
正人さんの素晴らしいアレンジのカバーソングや新たな彩りが加わったセルフカバーの音源を聴くことで、「THE MOMENT」のライブ会場にたどり着いてもらえたら嬉しい
これまで何度か開催してきたけど、「THE MOMENT」のために作ってくれた正人さんの素晴らしいアレンジを、ライブだけで終わらせてしまうのはもったいない。そして音源を聴くことで、1人でも多く「THE MOMENT」のライブ会場にたどり着いてもらえたら嬉しいなっていう、その両方の思いがあって音源をリリースしました。
これぞ鈴木正人!って感じですよね。正人さんが手がけた、UAをはじめとするいろんなアーティストの曲を聴いてきたけど、ある種の緊張感を持ちながら曲が進んでいく感覚がすごく好きで。この「深呼吸」はリズムも入っていないんだけど、少し説明の少ないアレンジにしてほしいっていうアイデアだけ最初に伝えたんです。このアレンジができた時、わー、頑張るぞ!ってすごく感動したのを覚えてます。
「Smile」は歴史的な諸先輩方が歌い継いできた曲ですよね。そして、もともとがチャップリンという喜劇役者が作った映画音楽。前半で喋ったような、フィジカルな部分も含めた表現の中で生まれた音楽だとも思うし。そういう意味合いを持った曲だから、自分が「THE MOMENT」でやってることとすごくリンクしてる。この曲を歌ったナット・キング・コールやサミー・デイヴィス Jr.、マイケル・ジャクソンだって歌ってたし。自分の中では「THE MOMENT」を象徴する曲かなって思ってます。
そうそう。最初の「THE MOMENT」(2020年)をやる時に、訓ちゃん(野村)にどんな曲歌ったらいいかな?と相談した時、「Smile」を歌ったらすごくいいと思う、もし歌うんだったら日本語の歌詞をつけるよ!って提案してくれて。それが始まりだったんです。
期せずしてその後コロナ禍になった時、みんなマスクをしていて顔の表情がわからないし、人との距離感とかなかなか思うようにはいかないけれど、そういう時こそ、「笑顔を忘れずに、smileは最高のワクチンだよ」って気持ちで歌ってきました。
訓ちゃんの訳詩はこの曲に新たなストーリーを加えてくれて、歌の世界を広げてくれた。本当に感謝してます。
ずっと海外で暮らしていた叔母が、日本に帰国した時にライブを観に来てくれて。その時に「あなたは日本のポール・サイモンね」って (笑)
そうですね。だけど元々は、ずっと海外で暮らしていた叔母が、日本に帰国した時にライブを観に来てくれて。その時に「あなたは日本のポール・サイモンね」って感想をくれたんです(笑)。もちろん『Graceland』なんかは好きだったけど、そこまで詳しくは知らなくて。そこから遡っていろいろ作品を聴いていく中で、この曲は特に素晴らしいなと思ったんです。なんだろう、曲を聴いてるだけで寒空のニューヨークが浮かぶっていうか。世界中の人たちが、この街で何かしらの夢を掴む、みたいな。映画とかドラマとか、子供の頃からの刷り込みもあるのかもしれないけど、孤独だけどその真横にすごい夢もあるっていう。そういうイメージが音に詰まってると思います。それで、歌詞を自分で訳して読んでみると、本当にそういうことが書かれてるんですよね。メロディと一つ一つの楽器の音色が、そのストーリーに全部マッチしている。だから、歌っててもすごく気持ちいいんです。自分がニューヨークで生きてるような気持ちになっちゃうというか(笑)。なんだか綺麗に生きれない、ラブソングなんかそんな好きじゃねえんだみたいなさ。その不器用さがちょっとニューヨーカーっぽいっていうか、映画の『タクシードライバー』とか。
そうそう。でこぼこした自分をもう抱えながら生きる、孤独なニューヨーカーっていうのが、なんか音にすごい詰まってる。この曲のカバーを最初に披露したのは、最初の「THE MOMENT」で、ストリングスがダブルカルテット(8人編成)で、そこから自分のライブでも定番になってきたのかな。今回の音源もダブルカルテットでレコーディングしています。
そこはやっぱり鈴木正人節って感じで、流石だよね。
マサユキさんとは、この春に「ハナレグミ TOUR faraway so close 2025 ~ハナレグミ with sweet thing♡~」として、2人でツアーを回っていて、夏の「TOUR good to go!」でも披露しました。このアレンジはすごく気に入っているし、やっぱりマサユキさんのギターの上で歌うのは気持ちいいなと思って。このバージョンでぜひ入れようと決めました。
