日本武道館公演のチケットが即日ソールドアウトするようなバンドにも、当然ながら初ライヴは存在する。どのバンドもそこから一歩ずつ前へ進み、憧れのステージを自分のものとするのだ。10月17日青山RizMで、そんな道へ進んでいくであろうMIMIZUQの新たなスタートを目撃した。
実はこの日は、MIMIZUQにとって2回目のスタート。Psycho le Cémuの弦楽器隊AYAとseek、ex.Hysteric Blueで月蝕會議など幅広く活動している楠瀬“poco”タクヤが、MIMIZUQを結成したのは2018年6月。
その後メンバーチェンジを経て、新ヴォーカル・森 翼を迎えた初のライヴ(録画配信ライヴはあり)がこの日だった。コロナ禍も相まって、MIMIZUQとしてのライヴはゲストヴォーカルを迎えて行った今年の3月以来。会場には、再会と始まりを待つファンの期待と緊張が満ちていた。
開演時間を過ぎ、場内が暗転すると、深い森を彷彿させる神秘的なSEが闇の中に流れ出す。楽器陣の3人が手に灯りを掲げ、辺りをうかがうように姿を現すと、一礼して立ち位置へ。そこへ登場した森 翼は、動物と言葉を交わせる森の住人のようないでたちだ。
4人で初めて披露する記念すべき1曲目は、4人で作った最初のデジタルシングル「Tic-Tac」。汽笛が鳴り響き、時巡りの列車がプラットフォームへ到着した。それぞれキャリアのあるメンバーだが、さすがに緊張は否めない。そんな中、初々しくも全力のパフォーマンスで、森 翼はファンと積極的にコミュニケーションを試みる。MIMIZUQ加入と同時に、彼自らがバンドをイメージして作曲したという楽曲が進むに連れ、会場全体が温かい空気に包まれていくのを感じた。いくばくかの緊張を抱えていたファンも、曲が始まって数分でほっと安心しただろう。素晴らしいスタートの瞬間だった。
「ありがとう、MIMIZUQです!」と晴れ晴れしい表情で森 翼が挨拶すると、「鎮む森に降る慈しみの雨」がスタート。既存曲もすっかり自分のものにしている森 翼の歌声に、今日が彼にとってMMIZUQ初ライヴであることを忘れてしまいそうになる。彼への期待は、「Rain drop Tear drop」で確信に変わる。MIMIZUQのコンセプトである“ナミダミュージック”ならではの切ない曲調を巧みに表現するだけでなく、ラップ調のアドリブを交えてギターソロへつなぎ、MIMIZUQのライヴに新鮮なアクセントを添えた。
AYAがタンバリンを手に元気よくジャンプして始まったのは「NEW HOPE」。センターに3人が並ぶと、メンバー全員がひとつになって曲を届けていることが伝わってくる。4人での初ライヴであることが信じられないほどの一体感だ。
「どうも、日本武道館をめざします。MIMIZUQです!」そんな宣言で始まったMCは、彼らの大きな自信と希望の現れ。正式に森 翼を紹介するseekは興奮冷めやらぬ様子。けれどもそれは彼だけでなく、メンバーそれぞれからリハーサルとは異なるプレイが飛び出すほど、興奮しまくっているとのこと。それも喜びと手応えの現れだろう。
トランペットやフルートなどの楽器を手に、4人が仲良く踊って歌って、「Secret Parade」を届けた後は、「NAMIDA MUSIC FACTORY」。この曲は、ヴォーカル不在の中、3人でコロナ禍に続けてきたTALK&LIVE「避密の森」で、ファンに制作過程を見せながら作り上げた新曲だ。さまざまな制約の中でも歩みを止めることなく活動を続けてきたからこそ、今日という日があり、この曲がある。いつか会場全体で声を出して一緒に歌える日が本当に待ち遠しい。
