ボクらの熊魂 THE LAST LIVE 〜これが あゆみくりかまき だ〜
2021年6月19日(土)EX THEATER ROPPONGI
あゆみくりかまきが最後のライブの場所として選んだのはEX THEATER ROPPONGI。過去にツアーファイナルや周年ライブを行った会場だ。観客の人数制限をしなければいけない状況下でのラストライブ。もっとキャパシティの大きい会場でもいいのではないかという考えが頭を過った。
だがそれでも彼女たちはEX THEATERで活動を締めくくりたかった。過去に何度も向き合い、挑み、喜びや悔しさを噛みしめた場所で、公演タイトルのとおり「これがあゆみくりかまきだ」と言えるライブを作りたかったのだろう。最後だからこそ、豪華プレイヤーを招いたサポートバンドを招くこともせず、大仰しい装飾なども組まず、3人だけで魅せるステージを選択したことも含め、これまでの歩みを宝物のように大事にしてきた彼女たちらしい。
THE HIGH-LOWS「日曜日よりの使者」がフルコーラスで流れたあと、DJセットとバックドロップとお立ち台が並ぶステージに、これまでのあゆくまの音源もミックスさせたスペシャルSEが鳴り響く。まずはくりかが巨大旗を持ち凛々しく可憐に観客を盛り上げ、彼女がDJセットの前につくとあゆみとまきが合流。形違いのケミカルウォッシュ風セットアップの衣装はキュートでありながらやんちゃなムードもあり、アイドルとバンドの架け橋を担っていたあゆくまを体現しているようだ。
3人の溌溂とした「あゆくま、やったんでー!」の掛け声から、1曲目は「HAPPY ROCK」。それぞれが観客一人ひとりとしっかりと目を合わせていく。盛り上げ役のまきが、他メンバーの歌唱の裏で、大声を使わず普段より高いキーで「みんなのピース見せて!」と観客に呼びかけた。くりかとあゆみの歌を潰すことなく、観客に言葉を伝えられる手法。ライブハウス、フェス会場、CDショップ、ショッピングモールの野外スペースなど、様々な場所でライブ経験を重ねるなかで培われたテクニックだろう。そうした一挙一動が、彼女たちの積み重ねた歴史から生まれたものであることを実感する。
あゆみくりかまきから7年、くりかまきから9年の感謝を伝えながら、“HAPPY ROCK”をモットーに堂々としたパフォーマンスで5曲突っ走ると、客席からはあたたかい拍手が湧き上がる。彼女たちに対する優しさと感謝が十二分に感じられる、とても柔らかくてあたたかい音だ。「今日解散という実感がまったくない」と晴れやかに話すメンバーに感化されてか、少々緊張気味のフロアもほぐれてきた。
会場に響くOiコールは、彼女たちのマネージャーが過去のライブ映像からあゆみくりかまきのファン、通称・またぎの声を抽出し、サンプラーからリアルタイムで出しているとのこと。スピーカー越しと言えども実際のまたぎの声が聞こえることで、会場全体のムードは間違いなく高まっていた。さらにこの日ここに来ることができなかったまたぎの声も含まれていること、彼女たちを献身的にサポートしてきた人物がラストライブをともに作っていることは、とても意味深い。
「蜜蜜蜜」、「夢の続き」と情熱的かつ爽やかな歌声を響かせる。寂しさに飲み込まれずに3人が立てているのは、またぎへの感謝の念だろう。最後だからこそ自分たちが活動のなかで見つけた“HAPPY ROCK”で楽しませたい――それは彼女たちのアーティストとしての矜持だ。《始まりはその手に》とまっすぐ歌いながらEX THEATERの高い天井へと指先をかざすシーンがとても美しかった。持ち前のパワフルさだけでなく、丁寧かつしなやかなパフォーマンスで音楽を届けられるのは、2020年に行った配信ライブの経験も大きいのかもしれない。 くりかまき時代にあゆみをフィーチャリングアーティストとして迎えた「春色ディスカバリー」のあとはメドレーに突入。「恋のダイヤル6700」ではあゆみがふさふさのモールをつけたマイクスタンド、くりかがタンバリン、まきがおもちゃのミニギターといった小道具を用いてユニークなステージを展開し、「心友フォーエヴァー」ではまたぎのジャンプで地面が波のように揺れる。「自分革命」ではトランシーなサウンド感と鬼気迫る歌唱でフロアを引き付け、5曲にわたる濃密なメドレーを締めくくった。
