THE BAWDIES
白いシャツにネクタイ、パンツと揃いの衣装でリハーサルを始めたTHE BAWDIES。ボーカル・ベースのROYは「本番までまだちょっと時間がありますが、ちょっと音を出したいと思います。寒いですよね。みなさんに温かい飲み物でも差し上げたいんですけど…」と語ると一拍置いて、「レモネード…。あっ、ちょうどいいですね。レモネードっていう曲があるんで、“ホット”レモネード」と寒空の下で待機していたファンに「レモネード」をプレゼント。予定になかったフルコーラスでの演奏で、会場を内側から温めた。ROYは「本番始まったら、お祭り全開で行きますんで、お願いしますね」といったんステージを後に。10分ほど経ち、グレーのジャケットを羽織った4人は「ダンス天国」のSEに合わせ舞台に登壇した。ROYのシャウトで滑り出したライブは、代表曲「HOT DOG」で開演。会場の熱を最大限まで引き上げようと、疾走感あふれる楽曲をパワー全開で演奏する4人。メンバーの熱に突き動かされた会場の揺れがどんどん大きくなっていった。新型コロナウィルスの影響で客の声出しが制限される時期が続いたが、ROYは「一緒に声が出せる。これを待っていたんだ。我々はお祭りロックンロールバンドなんで」とコロナ禍前のライブが戻ってきたことを喜んでいた。「KICKS!!」ではあおるフロントの3人に合わせ「Hey!」と大声を出し花火のように打ちあがる客の顔を、うれしそうに見つめていた。披露した全9曲すべてで会場を熱狂の渦に巻き込んだ4人は、来年は結成20年、デビュー15年を迎える。ROYは「僕たちは何も変わらない。変わったのはメンバーの内半分が、歯を矯正しようとしていることくらい」と最後までユーモアも忘れなかった。
岡崎体育
うすむらさき色のスウェット姿でマイクを握った岡崎体育は1曲目の「Knock Out」から全力でパフォーマンス。歌い切った後は、中央に設置したお立ち台の上で「気持ちいい!」と天を仰いだ。額に噴き出た汗をぬぐった岡崎体育は続いて「Call on」を歌唱。曲中に早口で難解なコールアンドレスポンスをオーディエンスに求めるも、なかなかそろわず、「ラララでいい。ラララならできるでしょう」とハードルを下げたが、失敗。「手拍子でいい」とさらにハードルを下げたが、岡崎体育が展開する難解なリズムを観客が再現できずに、断念。曲の最後には拍手を送られていたが、納得がいかないという顔で「どういうつもりで拍手しているんですか。誰1人できていないんですけど…」と肩を落としていた。気を取り直し、「今日は何の日かご存じですか? 誰がなんと言おうと“体育の日”ですよ」と、“スポーツの日”に変わったことをなげき節。「誰が損して、誰が得するんや」と眉毛をひそめると「マキタスポーツが得して、僕が損してる」と断言。がっかりした顔の岡崎体育に向けて「そんなことないよ」など慰めの声がステージに届けられていた。幅広い世代を熱狂と笑いで包んだステージの最後は「XXL」で締めくくり。赤、緑、青に点滅するステージの上で、「拳を突き上げる準備できてるか」と叫ぶと、スタンドエリアにいる客はもちろん、遠方の斜面に腰かけていたカップルも拳を空に突き上げ反応していた。怒涛のステージを終えた岡崎体育は「また会おうぜ」と言い残し、投げキスをしながらステージを後にした。
Nulbarich
開演前にサウンドチェックをしていたステージで「このままやります」と舞台に残ったNulbarich。1曲目の「Reach Out」のイントロが流れている中で「先ほど、(1つ前の)岡崎体育さんのライブを見ていて、非常にバーニングしているなと思って、非常にやりづらいんですけど、1度焼け野原になったこの場所を再生しにきました。それぞれの場所で、それぞれのペースで楽しんでください」とJQが語りかけると「まずは、身体を自由に」と自らも音に身を任せて動き始めた。オーディエンスの反応を探るように、静かに熱い魂を燃やしながら距離を詰めていく。心も身体も解放し、溶け合った時間は多幸感に満ちていた。代表曲「NEW ERA」では観客とシンガロング。