──『trinity』の収録曲の中からは「衝動の粒子」が再録されています。もともとどのように作られた曲で、再録してどのように変わりましたか?
岸本 結成してすぐにバーって曲を作って、『trinity』の曲も半分以上揃ってたんですけど、リード曲っぽいのなんかないかな、みたいになって。で、僕のLogicにデモが10個ぐらいあって、その中の一つにあのピアノリフが入ってたんです。ちょっと変な四拍子と二拍子を織り交ぜたやつで、「これを膨らませてみるか」と思って、それでできたのが「衝動の粒子」。ただ当時は僕含めメンバーみんな手探りで、せーのでバーってやってっていう感じよりも、一個一個組み立てていく作り方だった気がします。ドラムを録って、ベースを録って、ピアノはダビングして、みたいな感じ。録音してくれたエンジニアの平野(栄二)さんも「出来上がったやつはめちゃくちゃいいんだけど、録ってるときは何をやってるのかよくわかってなかった」みたいなことを言ってて。ミックスが仕上がって、やっとイメージしてたものができた感じがしました。
井上 完全に手探りでした(笑)。ドラマー的に言うと、音量の問題があって、ピアノと一緒にやるのが初めてだったんですよ。それまではダイナミクスをそんなに意識したことがないというか、むしろ音をでかく出さないと聴こえないぐらいのところでずっとやってたから、そこがめちゃくちゃ大きな違いでしたね。デビューしてからもしばらくは、ライブで毎回「あそこどうしたらいいのかな?」みたいな瞬間が数え切れないほどあった気がします。
カワイ ポリリズムのキメのとこあるじゃん。あれをつかっちゃんがどこか地方のホテルでめちゃめちゃ練習してて。寝て起きたら、誰かすごいでかい音で布団叩いてんなって(笑)。
井上 ツアー初日にそのキメをめちゃくちゃ間違ったんですよ。それでもう翌朝起きて、ホテルの部屋でずっとやってて。聴こえてないかなって思ったら、ロビーでみんなに言われました(笑)。
井上 司(Dr)
──でもそこからはライブでずっとやってきて、今回のレコーディングではもちろん最初からイメージも共有できてるし、録音もスムーズだったのかなと。
カワイ ライブでもう何百回何千回やってきてるので、すんなり録れました。曲が育ち切って、改めて収録できた、みたいな。
井上 録ったときも「めっちゃうまくなってる」って、みんなで言ってました。
岸本 今回のはそうですね。ライブ感であり、ドライブ感重視というか。
──構成はほぼ変わってなくて、曲の長さもほぼほぼ一緒ですね。
岸本 アレンジは大きく変わってないですけど、でも演奏の熱量があって、人間っぽさが出てる。
カワイ パーツ録りと一発録りだと、全然音色感も違いますね。初期はクリックに合わせて録ることが全然できなかったんですよ。でも今はクリックに引っ張られずに、自分でコントロールできるようになったのは成長だと思います。
カワイ スタジオも一緒だし、なんならレコーディングした時期も一緒だよね。で、終わった後に飲みに行くメンバーも一緒(笑)。
カワイ ヒデヒロ(Ba)
岸本 13年ぐらい経ってるけど、そんな変わってねえな(笑)。
井上 当時僕が持ってたのはドラムスティックぐらいだったから、スタジオにあるドラムセットを使ってて、今は自分のドラムセットを持ってるけど、でも同じスタジオで、いいドラムセットがあるから、今回もそれをそのまま使ってるんです。
──スタジオもエンジニアも楽器も一緒だけど、でも確実に演奏が変わってると。当時はこの曲がMVになって、かなり再生されました。下北沢のヴィレッジヴァンガードや、新宿や渋谷のタワレコといったリアルな店舗と、ネットの影響と、どっちの力もあって広がった感じがしますよね。
岸本 YouTubeとかネットもどんどん普及して、自分が普段聴いてるジャンル以外の音楽の情報も入ってきやすくなったから、そういうのを求めてる人も増えたと思うんです。ミクスチャーミュージックじゃないですけど、何かと何かを掛け合わせて、新しいムーブメントを作るというか、ちょうどそういう音楽を求めてる人が多かった時期なんじゃないかな。前に(渡辺)シュンスケさんと対談したときもそんな話になったんですよ。e.s.t.とかを聴いて、こういうのを日本で誰かがやり出すんだろうなと思ってたところに、foxがピアノトリオで出てきた、みたいな。