セットリストやTVの密着取材、今日用意された弁当や衣装についてなどフリートーク的なMCを繰り広げると、突然ほのぼのとした音楽が流れ「ああ~! 刺激が欲しいなあ~! 刺激刺激刺激~!」とくりかが標準語で話し出す。もはやあゆくまライブ名物と化した、コントの時間だ。彼女たちのYouTubeではお馴染みのビリビリペンを用いた内容で、そこから「ビリーでGO!」につなげるというライブ運びという、まさにあゆくまにしかできない芸当だ。まきは途中までコント中で使ったビリビリペンを持ちながらパフォーマンス。そのあとの「鮭鮭鮭」では3人がまたぎとともに黄色いタオルを振り回し、最終的には本場新巻鮭と書かれたのぼりと鮭のぬいぐるみをステージに持ち出すなど、川と海を行き来する鮭のごとく逞しいステージを繰り広げた。
お祭り騒ぎの勢いのまま「反抗声明」に突入するも、たちまち鋭さが迸る立ち振る舞いへとチェンジ。それもそのはず、そのあと待ち構えていたのはラウドロック色の濃い「WAR CRY」と「KILLLA TUNE」だった。あゆみはエモーショナルな歌声を轟かせ、くりかはキレのあるツーステを決めて、まきは渾身のシャウトを華奢な身体から絞り出す。コントからここに着地させてしまうあゆくまの度量の広さを感じるセクションだった。
ライブ開始から1時間15分ほど経ったころ、3人は真剣な面持ちで解散について触れた。くりかまきに加入したあゆみは、等身大でいることを許してもらえたことで安心できたことを語ると「自分の居場所を作ってくれたのがまたぎでありメンバーだったと思います。何もないわたしを歌うたいにしてくれて本当にありがとうございます」と感謝を伝える。途中言葉を詰まらせたくりかは、深呼吸をしたあとまっすぐフロアを見て「もんのすごく悔しかったこともあるし、叶わなかった夢もあります。でも、こんなにたくさん、すっごく大切な人に出会いました。それが本当に、いちばんの幸せです」と涙を浮かべながら笑った。
まきは声を震わせながら、幼少期に歌手を夢見たこと、くりかと再会したことでその夢の続きを追い始めたこと、現在の事務所に出会うまでの険しい道のりを振り返る。そのなかで様々な人々との出会いがあり走り続けることができたと語り、あゆみとくりかに感謝を伝える。「あゆみくりかまきはわたしにとって青春でした。わたしたちの夢の旅に、ついてきてくれたまたぎのみんな、本当に感謝しています」とフロアに向けて頭を下げると、またぎは拍手でその気持ちに応えた。
あゆくまのアーティストとしての信念が綴られた「ぼくらのうた」、新たな出発の決意を歌う「旅立ちの唄」、感謝を伝える「Grateful」など、現在の彼女たちにマッチした楽曲が続く。だがこの日披露された楽曲には「いまの彼女たちにぴったりの歌詞だな」と感じるものばかりだった。すなわちそれはつねに彼女たちが新しい挑戦をし、支えてくれた大切な人への感謝を歌ってきたグループであり、そのマインドを持って前進してきたという証ではないだろうか。「アナログマガール'18」のイントロでまきが涙声で「本当に出会えてよかった!」と叫んだが、人生初めての解散ライブのステージに立った彼女たちは、会えなくなる寂しさよりも、出会えたことの喜びが勝ったのだろう。本編ラストの「未来トレイル」は、またぎの声にならない気持ちを吸収しようと熱視線を送る3人の姿がとても眩しかった。
