ハナレグミ TOUR 翔んでgood to go!
2025年9月27日(土) さいたま市文化センター 大ホール
【MEMBER】Gt:石井マサユキ / Key:YOSSY / Dr:伊藤大地 / Bass:真船勝博 / Sax:武嶋聡 / Tp:類家心平
追加公演かつファイナルが首都圏のホールでない珍しいケースであるにも関わらず、多くのファンが会場までの緩い上り下りの坂を少し緊張した面持ちで足早に歩いている。たどり着いた先は非常に居心地のいい空間だ。朝夕が涼しくなったものの、吹き出た汗と上がった心拍が治まった頃、場内は暗転。カラフルなセットアップの永積 崇を先頭におなじみのバンドメンバー、石井マサユキ(Gt)、YOSSY(Key)、伊藤大地(Dr)、真船勝博(Ba)、武嶋聡(Sax)、 類家心平(Tp)が拍手と歓声に迎え入れられた。スターターはホーンのファンファーレから始まるオーバーチュアで、永積の「準備はオーライ?」「イエー!」のやり取りからスムーズに「うららかSUN」へ。歌詞の一部を「今日は南浦和の文化ホールへようこそ」とアレンジして、オーディエンスを旅の同伴者に巻き込んでいく。晴れやかな気分をさらに広げるホーン隊も素晴らしい。続く「レター」も気持ちいい風が吹き抜けるよう。ホールの耳当たりの柔らかな音像が、歌はもちろんすべての楽器の輪郭を過不足なく伝える。
空気が変わったのは環境音っぽいSEや真船のシンセベースが都会的な「チキンカチャトラ」。ユニークな音の試行が楽しい『GOOD DAY』を一つ象徴する曲だ。グルーヴが増していき終盤にはシンベのリフ、ピアノリフ、ギターリフが遊ぶように躍動する。ムードは「フリーダムライダー」のブルージーなトーンで一転。渋みはトム・ウェイツ、ショーマンっぷりはキャブ・キャロウェイを彷彿させる永積のパフォーマンスは愉快だが、色を歌う歌詞を勝手に解釈してしまう心が、昨今の排外主義的な世の中の傾向とリンクしてしまった。旅を描く情景的な歌詞だが、演奏の余白がこちらにも思考の余白を生むのだと思う。
「のんびりやるんで」とリラクシンなMCでホールの良い環境に早くも手応えを感じている様子の永積。のんびり、の言葉どおり、スイートなスローチューン「MY夢中」が滑り出す。メロディに乗る「目を閉じて 浮かぶ世界 全部私のもの」をファン全員が吸い込んでいるように見えた。そして、秋めいてきた季節に「生き返ってきました。なんで真夏にツアーをしたんだろう?」と笑い、「この季節にぴったりの1曲、『家族の風景』」とタイトルコールすると、湧き出るような歓声が上がる。必要最低限の音色で訥々と進行する中でも、温かさが音になったような永積のアコギとYOSSYのオルガン、急いで家に帰らなきゃとつい思ってしまうオレンジの照明がホールごと、いつかのあの日に位相をずらした。
バンドメンバーが一旦退出し、ひとりになった永積が念入りにアコギをチューニングする。「ここ数年、目標は自動販売機になること」と話す真意はどこでも誰でも100円を投入すれば必要とする人に歌を届けられるという意味で、実際、最近の永積の姿勢はそれなのだと思う。アコギの弾き語りで届けたのはくるりの「男の子と女の子」のカバー。この日向き合ったのはひとりではないけれど、歌に向き合う気持ちは1対1だ。そして石井を呼び込むと、同じ国立出身の先輩ミュージシャンである彼への尊敬を語りつつ、微妙にすれ違う各々の地元感に笑いが起きた。ふたりで演奏したのは東京スカパラダイスオーケストラへの客演曲「追憶のライラック」で、ギター2本で作るあの名フレーズやスカを基調にしつつどこか室内楽的でもあるライブアレンジは解釈の新しさ、プレイヤーとしての冴えにおいてこの日のハイライトのひとつに。
今回の追加公演のグッズとしても販売された、視覚に障害を持つ人が焙煎するコーヒーに始まり、例えば家族は会話はしなくても声色やドアの閉め方ひとつで状態を感じ取っていることなど、知らず知らずに音で対話していることを話す。自然に曲紹介になってもいて、じっくり耳を傾けられるのもホール公演の良さだ。そう、次に披露されたのは「音タイム」だ。ピアノが繰り返す波のようなアレンジが命のループを感じる演奏だった。そこからシームレスに「雨上がりのGood Day」につなぐと、立ち上がるオーディエンス。エレクトロニックなファンクという形容に収まり切らない新しさ、歌い踊り、煽る永積の熱にフロアも反応する。「踊らないと損だぜ!」と、「Primal Dancer」でさらに腰の入ったリズムが放たれ、武嶋はサックスのみならずシンセでも大活躍。アウトロでは永積のギターソロも炸裂して、このバンドの底知れないポテンシャルに圧倒、じゃなく半笑いになってしまった。「ちょっとあったまってきたんじゃないの?」とフロアを一瞥すると同時に小気味いい伊藤のフィルインから軽快な「太陽の月」に。類家のトランペットがホールの天井を吹っ飛ばすように乾いた音色を響かせる。さらにスカバージョンの「オリビアを聴きながら」ではサビの大合唱が巻き起こり、フロアはおのおののリアクション。2階から見る景色はさながら異国のダンスホールだった。
そこで盛り上がって大団円、にならないところも、もう一段深いところで音楽を感知できる歓びで、歌が生まれ、人と音を交わすリリカルな表現が美しい、マヒトゥ・ザ・ピーポー作詞作曲の「どこでもとわ」が大きなクラップとともに響く。さらにオーセンティックなバンドサウンドの「発光帯」の背筋が伸びる体感。バックボーンを飾らず振り返る珍しいタイプの曲がここにあることの意味を感じる。それは本編ラストの「Wide Eyed World」がオープニングと円環を描くようにセットされたことともつながって、もう一度旅のスタート地点に立った感じだ。リフレインする“不思議〜”のシンガロングからファンファーレのようなホーンの広がりにつながるエンディングが見事だった。
アンコールではツアータイトルでもある新曲「Good to go」を披露。『GOOD DAY』から続くいまのファンクの系譜にある曲調に、まだまだ続いていくこれからを思わせる歌詞が日常のテーマソングになりそうだ。今回のツアー会場限定シングルだが、誰もが聴けるようになってほしい。そしてこの日のラストソングは「独自のLIFE」。真船のスラップが炸裂し、永積はその太いビートに煽られるように踊る。続いていく日常に最高の送り出しソングだった。
なお、クリスマスシーズンの12月には2020年からスタートしたプレミアムライブ「THE MOMENT」が東京と大阪で開催。メンバーは石井マサユキ(Gt)、宮川純(Key)、伊藤大地(Dr)、鈴木正人(Ba)、武嶋聡(Sax)、類家心平(Tp)、美央ストリングス(Str)の布陣。こちらも楽しみだ。
SET LIST
01.うららかSUN
02.レター
03.チキンカチャトラ
04.フリーダムライダー
05.MY夢中
06.家族の風景
07.男の子と女の子/くるり(カバー)
08.追憶のライラック
09.音タイム
10.雨上がりのGood Day
11.Primal Dancer
12.太陽の月
13.オリビアを聴きながら
14.どこでもとわ
15.発光帯
16.Wide Eyed World
ENCORE
18.Good to go
19.独自のLIFE


















