大正時代に初代会場が設立され、昭和末期に現在の会場が完成した日比谷野外大音楽堂。そんなバンドマンの聖地にて平成最後の日となる4月30日、Saucy Dogが自身最大キャパシティのワンマンライヴ『YAON de WAOOON in TOKYO』を行なった。立見席まで満員の大盛況。野音の一時代の幕引きとしても申し分ない。
生憎の雨模様であったが、1曲目「真昼の月」の演奏が始まった瞬間から、晴れ間が覗いたのかと錯覚するほどの華々しさだった。石原慎也(Vo&Gu)は豊かな声量で切なくなりすぎない絶妙なラインのメロディーをしなやかに辿る。秋澤和貴(Ba)は支え役に徹して音像をしっかりとドライブし、せとゆいか(Dr&Cho)は笑顔で雄大なビートを鳴らす。どこか仄暗さも感じさせる楽曲がシリアスになりすぎないのは、天性のポップセンスやユーモアだろう。
一音一音に3人の高揚が詰め込まれた演奏と地に足の着いたステージングは、会場を取り囲む木々や降り注ぐ雨などの自然物と非常に相性が良い。「あとの話」ではステージの両脇からシャボン玉が次々と現れ、石原のファルセットも相まって楽曲の繊細さを際立たせた。石原が客席を見渡しおもむろにギターを鳴らし「マザーロード」と「Wake」へ。石原の心情を3人で分かち合うように奏でられる音色は隅々まで美しく、光に照らされた雨がそれをさらに彩っていた。“この雨の日に来てくれたみんなにプレゼントがあります。新曲やっていいですか!”と石原が威勢よく告げると、タイトル未定の新曲を披露。青さや勢い、もがきがない交ぜになった楽曲で、ギターソロもアクセントになっていた。
秋澤は“僕の人生を救ってくれたバンドが13年前に日比谷野音でワンマンをしました”と、志村正彦が在籍していた頃のフジファブリックの話題を出し、この地でワンマンを行なえることへの感謝を告げる。石原は多くの人との出会いを経験したことで、出会いも別れと同じくらい心に残すべきだと思った旨を語った。“どうしても許せない別れがあったから、それを想いながら歌います”と言って演奏された「いつか」と「コンタクトケース」は彼の深層心理が露わになるようなサウンドスケープ。徐々に暗い色を帯びてきた空と、雨の静かに降り注ぐ音が、感傷的な歌声をさらに引き立たせていた。
その後は、せとがキーボード、石原がアコギを担当するアコースティックセットで、せとがヴォーカルを務める「へっぽこまん」と、内省的な世界を丁寧に音に落とし込んだ「世界の果て」の2曲を演奏した。再びバンドセットに戻り「煙」「メトロノウム」を立て続けに披露。泣き叫ぶような石原の歌声と琴線に触れるメロディーラインは、悲しみや苦しみに飲み込まれそうになりながらも必死に溺れないよう抵抗しているがゆえに生まれるものに思える。その信念を貫く様子はどこから見てもロックバンドで、それを全て音楽で体言しているところもまた、多くのリスナーの心を強く掴んでいる理由のひとつだろう。
石原がこのメンバーでの初ライヴと同じ衣装で、今日のステージに立っていることを告白すると、“着る服が変わっても、中身は変わらないでいたい。俺ららしさは残しながら、ちょっとずつ変わりながら、ずっとずっと音楽をやっていきたい”と続ける。夜に向かうと強くなると言われていた雨は、ほぼ止んでいた。そして“みんなと俺らがずっとどこまでも走っていけるような曲を”と前置きして演奏された「バンドワゴンに乗って」に感動的に入り込む――と思いきや石原が歌詞を飛ばしてしまうというハプニングが発生。“ごめん! これじゃ、みんなで走り出せないね!(笑)”と持ち前のユーモアを発揮し、せとと歌詞を確認するも何だかうろ覚えで秋澤が“ふたりとも覚えてない!”と突っ込んだり、石原が観客に“歌詞分かる人ー!”と呼びかけたりなど笑いが絶えない。この規格外の愛嬌も彼らの魅力である。石原が“やっぱり俺、みんなの力がないと駄目みたいです!”と笑わすも“なるべくみんなの力になれるような曲を作っていきたい”と真摯に告げ、最新曲「ゴーストバスター」で本編を締め括った。
アンコールではせとが“バンドが3人だけの夢じゃなくなってることを、この野音を通じて感じることができた”と感謝を示し、この日2曲目の新曲と「グッバイ」を届ける。“雨になっちゃって、みんな風邪引かないといいなぁと思うけど、こんな平成の終わりもよくない?”と観客に語り掛けた石原は“いずれは武道館とかにも立っていきたい。プレッシャーにも強いバンドになっていく”と力強くかつ自然体で宣言した。
心の機微を落とし込んだきめ細かな楽曲、素直で丁寧な歌と演奏とアンサンブルがあれば、人間は興奮し感動できることを改めて思い知る熱演だった。7月に開催されるツーマンツアー『One-Step Tour』では、さらに逞しさを増した彼らに出会うことができるだろう。
SET LIST
01. 真昼の月
02. ナイトクロージング
03. ジオラマ
04. あとの話
05. 曇りのち
06. マザーロード
07. wake
08. 新曲
09. いつか
10. コンタクトケース
11. へっぽこまん
12. 世界の果て
13. 煙
14. メトロノウム
15. バンドワゴンに乗って
16. ゴーストバスター
EN
01. 新曲
02. グッバイ