──それで言うと、ロバート・グラスパーはその時代の象徴ですよね。『Black Radio』が2012年、『Black Radio 2』が2013年のリリースだから、まさに同時代だったわけで。
岸本 グラスパーはR&Bとかヒップホップの色が濃いので、自分たちとスタイルは違うと思うんですけど、でも違う音楽の要素を共存させるっていう意味では、時代性も含め、共通してた部分はあるのかもしれないです。特にミュージシャン界隈では、ロバート・グラスパーであり、クリス・デイヴの影響下にある人は多かったですよね。
──だから日本でもジャズとヒップホップを混ぜるバンドが増えたけど、foxもそういうのを一部取り入れつつ、でもやはりクラブジャズ寄り、ダンスミュージック寄りだったから、そこは独自性がありましたよね。あとは「衝動の粒子」のような日本語タイトルも独特でした。
岸本 ジャズ界隈の人はやっぱり海外照準という意味で、みなさん英語でタイトルをつけると思うんです。でもtoeが「孤独の発明」みたいなタイトルをつけてて、そういうのかっこいいなって。ジャズという外来の音楽なのに、しかもインストなのに、日本語のタイトルをつけるのは意外性や独自性を表現するのにいいかなって。「衝動の粒子」は初のMV曲でもあったから、日本語のタイトルにすることで、自分たちの方向性を提示したいっていうのはあったかもしれないですね。
──『trinity』から半年後の2013年12月には、2ndアルバム『BRIDGE』がリリースされました。
岸本 2014年の夏ぐらいに2ndアルバムを出すイメージだったんですけど、『trinity』の調子が良かったので、「年内にもう一枚出してもいいんじゃない?」みたいなことを谷口ディレクターが言ってて。ただフルアルバムだとちょっと荷が重いから、ミニアルバムとかEPぐらいにして、タイトルも「繋ぎ」という意味で『BRIDGE』で考えてたら、割とちゃんとしたアルバムになって、しかも高い評価を得てしまった(笑)。
──「JAZZ JAPAN AWARD 2013 アルバム・オブ・ザ・イヤー ニュー・スター部門」、「CDショップ大賞2014」のジャズ部門を受賞しました。
カワイ 「曲数を稼ぐため」っていうのは言い方が良くないですけど、「RISING」のモチーフの一部を使って、曲をジャムセッション的に作ったりもして。
──それによって作品のカラーがはっきりした部分もありますよね。
岸本 「RISING」や「Attack on fox」のようなライブ映えする曲調もあったから、それなりに存在感のあるアルバムになったのかな。
──『BRIDGE』からは「RISING」が新録されていて、こちらはオリジナルよりも尺が短くなっていますね。
カワイ ソロの後の戻ってくるところを削ったんだよね。ジャズのフォーマットで、「テーマをやって、ソロをやって、またテーマに戻る」みたいなのをその時期はまだやってたと思うんですけど、ライブで「ここいらんか」みたいになって、今の形になってると思う。
岸本 オリジナルバージョンの方がストーリー性はあると思うんですけど、今はライブでの感覚を重視して、シンプルに盛り上げていく、階段を登っていくみたいな形になっていて。
井上 今回のレコーディングはまさにライブの感じでやりました。特に後半で一回みんなでバーンってなった後に、また盛り上がって終わるところは、ライブだと毎回変わるんですけど、それをいい感じにパッケージできたかなって。最初に録ったときは、ライブで今みたいな感じの立ち位置になる曲だとはわからずに録ったので、そういう意味でもだいぶ変わったと思います。
──『BRIDGE』からさらに半年後、2014年7月に3rdアルバムの『WALL』をリリース。