アンコールでスカテイストのポップナンバー「素敵な世界」を届けたあと、3人はあらためてまたぎへ言葉を伝える。あゆみは自分が話し下手だから歌で気持ちを伝えようという気持ちが大きくなった、話が上手だったら歌おうと思っていなかったと話す。涙を浮かべながら「本当に不器用でごめんなさい。うまく伝えられなくて……。でも、本当に大好きでした。ステージで歌うことも、またぎのみんなも、メンバーも、スタッフさんも」とじっくり言葉にしていくと、その涙を拭うようにフロアからあたたかい拍手が起こった。
くりかは「くぅちゃんの笑顔が支えになるよ、くぅちゃんの笑顔で元気になるよ、とまたぎが言ってくれたから肩の力が抜けて。またぎに楽しむことがいちばん大事やなと気付かせてもらいました。大切なことに気付かせてくれてありがとうございました!」と、毅然とした笑顔を浮かべる。まきは初めてのEX THEATERワンマンを含む全国ツアーの時期が特に苦しかったことを告白すると、「そんな暗闇のなかで見えたのはまたぎ、あなたの笑顔でした。だからステージに立ち続けることができました。あなたと出会えたことが9年間のすべてでした。こんなにたくさんのアーティストやアイドルがいるこの世の中で、わたしたちを見つけてくれて、好きになってくれて、本当にありがとうございました」と深々と頭を下げた。
「活動は終わってしまうけれど、この絆は私たちの中では一生消えないし、またぎの中でも消えないでほしいと思います。この曲はあなたのことだけを想ってこの曲を歌わせてください」というまきの言葉のあとに披露された「絆ミックス」も、アンコールラストの「サチアレ!!!」も、支えてくれた人たちの存在が彼女たちを強くさせてきたこと、最後の最後まで大切な人たちに尽くし続けたことを痛感する歌だった。
ずっと掲げ続けてきた日本武道館という目標は叶わなかったかもしれない。だが“HAPPY ROCK”というアイデンティティを見つけることができたのは、たくさん悩んで、たくさん喜びながら、支えてくれる人たちみんなと二人三脚で夢に向かって一歩ずつ歩んできたからだ。現にそれを見つけてからの彼女たちは、アーティストとしても、ひとりの人間や女性としても、深い輝きを放つようになった。あゆみがダブルアンコールで言った「わたしはきっと、この先強い人間になれると思います。それはみんながいてくれたから。あゆくまになれたから」という言葉は、それを物語っていると思う。
3人が活動のしめくくりに選んだのは「ナキムシヒーロー」。まきが「あゆみくりかまきを支えてくれたその両手、わたしたちに見せて!」と呼びかけ、またぎが大きく両手を広げる光景はラストに相応しい、とても晴れやかなシーンだった。
「わたしたちは一生あなたたちのことを忘れないし、みんなからもらったたくさんの愛でそれぞれの人生を歩んでいきます」というまきのあと、あゆみが「最後、みんなでひとつになりたいです。両手を挙げてくれますか? 心のなかで一緒に叫んでください。解散しても音楽は生き続けます。寂しくなったらまた音楽のなかで会いましょう。1、2、3、あゆくまー!」と叫び、くりかが「以上、関西出身のあゆみくりかまきでした! 7年間ほんまに――」と言うと、3人はマイクを通さずに「ありがとうございました!」と会場の奥まで声を届けた。
フロアには花やメッセージカードを掲げるまたぎも多く、その様子をじっくりと焼き付けるように眺めた3人はステージを後にする。だが袖に引っ込む瞬間にまきが足を取られて尻もちをついてしまう。「最後の最後で……! これは忘れてな」と言いながら去るという、最後までコントさながらのオチをつけていく真正の盛り上げ役だった。
7年間で最も彼女たちが自然体で、誇り高くステージに立てたのは、このラストライブだったのではないだろうか。その事実を、そしてこの日を“HAPPY ROCK”と呼びたくなるほどの充実度だった。彼女たちはいつ何時も自分たちのスキルを磨くことや、グループのグルーヴを高めていくことに妥協をしなかった。それはまたぎを始め、支えてくれる人々の存在があったから。大切な人への感謝の気持ちで人は強くなれる――あゆみくりかまきは最後まで、大切なことをわたしたちに教えてくれた。