少年T 2022LiveTour「Tea spoon」
2022年9月23日(金・祝)Veats Shibuya
※昼・夜公演(ライブレポートは夜公演で実施)
ライブタイトルどおり、心が通い合った人とお茶を飲みながら穏やかに語らい合うような、コーヒーに砂糖を入れて丁寧にかき混ぜるような、優しい時間が流れていた。シンガーソングライター・少年Tによる大阪・札幌・東京を巡るワンマンツアー「Tea spoon」。彼のキャラクターとポリシーが存分に感じられるひとときとなった。このレポートでは最終日となる東京公演第2部の模様をお届けする。
ツアーロゴが映し出されたステージにSEが鳴り響く。まず登場したバックバンドのメンバー4人が演奏のグルーヴを高めていくなか、スーツ姿の少年Tが颯爽とステージに駆け込んだ。マイクを握りしめ“いつか君はそいつと別れるに決まってる! こんちくしょうこのやろ~!!”と勢いあふれるタイトルコール、さらにその後もコミカルな挨拶を加えてツアー最終公演の口火を切った。
言葉数の多いボーカルで圧倒させながら、バンドのアンサンブルに心地よく身体を揺らしたり、観客の顔を隅々まで見渡しながら笑顔を浮かべたりと、きらびやかな佇まいで観客を魅了する少年T。気負わない様子を見せながらもすべてがショーのように華やかなのは、声優業や舞台や朗読劇での経験も影響しているのだろう。立ち姿からエンターテイナーとしての矜持が伝わってくる。
ファンクとポップスが融合した「君のためなら死ねる」でより観客のテンションを高めると、10月26日にリリースされるニューアルバム『T to Y』に収録の新曲「君の好きなものが嫌いだ」を披露。彼自身も“ポップでファンキーでクールでクレイジーな曲”と紹介したとおり、ジェラシーを晴れやかに歌う姿が痛快だ。HoneyWorksによる提供曲「歌い手」ではハンドマイクで観客の目を見て、時折指ハートなどを作りながら愛と感謝を伝えるように歌を届けた。
ボーカリストのスタイルも様々だが、少年Tは何よりも歌詞を重んじたボーカリストと言ってもいいのではないだろうか。楽曲の持つメッセージ性を押し付けることなく、観客に人懐っこく話しかけるような歌唱は、一つひとつの楽曲の世界観にエスコートしていくようだ。遊園地で様々なアトラクションを楽しむような感覚と似ている。
続いて彼が届けたのは3曲のセルフカバー。縦型バーティカルシアターアプリ・smash.にて企画された、そらる、96猫、天月-あまつき-、Geroといった友人のシンガーたちへ楽曲をプレゼントする“Song For You”プロジェクトの楽曲から、「Oath song」「Catwalk」「月が綺麗ですね。」を届ける。1曲1曲の背景やエピソードを丁寧に語りながら、どんな楽曲でも笑顔を崩さずに歌唱していく少年T。彼の歌が重なれば、センチメンタルなムードをまとった楽曲でも圧倒的な光に包まれる。観客も心地よく身体を揺らし、彼の歌に身を任せていた。
続いては単身ギター弾き語りで3曲カバーを披露する。最近の制作はピアノで行うことが多いため、ライブやイベントでギターを持つ機会が減ったと話す彼は“たまにギターを持って歌うと、自分はギターを持って歌い始めたんだよなあと思い出すんです。だから自分が昔から大好きな曲を歌わせてください”と告げ、“ピアノくん”と名付けたアコギとともに、彼が活動初期よりよく弾き語りカバーをしていた二宮和也のソロ曲「虹」を歌唱。指弾きも交えながらやわらかい音色を奏でる。ステージ上にも7色のライトが降り注ぎ、彼を包み込んだ。
次にカバーしたhalyosyの「Fire◎Flower」は札幌から上京直後の心細い時期によく聴いて、自分を鼓舞していた曲だと話す。切なさをまとった同曲も彼は笑顔で歌っていた。そのエピソードと“ギターを持つと心が軽くなる。頭をからっぽにできる”と話していたことを加味して聴くそのカバーは、ポジティブでありながらもどこか当時の彼の抱えていた悲しみや寂しさ、当時の彼がこの曲に触れることで得たぬくもりなどが、歌とギターを通して伝わってくるようだった。
