AM Vol.1
2023年1月20日(金) Veats Shibuya
ベース&ボーカルのソロアーティスト“やまもとひかる”が2023年1月20日(金)、東京・Veats Shibuyaで初ライブ「AM Vol.1」を開催した。
“ベース弾いてみた”カバー動画で注目を集め、YOASOBI、ももいろクローバーZなどのライブに参加。抜群のテクニックと華のある存在感で“気鋭の若手ベーシスト”として評価を高めてきた。2019年にキタニタツヤが手がけた楽曲「DOGMA」でソロアーティストとしてのキャリアをスタートさせ、その後も様々なクリエイターとタッグを組みながら「NOISE」「ZERO」「ツキカケラ」といった楽曲を発表してきた彼女。ロックを基調とした多彩なサウンドのなかで、高度なベースプレイ、表情豊かなボーカルを響かせるやまもとひかるの魅力は、初ライブでも存分に発揮されていた。
記念すべきファースト・ライブは、眩暈SIRENとの2マン。やまもとが「ファンクラブに入って、普通にライブに行ってます」という5人組バンドだ。1曲目は「23:59」。まるで深海のなかで漂うようなディープなサウンドと「この声をまだ誰も知らない/この声は、この傷は誰も知らない」というラインが溶け合い、独創的な音楽世界が立ち上がる。
その後も、高速のビート、轟音ギター、ドラマティックな旋律が一つになった「image _____」(アニメ「pet」エンディングテーマ)、ヘビィロック直系の音像とクラシカルなピアノとともに、圧倒的な孤独や自我の在り処を刻み込んだ歌を高らかかに放った「ジェンガ」などを披露。爆発的なテンションと繊細な世界観が共存する圧巻のステージだった。
そして、ついにやまもとの初ライブへ。ステージを共にするメンバーはyu-ya(Gt./vivid undress)、仄雲(Dr./眩暈SIREN)。楽器のセッティングのために姿を見せると、フロアを埋めた観客から大きな拍手が巻き起こり、やまもとは笑顔で応える。温かいムードなか、「ナムネス」からライブはスタート。彼女が敬愛する眩暈SIRENが提供したロックチューンによって、会場全体の高揚感が一気に上がっていく。指弾きで鋭利なフレーズを弾き、起伏に富んだメロディを描き出すやまもとのパフォーマンスも最高だ。
さらにデビュー曲「DOGMA」では強烈なスラップ・ベースで観客の目と耳を引き付ける。超高度なフレーズを重ねながら、凛とした歌声を放ちまくる彼女はずっと笑顔。yu-ya、仄雲と目を合わせる瞬間もあり、このステージを楽しんでいることがはっきりと伝わってきた。ハードロック系のサウンドが印象的な「Belladonna」(アルバム「アーヤと魔女 SONGBOOK」)ではピック弾きのベースでアグレッシブな音像を牽引。そう、楽曲によって変化するベースプレイも、やまもとひかるのライブの魅力だ。
ライブ前半のハイライトは、彼女自身が作曲した「ツキカケラ」(作詞:渡辺拓也)だった。心地よいファンクネスをたたえたアンサンブル、切なさや憂いを滲ませるAメロ〜開放的なサビへと移行するボーカル。高い演奏技術と優れたポップネスが共鳴するこの曲は、ライブでも大きな役割を果たしていたと思う。
さらにカバー曲も。まずはvivid undressの「ワンルームミッドナイト」。夜、部屋のなかで“あなた”を想う女性の姿を描いた曲だ。ひとつひとつのフレーズにしっかりと感情を込め、生々しい情景を描き出す歌には、シンガーとしての豊かな表現力が宿っていた。そして木村カエラの「Yellow」では、オルタナティブなバンドサウンドを打ち鳴らし、フロアのテンションをさらに引き上げる。この2曲からは、彼女の幅広い音楽性を実感することができた。
「いちばん緊張する」というMCコーナーは、オーディエンスやバンドメンバー、眩暈SIRENへの感謝の言葉から。“AM”というライブのタイトルに込めた“挨拶・周り”という意味も明かされ、「今回はVol.1なので、Vol.2もあります!」と告げると、観客から大きな拍手が巻き起こった。
初めて自分で書下ろした楽曲「NOISE」(作詞:渡辺拓也)からライブは後半へ。ロック、ファンク、ジャズなどのテイストが混ざり合うアレンジの核を担っているのは、もちろんベース。超ハイレベルなフレーズを次々と繰り出し、高速のメロディを鮮やかに描き出すステージングは、彼女の個性とオリジナリティで貫かれていた。続く「ZERO」(作詞:ケンカイヨシ/作曲:ケンカイヨシ、やまもとひかる)では、シンセベースを演奏(ソロのパートは、エレキベースのピック弾き)。ダンサブルなサウンドが広がり、観客も楽しそうに体を揺らし、ステージとフロアの距離が近くなる。最後の曲は、未発表の新曲「Horoscope」。ポジティブな光が感じられるようなメロディ、そして、夢を追い続ける決意を反映したリリックからは、この先の彼女のビジョンがまっすぐに伝わってきた。
鳴り止まない拍手に導かれるように再びステージに登場したやまもとひかる。「アンコールの曲はありません!」と言いつつ、もう1度「ナムネス」を演奏し、ライブはエンディングを迎えた。
初めてのライブでアーティストとしての個性をダイレクトに示したやまもとひかる。今後のジャンプアップを確信させる、カラフルな魅力にあふれたステージだったと思う。
SET LIST
やまもとひかる
01. ナムネス
02. DOGMA
03. Belladonna(アルバム「アーヤと魔女 SONGBOOK」より)
04. ツキカケラ
05. ワンルームミッドナイト(vivid undress:cover)
06. Yellow(木村カエラ:cover)
07. NOISE
08. ZERO
09. Horoscope
ENCORE
01. ナムネス
眩暈SIREN
01. 23:59
02. 不可逆的な命の肖像
03. image _____
04. ミネルヴァ
05. 結末は日暮れの矛盾
06. ジェンガ
07. 故に枯れる