大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの「虹のくじら」
2019年11月13日@草月ホール
大宮エリー×原田郁子
今年2月に絵と詩の作品集『虹のくじら』を発売した大宮エリーが、その『虹のくじら』を表題に掲げたイベント『大宮エリーの音楽と朗読とおしゃべりの「虹のくじら」』を開催。クラムボンの原田郁子をゲストに迎えた第一回目が、11月13日に東京・草月ホールで開催された。
このイベントは、大宮エリーが書き下ろした詩の世界を親交のあるアーティストと一緒に、歌あり、ピアノあり、ギターあり、朗読ありといった内容でお届けするというもの。この日のお相手の原田とは、2015年の『emotional journey -大宮エリー、初の大絵画展- 』『物語の生まれる場所 at 銀河劇場』など、ライブペインティングや朗読でたびたび共演しており、同い年ということもあってよくお酒を飲みに行く仲とのこと。なお、2016年に青森・十和田市現代美術館で行われた展覧会『シンシアリー・ユアーズ - 親愛なるあなたの 大宮エリーより』の原田とのイベントで『お祝いの松の木』という絵が描かれ、その絵をきっかけに草月流の家元との縁が生まれて、ここ草月ホールでのイベント開催が決まったそう。大宮を中心に、人と人の絆が繋がって生まれたイベントなのだ。
そんな本公演のステージには民族模様のマットが敷かれ、植物やランプなどが飾られていた。すべて大宮の私物で、まるでリビングのような、居心地の良さそうな空間だ。大宮は“心に絵を描いてもらうイベントだから、その正装と言ったらこれかなと思った”と言って、普段絵を描くときに使っている、絵の具がたっぷりこびりついたスモックのような作業着で登場。そこからも大宮の絵に対する想いや、飾らない人柄が伝わってきた。
イベントは、大宮の詩の朗読に合わせて、原田がピアノで伴奏をつけていく。ピアノは草月ホール名物の世界に3台しかないベーゼンドルファーで、原田は“甘くてふくよかな音。今、だんだん(ピアノと)仲良くなっているから”と彼女らしい表現で、鍵盤を弾く指もとても楽しそうだ。床に直置きされたキーボードの前に座り込んで弾くこともあって、まるで大宮の家に遊びに行ったようなリラックスしたムード。大宮も朗読だけでなくバイオリン演奏も聴かせたり、原田が朗読を担当したりと、実に自由気ままな空間が広がる。
朗読した詩は、作品集『虹のくじら』に絵と共に収録されたもの。『マティスとゴッホ』という詩では、原田が朗読し、大宮が即興でバイオリンを弾いた。別の時代に生きていた画家のマティスとゴッホが、もしも同じ時代に生きていたらどんな仲の良い友だちになっていたのだろうかと、想像がどんどん広がった。宇宙から地球に向かって落ちていく恋人が“地球についたらまた一緒になろうね”と約束をする詩『お祝いの松の木』はファンタジックな印象もあったが、“大切な人と永遠に一緒にいたい”という叶わぬ願い、命への慈しみが感じられて、胸をキュッと締め付けた。自分の経験と重ねたのだろうか、会場には何かを思い出すように涙ぐむ観客の姿も多くあった。
また、『十和田の冬』という作品では、絵が描かれていく行程を記録したムービーを上映。木が何本も描かれていき、次第に白みを帯びて、やがて雪景色の森の様子が浮かび上がる。原田がそのムービーを見ながらギターと歌でBGMを付けると、まるでキャンバスの上でどんどん季節が巡っていくような、静かな躍動感が生まれた。
曲の途中で大宮の携帯が鳴ってしまうというハプニングもあり、MCではそのことを振り返って笑い合い、まるで深夜のラジオ番組を聴いているような、自然体の会話も心地が良い。飾らず親しみのある“エリー節”で会場を沸かせ、終始流れていた温かい空気が癒しと活力を届けてくれる贅沢なひと時だった。
同イベントは、11月15日にコトリンゴ×小沢一敬(スピードワゴン)を迎えた他、12月2日には持田香織×おおはた雄一、4日にキヨサク(UKULELE GYPSY・MONGOL800)を迎えて開催される。その場で生み出される、予定調和の感じられない朗読と音楽と会話。そこで観客は、それぞれの心の中に自分だけの絵をイメージする楽しさ、大宮の詩に隠されたメッセージを受け取り、気づけば自然と肩の荷が下りたように、身体が軽くなる。12月の公演では、いったいどんな化学反応を起こり、どんなコラボレーションが繰り広げられるのか、楽しみだ。