天月-あまつき-へ提供した「きっと愛って」のセルフカバーを最後の一音まで大事に鳴らすと、“昔作ったラブソングも今歌うと全然違う歌に聴こえて不思議な気持ちになります。今はゆがみ切った曲しか書いてませんけど(笑)、いま作っている曲もすごく気に入っているので。T先生の次回作にご期待ください!”と晴れやかに告げた。
再びバンドメンバーが登場すると、少年Tは2020年より出演した舞台『SEPT』と、2017年から声帯にイップスを患い、今もだいぶ良くなったとはいえ気分が落ち込んだときに歌うと症状が出ることを明かす。それから歌に苦手意識が生まれ、歌うことにストレスを感じる日々を送り、本気で音楽をやめようとしたときに『SEPT』で相澤悠真という役と出会い、悠真という人格を身体に入れることで、それまでとは違う観点で物事を見られるようになったという。
音楽を続けている理由を“ステージからの景色が自分をぎりぎりのところで踏みとどまらせてくれる”、“みんなが好きといってくれる歌を好きでいたい”と語り、“もう音楽をやめよう、僕はクソだという気持ちを相澤悠真くんの力によってプラスの曲に換えることができました”と述べ披露したのは「僕は僕を愛してる」と「ReUnion」。彼の笑顔はたくさんの涙を超えてたどり着いたものなのだろう。歌詞同様の大胆なワードチョイスのMCで観客を笑わせるが、恐怖が皆無かと言われればそれはないだろうと推測する。それでもステージに笑顔で立ち続け情熱的な歌声を響かせる彼に、大きく胸を打たれた。
「君の顔が好き」「不完全モノローグ」など3曲でパワフルに本編を締めくくると、アンコールでは1曲目にギター弾き語りで「ゲッタバンバン」を演奏する。その後バンドを呼び込むと、自身の誕生日である12月26日にSHIBUYA PLEASURE PLEASUREでのワンマンライブの開催を発表。“その頃には曲も増えていることでしょう。ぜひ皆さん来てください!”と観客の期待を煽った。“僕は腐ってもシンガーですから。伝えたいことは歌に込めたいと思います”と堂々と告げ、ツアーの締めくくりに選んだのは「愛言葉」。明るく愛と感謝を伝えるべく、一人ひとりと目を合わせるように言葉をつむいでいった。
最後に彼は「Tea spoon」というツアータイトルについて、音楽を投げ出したくなるときにステージから見える幸せな光景を思い出すと踏みとどまれることが、コーヒーに入れると色や味が変わるコーヒーや砂糖のようだと思ったことから名付けた旨を語る。“僕も皆さんにとってのひと匙の幸せでありたいと思って活動を続けていきます”と頭を下げると、“去り際は美しく!”と声を張り、忍者走りでステージを後にした。
彼がステージで笑顔を絶やさないのは、彼の歌を心待ちにしている観客が目の前にいるからこそなのだろう。観客一人ひとりの目を見て歌う彼の笑顔が、最も朗らかに見えた。少年Tの軌跡と未来を、彼の歌と言葉で軽やかにたどった2時間のワンマンライブ。彼の音楽家人生が、また新たな軌道を描き出した。
SET LIST
01. いつか君はそいつと別れるに決まってる
02. 君のためなら死ねる
03. 君の好きなものが嫌いだ
04. 歌い手
05. Oath song
06. Catwalk
07. 月が綺麗ですね。
08. 虹 (カバー)
09. Fire◎Flower (カバー)
10. きっと愛って
11. 僕は僕を愛してる
12. ReUnion
13. 君の顔が好き
14. 僕は僕を征く
15. 不完全モノローグ
ENCORE
01. ゲッタバンバン
02. 愛言葉