣に「私は幸せ者です。感謝しています」と礼を述べ、最後に松本隆作詞による「銀色のハーモニカ」「トロピカル・ミステリー」「透明なオレンジ」のシングル三連発を披露。安田成美のヴォーカルは時にキュートで、時に温かみを感じさせ、聴くものを幻想的な世界へと連れて行ってくれる。その歌声を聴いているだけで、得も言われぬ多幸感に包まれるのだ。

鳴り止まぬ拍手に背中を押されるようにして、安田成美が再びステージに登場。
「またいつか(こんな機会が)あるかどうか」「今日集まってくださったみなさんにお礼を言いたいです」と、40年ぶりのソロ・ライヴに集まった観客へ謝辞を述べた。アンコールはこの曲しかあり得ない、オリジナルアレンジに近い形で披露された「風の谷のナウシカ」だ。

改めてその歌声を聴き、「風の谷のナウシカ」は安田成美のヴォーカルでなければ成立しない楽曲だと感じ入った。40年の時を経て今も初々しいそのヴォーカルはまさしく奇跡、幻想世界からひととき舞い降りた妖精のようだ。間奏では温かい拍手が湧き、恵比寿ザ・ガーデンホール全体が優しく幸福なムードに包まれた。
歌い終え、メンバー全員で手を繋ぎ、深く頭を下げて観客に感謝を込めるその姿は、全16曲を歌い切った満足感に溢れていた。またいつか、この澄んだ歌声を聴ける、その日を心待ちにしたい。

SET LIST

01. 風の谷のナウシカ(2024 ver)
02. 蝶をちぎった少女
03. 月のミューズ
04. 浜辺のポートレイト
05. 夜のパティオで
06. 夢は夢の中へ
07. 星の降る夜
08. ハイウェイ歩けば
09. ローズマリー、ティートゥリー
10. 寝ても覚めてもブギウギ (Vu Ja De ver.)
11. Mohican (Vu Ja De ver.)
12. 風の刺青(KAZE NO SHISEI)
13. 銀色のハーモニカ
14. トロピカル・ミステリー
15. 透明なオレンジ

ENCORE
01.風の谷のナウシカ(オリジナルver)

  • 取材・文

    馬飼野元宏

  • 堀 清香

    撮影

    堀 清香

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