インタビュー/森朋之
『SEA BREEZE 2016』が当時の歌に対する自分なりの落とし前だとしたら、今回はギターに対する落とし前ということですね。
昨年3月にリテイクアルバム『SEA BREEZE 2016』をリリース、7月には35周年記念ライブ「TOSHIKI KADOMATSU 35th Anniversary Live〜逢えて良かった〜」を横浜アリーナで開催するなど、アニバーサリーイヤーを華やかに彩った角松敏生。今年に入ってからも精力的な活動を続けている角松から、新作『SEA IS A LADY 2017』が届けられた。1987年に発表された初のインストアルバム『SEA IS A LADY』を完全リテイクした本作は、80年代のフュージョンの魅力を改めて体感できると同時に、“ギタリスト・角松敏生”のプレイを堪能できる作品に仕上がっている。5月12日(金)からは全国ツアー「TOSHIKI KADOMATSU TOUR 2017 “SUMMER MEDICINE FOR YOU vol.3” 〜SEA IS A LADY〜」もスタート。『SEA IS A LADY 2017』の制作プロセスと全国ツアーについて、じっくりと語ってもらった。
──インストアルバム『SEA IS A LADY 2017』がリリースされます。1987年に発表された『SEA IS A LADY 2017』をリメイクした作品ですが、このアルバムを制作した動機は何だったんでしょうか?
いろいろ逡巡してたんですよね、じつは。今年の5月からツアーをやることは決まっていたんですが、このところコーラスとして参加してくれていたMAY’Sの片桐舞子ちゃん、R&Bシンガーの為岡そのみちゃんの都合が合わず、鍵盤の森俊之さんも参加できないことになって。モチベーションはあっても、ミュージシャンの都合が合わないことはよくありますが、その3人がいなければ、歌モノのステージは構成できない。そこでいろいろと考えた結果、歌ナシのインストアルバムを作って、それを持ってツアーをやろうと思ったんです。
──アルバム『SEA IS A LADY』は当時大ヒットを記録したわけですが、ギタープレイには納得していなかったそうですね。
そうですね。デビューから数年経って、少し余裕が出来た時期にリリースしたのが『SEA IS A LADY』だったんですが、ギターに関しては下手の横好きとまでは言わないけど、“フュージョンが好きだからやってみた”というところもあったし、商業的な狙いはそんなになかったんですよ。それが思いがけず売れてしまったものだから、すごく嬉しかった半面、“これは困ったぞ”と思って。特に自分のギターに関しては不満があったので、すぐに2枚目のインストアルバム『Legacy of You』を出したんです。
──なるほど。
これはアルバムのライナーノーツにも書いたんですが、アマチュア時代は歌よりもギターのプライオリティが高かったんです。ただ、歌もギターも中途半端なスキルのままプロデビューしてしまって。歌に関しては10年くらい経ってようやくまともなシンガーになれたかなという自己評価なんですよ、僕のなかでは。ギターもずっと好きで弾いてきましたが、自分的には下手の横好き程度の認識でした。しかし、お客さんのなかには“角松さんのインストアルバムが青春だった”という方もいるので、このタイミングで『SEA IS A LADY』をリメイクするのもいいんじゃないかな、と。『SEA BREEZE 2016』が当時の歌に対する自分なりの落とし前だとしたら、今回はギターに対する落とし前ということですね。あとはキーボーディストの小林信吾さんがツアーに参加できることになったのも大きいですね。小林さんとは80年代にインストのツアーをやった時期に出会ったので、これも何かの縁かなって。
──30年ぶりに『SEA IS A LADY』の楽曲に向き合ってみて、いかがでした?
『SEA BREEZE 2016』のときはオリジナル・マルチがあったから、それを活かして、歌とコーラスだけをリテイクしたんです。今回は権利の関係でマルチトラックが使えなかったから、完全に1から録り直したんですよ。アレンジはほぼ同じなんですが、現在のバンドメンバーの音でブラッシュアップしたというか。“もっとスキルがあったら、こういう演奏にしたかった”ということもやれたし、当時『SEA IS A LADY』を好きで聴いてくれていた人は“同じものが100万倍のパワーになった”という印象を持つんじゃないかな。
──楽曲の本来のポテンシャルを引き出したという言い方もできそうですね。
改めて聴いてみて“おもしろいな”とは思いましたね。たとえばコードの構成にしても“何でこうしたんだろう?”というところがけっこうあって。それはギターで曲を作ってたからなんですよね。僕が鍵盤で作曲を始めたのは80年代後半なんですけど、『SEA IS A LADY』のころはまだギターがメインだったから、いま聴くとちょっとヘンテコリンな感じがするんです(笑)。それがこのアルバムのオリジナリティになっていたのかもしれないですね。当時はそんな意識はなくて、必死でやっていただけなんだけど。