伊東歌詞太郎、ワンマンLIVEツアー2023「主人公を訪ねて」で豊かなストーリー性に溢れたステージを体現

ライブレポート | 2023.12.21 17:30

伊東歌詞太郎 ワンマンLIVEツアー2023「主人公を訪ねて」
2023年12月16日(土) 東京・豊洲PIT

 伊東歌詞太郎のワンマンLIVEツアー2023「主人公を訪ねて」の東京公演が2023年12月16日、豊洲PITで開催された。
“本”をモチーフに、10の物語(楽曲)を収めたニューアルバム『魔法を聴く人』を引っ提げた今回のツアー。この日のライブで伊東歌詞太郎は、豊かなストーリー性に溢れたステージを体現した。

 ステージには赤い別珍の幕が架けられ、真ん中には“ウェルカム・ブック”が置かれている。舞台美術のコンセプトは“本”。美しい装丁の本(ステージ)のなかで演者たちが物語を奏でるというのが、今回のツアーの中軸だ。「主人公を訪ねて」というツアータイトルについて伊東歌詞太郎は「考察がしようがないくらい、わかりやすいツアータイトルですよね(笑)。「音楽という魔法を聴いてくれたあなたのところに、僕が訪ねていきますね」というだけなので」とコメントしていたが、彼がやろうとしていたことはきわめてシンプル。その言葉通り、伊東は自らの手で紡ぎ出した物語を、すべての観客に向けてダイレクトに放ってみせた。

 華やかなSEとともに伊東歌詞太郎とバンドメンバー(高間有一/Ba、田辺貴広/Dr、ハナブサユウキ/Key、yoshi柴田/Gt)が登場。オープニングを飾ったのは、「Virtualistic Summer」。
“メタバース”“AI”“恋愛”“海”をテーマにしたアッパーチューンだ。さらに伊東自身のバンド時代の経験が反映された「Live Life~1秒の奇跡~」へ。ドラマティックなメロディ、エモーショナルなバンドサウンドとともに〈たった1秒の奇跡を聞かせてくれよ〉という歌詞が真っ直ぐに伝わってきて、心地よい感動と高揚感が同時に押し寄せてくる。

「ありがとうございます! みなさん来てくれて、東京!」と挨拶した瞬間に早くもちょっと涙ぐんでしまう伊東。「今年は『Storyteller』というツアーがあり、『魔法を聴く人』というアルバムがあり、『主人公を訪ねて』というツアーがあって。僕のアルバムはリリースして完成じゃないんです。東名阪の全力のツアーをやって、去年末からの僕のストーリーの完結なんじゃないかなと思います」という言葉に対し、会場からは大きな拍手が送られた。
 さらに東名阪ですべて違うセットリストにしたことに言及。名古屋公演の副題は“singer.song.writers.(alpinist.)”、大阪公演の副題は“先生と生徒”、そして東京公演は“Live Life~1秒の奇跡~”というテーマで組んだことを明かした。
「こういうストーリーを描きたかったんだなと想像しながら楽しんでいただけたらなと思います!」というMCの後も、アルバム「魔法を聴く人」の収録曲を中心にライブは進行した。
 まずは疾走するビートと濃密なメロディが絡み合い、〈世界は間違いなく終わる/ならその先でリスタート〉というラインが響く「senseitoseito」。さらに“消えたい”という消えることがない思いを描き出した「小夜子」(ベストアルバム『三千世界』収録)を挟み、東京を舞台に、アイデンティティと自己承認の在り方を映し出す「都会の風景」、そして、暗い世界においても、必死に夢を追い求める姿を綴った「STARLIGHT」へ。音楽的なジャンルはきわめて幅広くーーギターロックからエレクトロまでーー色彩豊かなサウンドを完璧に乗りこなしながら、すべてのフレーズを明瞭に響かせるボーカル力はやはり格別。当たり前のことだが、楽曲を介してストーリーを伝えるためには、“歌詞がしっかり聴き取れる”ということが大前提なのだ。それぞれの楽曲の世界観やムードを際立たせるライティングも素晴らしい。

「去年の夏から今年に至るまで、本当にいろんなことがありました。だけど、いい作品ができて、それをみなさんに聴いてもらって。それがハッピーエンドだったら、それでいいんじゃないかなって」という言葉を挟み、伊東歌詞太郎の“ストーリー”はさらに深さを増していく。
 紫陽花を想起させる照明に彩られた「ランダムウォーク」では、穏やかで心地よいバンドサウンドに乗せ、“すべてを受け止めて歩んでいこう”という思いを表現。伊東が家庭教師をやっていた頃の生徒さんとのエピソードがもとになった「先生と生徒」では、しなやかなグルーヴをたたえたメロディ、〈悲しくて泣いた君を忘れちゃダメだよ〉というメッセージを伝える。この時間帯でもっとも心に残ったのは、「パラボラ ~ガリレオの夢~」。軽快なビートに導かれるように手拍子が鳴り響き、力強い歌声と〈永遠に君を照らす 星の光〉——希望という概念を端的に示したーーフレーズが共鳴するこの曲は、ライブの最初のクライマックスへとつながっていた。

 何事も上手くいくわけがない。困難は来ないほうがいいけど、そんなわけはない。僕自身ではなく、どうか“伊東歌詞太郎”を愛してほしいーー。そんな言葉を紡いだ後、「singer.song.writers.(alpinist.)」からライブは後半へ。
「I Can Stop Fall in Love」では観客がタオルをブン回しながら盛り上がり、圧倒的な高揚感を演出。「magic music」では全身全霊で“君とまた会いたい”という思いをぶつける。全編を貫くストーリーが今回のツアーの核ではあるが、意味や言葉を超えた身体的な気持ちよさもまた、伊東歌詞太郎のライブの魅力だ。本編ラストは「Storyteller」。アルバム『魔法を聴く人』の起点となったこの曲は、ツアーの終着点でもあり、新たなストーリーのはじまりでもある。〈強くなれた僕だから/君と歩いてもいいよね〉というラインは、すべてのオーディエンスの胸に強く刺さったはずだ。

 アンコールでは切なくも愛らしいバラードナンバー「ヰタ・フィロソフィカ」、そして、“理想と違っていても、一歩ずつ進んでいくんだ”という決意を込めた「北極星」でライブはエンディングを迎えた。
 ステージ上で伊東は、“ストーリー”についての詳しい説明をしなかった。それはおそらく、“僕はやれるだけのことをやったから、あとは自由に受け取ってほしい”ということだったのだろう。音楽という表現を通した純粋なコミュニケーションを信頼することで、彼の音楽はさらに前進を続けるはずだ。

SET LIST

01.Virtualistic Summer
02.Live Life~1秒の奇跡~
03.senseitoseito
04.小夜子
05.都会の風景
06.STARLIGHT
07.ランダムウォーク
08.ガガーリン
09.先生と生徒
10.パラボラ ~ガリレオの夢~
11.singer.song.writers.(alpinist.)
12.SWEETGOLEM
13.I Can Stop Fall in Love
14.magic music
15.Storyteller

ENCORE
01.ヰタ・フィロソフィカ
02.北極星

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