回転体再展開Tour
2023年9月21日(木) 東京キネマ倶楽部
鹿児島、大阪を回ったthe chef cooks me「回転体再展開Tour」のツアーファイナルとなる東京公演が、9月21日東京キネマ倶楽部で開催された。今回のツアーは、the chef cooks meというバンドをより広く知ってもらえた作品であり、リリース10周年を迎えたアルバム『回転体』を携えたもので、フロントマン下村亮介(Vo/Key)に加え、当時のメンバーである佐藤ニーチェ(Gt)とイイジマタクヤ(Dr)、そしてアルバム制作や当時のツアーに参加した中西道彦(Ba/Yasei Collective)、ちゃんMARI(Key/ゲスの極み乙女/ichikoro)、Noni(Vo/Cho)、永田こーせー(Sax/Fl)、大泊久栄(Tp)、NAPPI(Tb)を迎えた総勢9名によるステージとなった。アルバムの再現ツアーでなく、10年を経て、改めてこのメンバーで作品を再解釈し構築する“再展開”ツアーは、冒頭の「光のゆくえ」から、エネルギッシュで多幸感と笑顔に溢れたものとなった。
躍動感のあるドラムのリズムが高鳴り、下村もタイコを叩いて会場の温度を上げていった「光のゆくえ」で晴れやかにスタートしたショー。リズミカルなビートに乗って観客も手拍子やシンガロングをしたりと、フロアもこの日を待っていた!という明るさに満ちている。イントロのフルートに歓声が上がったダンサブルな「四季に歌えば」では、観客が踊ったりジャンプしたりと、ショーははじまったばかりだが、会場内にはフレンドリーな空気が流れて、バンドも、観客もちょっとした懐かしさや思い出を噛み締めながら、いい時間を分かち合っている雰囲気だ。「オン・ビート、イイジマタクヤ、カモン!」という下村の言葉を合図に、レゲエなビートにホーン〜ベース〜キーボードが絡んでセッションのボルテージを上げて、そこから大きなコール&レスポンスを巻き起こすと、「パスカル&エレクトス」へとなだれ込んで会場を熱気で包んでいった。
「いろんな人が観にきてくれているのを目の間にすると、20年いろいろあったんだなと実感しますね」と、下村はフロアの観客の顔をひとりひとり確認するようにMCをする。そして2003年に5人組バンドでDIYな活動からスタートし、メジャーへの進出、そして紆余曲折がありながら後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)との邂逅から彼のプロデュースのもとonly in dreamsからアルバム『回転体』を発表したthe chef cooks meの物語を話し、リリースから10年を経た思い入れの強いこのアルバムにもう一度向き合ってみたいと、バンドから離れていたメンバーにも声をかけていったと、『回転体再展開Tour』が実現した背景を語った。「……と、『回転体』の話をしながら、次はアルバムからの曲じゃないんですけど。好きなように、楽しんでいってください」と言って演奏したのは、「キャンバスに幻を」(2015年EP『RBGとその真ん中』)と、昨年デジタルリリースされた「間の季節」。グッドメロディとシンプルで洗練されたアレンジの妙味が冴える「間の季節」等は、近年作家や編曲、プロデュースも手掛ける下村のポップスへの審美眼が光る曲だろう。今回「回転体再展開Tour」と銘打ったのも、若さならではのエネルギーやバンドサウンドの衝動感を掘り起こすのはもちろんのこと、当時曲やサウンドを作り上げた熱量はどう生まれ、何を描こうとしたのかを丹念に紐解いていく上では、下村が築いてきた編曲やプロデュース業のキャリアが生きている。このツアーでアルバム『回転体』から抽出したのは、音楽の楽しさや豊かさ、そして音楽がもたらすエモーショナルな体験だろう。