岸本 ここまで出した作品の中で、『WALL』が一番自分たちの中で重要な一枚だったのかな。バンドとしてステップアップしていくことにめちゃくちゃ重点を置いていて、「ここで爆発する」っていうのをすごく意識してた気がする。
井上 実際それまで僕らを聴いてこなかった人たちからも、『WALL』で一気に反応があった感じがしました。
カワイ アルバムの曲がテレビですごい使われだしたり。
岸本 「これ全然ジャズじゃねえな」みたいな話はしてたんですよね。「JAZZ JAPAN AWARD」でつかっちゃんがドラムをガシガシ叩いたり、そういうのを楽しんでた部分はあるかもしれない。「疾走する閃光」と、カワイくんが作った「Elementary Stream」がアルバムを象徴する2曲だと思うんですけど、当時リハスタで「Elementary Stream」のアレンジを詰めながら、「これジャズっぽくなくていいやん」みたいな話をした記憶があります。「疾走する閃光」もドメスティックな日本の音楽ですよね。いわゆる邦楽ロックの、四つ打ちの速い曲が当時全盛だったので、クラブジャズとか、ポストロックとか、foxっぽいスタイルは活かしつつ、それを自分たちなりにやるとどうなるか。それでできたのが「疾走する閃光」で、今や代表曲になったなって。
──2013年にKANA-BOONの「ないものねだり」やゲスの極み乙女。の「キラーボール」、2014年にフレデリックの「オドループ」が出たりと、まさに四つ打ちロックの全盛期でした。「疾走する閃光」はそれに対するジャズシーンからの回答のようなイメージもありました。
岸本 とはいえアルバムには「unsolved」とか「this wall」とか、「Paranoid Android」のカバーもあったりして、緩急はしっかりついてるアルバムになったなと。「a.s.a」みたいなクラブミュージック要素が強い曲もあるし、リード曲としては「疾走する閃光」や「Elementary Stream」を提示はしてるんですけど、そこから入ってきた人に曲の幅広さを感じてもらえるアルバムになったと思います。
井上 「疾走する閃光」はこの時代の四つ打ちのJ-ROCKの影響もあってできましたけど、2024年に新録したやつはリズムをガラッと変えて、四つ打ちを封印したんですよね。なので、あの時代はあの時代の良さがあるし、今は今の良さがあるかなって。
カワイ 当時はいろんなことが回り出した時期というか、foxとしての認知度が上がって、多分この時期ぐらいから作家的な仕事も入るようになってきて、最初の「売れた」を認識したのがこの辺かなって(笑)。
──では改めて、『trinity』、『BRIDGE』、『WALL』の3作は、バンドにとってどんな意味のある3作だったと言えますか?
カワイ fox capture planの名刺代わりになるぐらいには、サウンドのキャラクターが作れた3作なんじゃないかなっていう気はしますね。この3作でフォーマットを作れたかなって。
岸本 何でもできるなっていうのは思いましたね。ジャズはもちろん、ソウルとかR&Bっぽいのができるのはわかってたんですけど、ロックっぽい曲とか、複雑な音楽もこの編成で、しかもサウンド的にも面白く、しっかり表現できるなって。ピアノ、ベース、ドラムっていう、一番ベーシックであり、いろんなジャンルの音楽を自由に横断できる編成を、この3枚のアルバムで確立できたと思いますね。
井上 fox capture planという定義を最初に世の中に示した3作って感じですね。一番新しい 『DEEPER』も3人だけで作りましたけど、でもこの当時の3作とは全然違って。
──そう考えると遠くまで来ましたね(笑)、でもやっぱりこの3作で築かれたバンドとしての軸みたいなものが『DEEPER』の根底にも間違いなく流れていると思います。
岸本 昨日インスタライブをやってたら「コピーバンドやってます」みたいなコメントをくれる人もいたんですけど、そういう人たちがイメージするfox capture planのサウンドは、やっぱりこの初期の形なのかなと思ったりしますね。
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