水の流れる音から水中の音へ、青白い光からミラーボールの輝きへ。「夏の夕立、水深300メートル」は、これまでとアレンジを大きく変えたことで、より大人っぽく、もっと切なく、心にひたひたと広がっていくような仕上がり。つい先ほどまでおどけていた4人が届けてくれる“ナミダミュージック”が、本当に涙を誘った。その涙は、続く「涙の成分」でさらにあふれ出していく。特に森 翼の歌声には、ひとつひとつの言葉を丁寧に発声することで強い説得力を兼ね備えていた。AYAが見せてくれるキーワードと相まって、心の奥へと言葉がしみ込んでいくようだ。
一瞬の沈黙の後、拍手が会場を満たし、張りつめていた空気が緩む。そこへ始まったMC。「何なん、このバンド、むっちゃカッコいいやん」と、seekは自画自賛しながら、それが嬉しくてたまらないといった表情。いざ4人でステージに立ってみて、発揮されたパワーに自分たち自身が驚いているといったところだろう。pocoが、リハーサルで叩いてなかったフレーズを「ぶち込みたくなるよね」と笑うのも、予想外の嬉しい驚きのため。メンバーたち自身がそうであるなら、今日のライヴを待ち望んでいたファンにとっても嬉しい驚きの連続だ。終盤戦を前に会場は静かな興奮と熱気でいっぱいだった。
森 翼のアコギから「MONSTER GIRL」が始まると、会場の空気が生き生きと動き出す。キュートな歌詞の世界を、ファンが手でつくるハートと天井のLEDパネルのハート模様が彩る。「未来見せてあげるんで、どうぞよろしく~」と、森 翼が歌の最後をファンへの呼びかけで締めくくった。
「青山行くぞ!」とseekが吠え、AYAがタオルを手に取ったところで「東京INVEDERZ」。エネルギッシュな熱気が、興奮状態のメンバーとファンをさらに煽る。間奏でニュースのアナウンスのような一節を森 翼が語り、曲の世界をさらに広げていく。歌に加え、言葉を使った表現、さらには表情や目線、仕草など、さまざまな表現を駆使する森 翼のポテンシャルの高さには目を見張った。
お祭り騒ぎの「PINKY PUNKY PARTY!!」では、決して広いとは言えないステージで4人とも大はしゃぎ。明るい幸福感で満ちる中、“ナミダミュージック”というコンセプトがもっともしっくりくる「ずっと好きでした」が丁寧に届けられた。誰かを好きになる気持ちを慈しむように歌った森 翼は、「ずっと好きでした」を歌い上げてこそMIMIZUQのヴォーカルが名乗れると、改めて「MIMZUQの森 翼です」と自己紹介した。これまでのファンがこの曲を大切に思う気持ちを汲み取る姿勢に心が温かくなる。
静かに始まったのは「Grand Guignol」。4人から込められた思いが音と一緒にステージから押し寄せてくるかのようで、繊細な楽曲であるにも関わらず、強く、重い圧を感じるように響く。曲が終わり、蒸気の音が聞こえる。汽車が動き出すようだ。
最後は、未発表の新曲「孵化」。孵化を待ち、果てしない未来へと思いを馳せる森 翼の言葉。その思いは歌となり、そして「孵化を始めよう」という小さな、けれども決意を秘めたつぶやきへと続いた。そこで汽笛の音。出発のときがきた。おなじみのEND SEが鳴り始め、ライヴの終わりを告げる。夢のような時間だった。
アンコールに現れた4人はすっかりリラックスして満面の笑みを浮かべている。明るい光に満ちた会場中が華やいでいた。「センターはこいつに任せた!」とseekが笑い、会場中が笑顔に包まれた。そんな中、最後にもう一度「Tic-Tac」が演奏される。ほんの2時間ほど前に漂っていた不安も緊張もすべて吹き飛ばして、生き生きとノビノビと楽しむ4人。MIMIZUQの新たな扉が幕を開けたことを実感した。
希望にあふれた果てしない未来へとMIMIZUQが走り出したこの日。時巡りの汽車が走り出すとともに、MIMIZUQが描く物語もそのページを開いた。その物語がどこまで続き、どんな世界を見せてくれるのか、まずは来年1月8日に渋谷Rexで描かれる次の物語を目にして、その可能性を感じてほしい。必ずもっと広い大きな世界へ連れていってくれる、今はただそのときが楽しみでならない。