MCで20年のバンドの活動の中でたくさんの仲間に出会ったことを語った下村。「この『回転体』を作るきっかけを作ってくれた大事な仲間がいます」とステージへ呼び込んだのは、岩崎愛。一緒にパフェを食べたりする友人だが、こうして一緒に音楽を奏でるのは久しぶりだという。アルバム制作当時の尽きぬ思い出に花を咲かせつつ一緒に歌ったのは、「環状線は僕らをのせて」。ふたりでたっぷりとコール&レスポンスを巻き起こしながら、心地よく、甘美なループで観客を酔わせていく。友だちに語りかけるようで、懐かしい琴線に触れる岩崎愛のボーカルに、歓声が大きくなる。歌の入りでちょっとしたハプニングがあるも、それをもチャーミングに乗りこなしていくバンドとの呼吸感や機転の利かせ方もまた、フロアを盛り上げる。
この賑やかなステージから一転して、続く「うつくしいひと」は、ピンスポットの元、歌と鍵盤で静謐にスタートした。ゆったりとしたビートに、第二のメロディのような佐藤ニーチェの泣きのギターフレーズが響き、曲をドラマティックに描いていく。観客によるリズミカルな手拍子もバッチリの「適当な闇」から「ゴールデン・ターゲット」へと続いて、手のひらがぽかぽかと温まってきたところから、続いては『回転体』でもカラフルでスペクタクルなポップワールドを描く「ケセラセラ」へ。楽しいコーラスが先導し、高らかでアンセミックなホーンと力強いバンドアンサンブルが、前に足を進める手助けをしてくれる。日々の追い風となる高揚感のあるサウンドは、ライブでは最大級の強風となって観客の間を吹き抜ける。自然とコブシや声が上がり、体が揺れ、笑顔が広がっていく。興奮の密度が高い、いい光景にぐっとくる。いい余韻から、アルバムでは1曲目を飾る「流転する世界」に繋がって、まだ見ぬ場所に向けて衝動のエネルギーを駆け上がらせていく。その躍動にワクワクする。the chef cooks meとしては、来たるアルバムと2024年3月のライブを持って活動を終了することを発表している。それはひとつの青春期の終わりかもしれないが、彼らの作り上げた音楽は普遍の青春として、リスナーそれぞれの心の記憶装置として変わらずあり続けることを、このライブでは伝えてくれるようだ。
気持ちも最高潮の中、いよいよラスト2曲。名残惜しさにフロアから声が上がる中で「レッツゴー!」(下村)と勢いよくスタートしたのは、「song of sick」。アルバム『回転体』の中でもBPMが高いパンキッシュなシンガロングチューンで、観客の手拍子もひときわ大きい。楽しそうに手を叩く観客を盛り上げながらも、下村はダメダメという感じで首を振り、「みんな、リズム感大丈夫!?興奮しすぎだから。音楽は“調和”だよ」と強調して、2周目の「song of sick」へ。さらにフロアを盛り上げるべく、バルコニーステージへと上がり、さらに2階席の手すりによじ登って、観客の頭上から手拍子を指揮し、またひとりひとりメンバーを紹介して、メンバーはソロ回しでフロアを沸かせと、観客はどこに目をやったらいいかが忙しいほど、会場中を祭りの賑わいにして行く。下村は、その白熱ぶりに肩で息をしながら「なんで2回もやったんだろう……」と言いながら、ラストの「まちに」のコーラスのハーモニーを指揮して、最後は会場一体となった大合唱で締めくくった。様々な人とその営みが関わり合うことで日々が巡っていく、音楽ではないが“調和”やハーモニーを描いた曲で、観客を再び日常へ──ライブのポジティヴな余韻を帯びた昨日とは少し違った日常へと解き放っていくthe chef cooks meらしいエンディングのステージとなった。
バンドメンバー総勢9人、清々しい笑顔でアンコールに立ったthe chef cooks meは、ずっと追いかけてきたファンにとっては嬉しい「ハローアンセム」等をプレイ。次なるアルバムがどういう作品になるのかも楽しみだが、このスペシャルな編成でのライブももう少し見ていたい気持ちも溢れる。そんな充実感のあるツアーとなった。
SET LIST
01. 光のゆくえ
02. 四季に歌えば
03. パスカル&エレクトス
04. キャンバスに幻を
05. 間の季節
06. 環状線は僕らをのせて
07. うつくしいひと
08. 適当な闇
09. ゴールデン・ターゲット
10. ケセラセラ
11. 流転する世界
12. song of sick
13. まちに
ENCORE
01. PAINT IT BLUE
02. ハローアンセム