「次は録り立てほやほやの新曲をやる」とうれしそうに未来への希望を感じる「Skyline」を「ぶち上れる曲だと思います」とプレイし、指揮者のように両手を広げる。「SETP IT」では「♪STEP」とループする合間には軽やかなダンスも披露した。「花火が上がる前に、僕らがまず上げなきゃ」とあおった最後は「新潟にわざわざ来て、この曲をやるのは気が引けるんですけど…、『TOKYO』という曲をやります。夢見る街で震え上がった僕の思い出をみなさんに共有したい」とNulbarichを結成する前に模索していた時期のJQ自身の思いを明かした初期の名曲を熱く歌い上げていた。思いに賛同するように、ステージに伸びたファンの手が波のように揺れていた。ステージを後にする前には、思いを交換した観客に向けて「何か刺さったら、また会いましょう!」と呼びかけていた。
Awesome City Club
3日間のフェスの大トリを務めたのは、活躍が目ざましいAwesome City Club。冒頭の「4月のマーチ」でオーディエンスを解放へと導いていくと、リハーサル時に気温が下がった会場を心配していたボーカルのPORINが「ちょっと暑くなるように、夏の曲を持ってきました」と「夏の午後はコバルト」を歌い、晩秋の長岡を太陽が降り注ぐ夏の日に変えていく。ミニマルファンクな「Talkin’ Talkin’」、身体を動かさずにはいられない「アウトサイダー」、男女の駆け引きを歌う「今夜だけ間違いじゃないことにしてあげる」と畳みかけて会場を圧倒した。ギター・シンセサイザー・ボーカルを兼務するモリシーと歌の掛け合いを終えたPORINが「どうですか、ちょっとあったまったかな」とスタンディングエリアを覗き込むと、ファンが両手でハートを作って歓迎していた。昨年に続き2度目の出演になったAwesome City Club。PORINは「昨年はミラクルが起きたんですよ」と声を弾ませると「トンボが大量発生していて、ステージにも上がってきたから、(右の人差し指を立てたら)指に止まったから、そのまま『勿忘』を歌ったらずっと止まっていてくれてた」と興奮した様子で話していた。atagiは「そんな引きもあったからか、今年は大トリ。僕らは今日出演した人たちの中で、誰よりも米フェスを楽しみにしていた自負があります。来年も呼んでもらえるように精進したい」とさらなる飛躍を誓っていた。「ユメ ユメ ユメ」では、モリシーのギターだけでゲレンデ中に丁寧に声を届けたatagi。ドラマ「王様に捧ぐ薬指」の挿入歌として書き下ろした「アイオライト」ではPORINの歌声が切なさを助長していた。40分に及ぶステージの最後に奏でたのは、昨年の米フェスで嬉しいミラクルがおこった「勿忘」。フェスの終幕を惜しむように、会場は弾けるようなハンドクラップの音であふれ返っていた。
各日の最後を飾るのは、長岡空襲からの復興と慰霊の願いを込めて続けられている長岡名物の長岡花火。フェスでは「慰霊」、「復興」、「平和への祈り」の思いが根付いている花火を観客に楽しんでもらおうと20分の特別プログラムが組まれている。
冒頭は終戦後に、シベリアに抑留された仲間に向けて花火師が鎮魂の思いを込めた花火を打ち上げ。続けて子どもたちが歌うフェスのテーマソング「輝き」に合わせた「ミュージックスターマイン」が夜空に大輪の花を咲かせた。中盤には長岡花火の名物「フェニックス」が盛り込まれたプログラムを披露。ラストは平原綾香の楽曲「Jupiter」と花火が競演した。最後にはMCを務めた安東弘樹の呼びかけで、観客がスマートフォンのライトを点灯して、花火が上がっていた方角に感謝を伝えた。その思いに花火師からも「ありがとう」の花火が1発打ち上がっていた。
人材育成の大切さを説いた長岡藩ゆかりの故事「米百俵」にちなみ「米百俵フェス」と名付けられた同フェス。6回目を迎えた今年は10月7日(土)~9日(月・祝)まで開かれ、全29組のアーティストが出演した。3日間の様子は11月25日にWOWOWで合計9時間のスペシャルプログラム「長岡 米百俵フェス 〜花火と食と音楽と〜 2023」として放送・配信される予定だ。