ホーンも入ったバンド編成で裏打ちにすると、やっぱりスカパラのアレンジに近づいてしまうしね。せっかくだからスカの跳ねるビートから、地面を這うようなグルーヴを意識して。
作曲した沖祐市さんが作るメロディはほんと美しくて、「Still Crazy~」並みに素晴らしいです!ポール・サイモンのメロディと沖さんのメロディは、結構近いところにあると僕は思ってるから。歌っている時、気が付いたらすごく景色の高いとこにいるような。口ずさんでるだけで、すごい多幸感に到達する。僕はスムーズに歌ってるだけだから、スムーズにメロディを捉えているんだけど、楽曲としてはかなり複雑なコードワークだったりもして。アレンジ上でも、ドラマチックにな仕上がりになっていく。それを、ミュージシャンのみんなが、すごく楽しそうにやるんですよね。「うわ、ここでこのコード行くのやばいね!」とか言いながら(笑)。そういう話をしてるメンバーを見てるのも好きです。
読みとく隙があるのも、音楽の面白さですよね。そういうのを聴くと自分ための椅子を設けてもらったような、特等席で音楽が始まってるような感覚になる
家の玄関で録りました。天井が高くて結構音が響く場所なんです。音のニュアンスとしても面白いかなって思って。自分の日常ともすごく近くて、ライブだけじゃなくて、飲んでてふとギターを持って歌いたくなる曲なんだです。だから、綺麗なレコーディングスタジオでテイクを重ねるっていうのもアリなんだけど、ライブ感を持って歌いたい曲だなと思った時に、ちょっとそういうスタジオじゃないところで録ると面白いかなと。
ああ、なるほど。玄関だしね!そのエピソード、次の取材で使おうかな(笑)。
そうやって読みとく隙があるのも、音楽の面白さですよね。ビートルズでも、ジャーンってコードを鳴らした後に、椅子がガチャンって倒れる音が入っちゃってたり。ボブ・マーリィの「Waiting in Vain」とかも、よく音量上げてく聴くとカウント入ってたり。そういうのを聴くと、聞き手にとって、自分ための椅子を設けてもらったような、特等席で音楽が始まってるような感覚になるでしょう。ライブ盤にしてもレコーディング作品にしても、その時間に入り込むっていう面白さを感じる曲っていっぱいあったはずなんだけど、今はどんどんそれが少なくなっている気がするな。
音楽以外のものをどう音楽の中に取り込むか。自分自身、そういう余白や隙のある音楽が好きだし、そういう中で音楽を作りたいって。うん。やっとわかってきたけど、音楽をやる上で整ったものを作りたいんじゃなくて、予期せぬタイミングに生まれるモーメントを、音楽の上で伝えたいんだと思います。いろんな要素が折り重なって、モーメントが生まれると思うから。
その時の声でしか伝えられないニュアンスがある。そういうことの意味がわかってくると、やっぱり歌って面白いなと思うんです
まさに「追憶」ですよね(笑)。
そうだと思います。テイクとしても、もうすごく自分でも気に入っていて。CDではベスト盤にだけ入れてたけど、配信にはアップしていなかった。だけど、スタッフからもあれは本当にいいテイクだったよねって話が出て、だったら入れようかっていう。久しぶりに聞いたけど今の自分と歌い方が全然違う。今の自分ではこういう風に歌えないし、歌わないなって。
声が記憶を持つっていうことは、まさにこういうことなんだっていう。やっぱりこの頃は多分、出会いと別れについて本当の意味でわかってなかったんだと思うんですよね(笑)。だから、この曲の持つ意味に、まだまだ辿り着けてない。出会ったり別れたりっていうことに対して、夢であり、ロマンチックなものと捉えてたんだと思う。すごく、その、だからこういう、ちょっと幼い、少し中性的な声を出しているし。当時の歌声を聞きながら、今の自分がこの物語を歌うことをイメージすると、出会ったり別れたりもいろいろしちゃったんで、だったらその声じゃないだろうって。いや、でも、声ってそういうもんだよと思う。仮にこの頃の歌い方を真似すると、すごく気持ち悪くなると思うんです。そういう意味では、シンガーに対するメッセージでもある。今の声をどんどん使った方がいいと思うし、その時の声でしか伝えられないニュアンスがある。それに、今の声ならもっと違った物語をイメージして歌えるっていう夢もあって。そういうことの意味がわかってくると、やっぱり歌って面白いなと思うんですよね。声には、そういうメッセージがすごく詰まっているから。
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