KAMITSUBAKI WARS 2024 神椿後楽園戦線 IN TOKYO DOME CITY HALL
理芽 3rd ONE-MAN LIVE 「NEUROMANCE Ⅲ」
2024年9月15日(日祝)TOKYO DOME CITY HALL
オープニングムービーが終わるや否や、ステージには客席に背を向けた理芽が現れる。「NEUROMANCE」を歌い始めると同時に客席に向かって振り返り、華々しく幕を開けた。「こんばんは、理芽です! 最後までぶっ飛ばしていくぞー!」と呼びかけると、艶やかなムードが漂う「ピロウトーク」、たくましい歌声とハードなギターリフが印象的なロックナンバー「クライベイビー」、ミステリアスな「胎児に月はキスをしない」と初期曲を中心に披露する。彼女の楽曲が寂寥感を帯びながらも軽やかなのは、彼女の歌唱の影響も多いだろう。切なさや憂いがあるのに、悲愴感に暮れる様子がない。悲しみに振り回されたり、立ち向かっていくのではなく、じっくりと受け止めるようだ。その無理のない歌声は、聴き手の心に瑞々しい光を灯す。
初の現地ライブ開催に会場を埋められるか不安だったという彼女は「感慨深い」と言い、「こんなに人がいっぱい来てくれて超うれしい!」と全身で喜びと感謝をあらわにする。その後は「ファンファーレ」「ルフラン」とスタイリッシュな楽曲を中心に届け、「インナアチャイルド」では甘く優しいボーカルで包み込む。「生きているより楽しそう」は地声が活きるメロディラインもあり、彼女のしゃべり言葉のように歌詞が響いた。彼女の歌声はどの楽曲とも親和性を作り出してしまうのに、どの楽曲でも自身のスタンスを崩すことはない。彼女は音楽と仲良くなれる力に長けているのかもしれない。それは理屈ではなく、天性のものなのだろう。
彼女いわく“懐かしソングゾーン”は幻想的だった。「宿木」では柔らかい歌と演奏に乗せてやおらミラーボールが回り美しい光景を作り出し、ハイトーンがシンボリックな「どくどく」はスウィートな毒気で染まる。「いたいよ」で甘美な世界に連れ出したかと思いきや、「甘美な無法」では一転軽やかな凛々しさで魅了し、清々しく駆け抜けた。理芽がその後のMCでこのセクションについて「当時のことを思い出すと成長したかもと思えてはっちゃけちゃった。イェイ!」と笑っていたとおり、今の彼女ならではの表現力が光る一幕だった。
「さみしいひと」「食虫植物」と観客とシンガロングやクラップに興じ、デビュー曲「ユーエンミー」でドラマチックに楽曲を彩ると、ブリッジムービーで「Dr.Futurity」に衣装チェンジをしてダークな「えろいむ」、アダルトで落ち着いた歌声が琴線に触れる「法螺話」とディープなムードを高める。そこから迫真のポエトリーリーディングとピュアな歌声が光る「十九月」へのたたみかけは、まさしくこの日のクライマックスのひとつと言っていいだろう。ステージと観客の作り出す一体感から、観客を楽曲の世界の奥深くへと引きずり込む没入感へとなめらかにつなぐことで、聴き手側にも壮大な物語を体感するような充実が生まれた。
バンドメンバー紹介のソロ回しの後は「おしえてかみさま」「フロム天国」「ピルグリム」と観客と意思疎通を交わしながら音楽を共有し、「初の現地ワンマンをこんなにも多くの人に見届けてもらえて、ほんっとにうれしい! 素敵な景色を見せてくれてありがとう」「もっともっと頑張っちゃうぞ! ドームでやろう!」とすぐそばにある東京ドームでの公演に意欲を見せた。名残惜しさを口にしながらも披露した本編ラスト曲は、YouTubeのメンバーシップ生配信を締めくくる「やさしくしないで」。切なくもあたたかい歌声が染み入った。
アンコールを新曲「きみが大人になったんだ」でスタートさせると、「いきなり知らない曲を歌ってびっくりした!? よっしゃー!」「本当はライブ前にリリースする案もあったけど、今日は(初の現地ワンマンだから)あたしにとって特別だし、みんなにブチ上がってほしくてアンコールで新曲を初披露した」と話す。さらに初めて観客のアンコールを求める声を直に聴けたことに感無量といった様子を見せ、観客もそれに大きな歓声と拍手を送った。
そして彼女は、自分の生き方について言葉にし始めた。たまにふと「自分は何のために生きているのか」と考えるが今は答えが見つからず、「何のために」と考えるのではなく自分や大切な人のために精一杯生きることを決め、刻一刻とタイムリミットが迫っているからこそ、1秒1秒を濃いものにしたい、過去を振り返ったときに「あんなこともあったけど、今生きていることが幸せだ」「後悔も美しい」と感じられるくらいたくさんの思い出を作りたいと語る。そして悩んだとしてもまずは進んでみるという選択をすると明かし、「人は成功と失敗と後悔を繰り返すことで強くなっていく。そうすれば自分の人生を一歩一歩進んでいけると思います」と告げた。
自身の考えを言葉にした彼女は、「見た目も中身ももう大人になってしまったあたしたちだけど、子ども心を忘れずにどうか気楽に生きてほしい」「何かに追い詰められたとき“死ねばラクになる”という結論にたどり着かないでほしい」「成功も失敗も含めて“いい人生だったな”と思ってほしい」と観客に強く語り掛ける。「みんなを救うようなことはできないかもしれないけど、ちょっとでも笑顔になれたり、今日みたいに“最高!”と思える瞬間を作れたらうれしいです」「悩みがあったらいつでも聞くからね! 誰かに頼るのもスキルだから、人生を楽しく謳歌していきましょう」と告げた後に披露した「百年」は、その言葉をそのまま音楽に昇華したような包容力にあふれる歌唱だった。
「今日だけははっきり言える。後悔のない1日だった。ありがとう! あたしは幸せ者です」と告げ、この日のラストに彼女が選んだのは夏の終わりに相応しい「狂えない」。短い夏を噛み締めるように、湧き上がる感情を余すことなく届けるように丁寧に歌い上げた。このワンマンで、彼女が普段明るく振る舞っている理由や、切なさを宿しながらも悲しみに暮れた歌を歌わない理由が垣間見られた気がした。理芽のアイデンティティは、理芽の音楽を司る重要な要素である。それをただただ実感する、非常に濃厚で誠実な2時間半だった。
SET LIST
01. NEUROMANCE
02. ピロウトーク
03. クライベイビー
04. 胎児に月はキスをしない
05. ファンファーレ
06. ルフラン
07. インナアチャイルド
08. 生きているより楽しそう
09. 宿木
10. どくどく
11. いたいよ
12. 甘美な無法
13. さみしいひと
14. 食虫植物
15. ユーエンミー
16. えろいむ
17. 法螺話
18. 十九月
19. おしえてかみさま
20. フロム天国
21. ピルグリム
22. やさしくしないで
ENCORE
01. きみが大人になったんだ ※新曲
02. 百年
03. 狂えない