
そこで12月に終えたばかりの「THE MOMENT 2025」の感想と、ライブに合わせてリリースされた配信EP『THE MOMENT』について、永積にたっぷり語ってもらった。
ライブレポート ≫ ハナレグミ、“追憶”をテーマに掲げた「THE MOMENT 2025」初日、東京公演で観客に多彩な表現で手渡した、美しさと歓喜の “MOMENT”
自分自身でも、全貌がわからないまま進化していく感動があるんですよね。だから、ホットな気持ちのまま本番のステージに挑んでいけるから、すごく楽しいです!
「THE MOMENT」に対して、正人さんが嬉々として挑んでくれていることが、アレンジからも伝わってきましたよね。さらに言えばバンマスはもちろん、バンドメンバーやスタッフも含めて、「THE MOMENT」のチームがすごく成熟してきた感じもあるんです。1つのアイデアから、サウンドや演出がどんどん広がっていくという感じで。たとえば、NHKホールやグランキューブ大阪でも演奏した「Still Crazy After All These Years」は、時季的にもクリスマス感を入れたアレンジにしたくて。そこに歌の途中でややちゃん(内田也哉子)のリーディングが入って……みたいなざっくりしたイメージを、正人さんが具体的なやり方を提示しながら、音楽的に引き上げてくれる。そこからバンドメンバーも「じゃあ俺はこうしようかな」とか、意見を出し合ってくれたりね。バンドだけじゃなく、照明さんのアイデアから、じゃあここはアレンジをこう変えてみようとか。自分自身でも、ここからどういう風に育っていくんだろう?って、全貌がわからないまま進化していく感動があるんですよね。だから、ホットな気持ちのまま本番のステージに挑んでいけるから、すごく楽しいです!
でもね、この前のツアー(「TOUR good to go!」)の時のメンバーもそうだけど、僕から全部「アレンジをこうしてください」とか細かい指示をしているわけじゃなくて、みんなに関わってもらって、各々のアイディアをどんどん入れたり、そういうやり取りができるすごいスーパーチームになってきてるから、いつものバンドツアーもそれはそれで大きな喜びがあります。たとえば、ベースのマフちゃん(真船勝博)やキーボードのYOSSYが入ってるチームになったら、必然的にサウンドのアプローチが変わってきたり。だから「THE MOMENT」のチームとバンドのツアーのチームとで、いいグラデーションがついてきていて。だけど、その両者は決して遠くはなくて。自分が求めていた音楽の深め方が、すごくいい感じで形になってきている気がするんです。
そういう感覚で音楽を深められるようになったきっかけの一つとして、近藤良平さんと毎年横浜の赤レンガ倉庫でやっている「great journey」(註:ダンス集団・コンドルズ主宰の近藤良平と永積 崇の2人が、音楽やダンスを織り交ぜながら展開していく、パフォーマンス公演)が大きいかもしれない。たとえば良平さんは、照明さんと舞台をどう作っていくかをすごく意識的にやっていて。言葉にしなくとも、客席にピンスポットが当たるだけで観ているお客さんのマインドも変わっていく。良平さんと一緒にやってきて、音楽以外の表現から、自分の音楽が深まる感覚を何度も体験できたことはとてもいい刺激になってますね。
音楽を音楽から解放する感覚があるっていうか。フィジカルを使った伝え方の、自分の音楽にも引き込めるようになってきたっていう喜びが、今すごくあります
元を辿れば、自分が子供の頃にマイケル・ジャクソンから影響を受けたというのもあるけど、ブラック・ミュージックってフィジカルな部分も含めた表現というのが文化としてありますよね?例えば、サミー・デイヴィスJr.とか。あと、白人だけどフレッド・アステアのタップダンスとか、ああいうエンターテイメントが子供の頃からすごく好きだったんだなって。タップダンサーの熊谷和徳くんと一緒にやる時なんかも、音楽を音楽から解放する感覚があるっていうか。フィジカルを使った伝え方の、その入り口を自分の音楽にも引き込めるようになってきたっていう喜びが、今すごくあります。
そうですね。ずっと仕舞い込んでいて、「いや、さすがにこれは使えないよな」って、昔の自分だったら思い込んでたものが、この「THE MOMENT」を始めてから全部使えるじゃん!って気付けました。ここ数年で、演劇やダンスパフォーマンスを観に行く機会が増えた。これは全然否定的な意味じゃないんだけど、かつての自分が音楽で受けたバーンとぶっ壊してくれるような圧倒的な感動が、今はダンスや演劇のような舞台芸術にすごく感じることが多くて。ある意味ありがたいことなんだけど、音楽って普段から流れているし、日々の生活の中心に入り込んでいるでしょ。それに、今の最新技術が駆使されることで、どこか壮大にもなってきている。でも、僕は世の中がどんどん外に外に開いていけば開いてくほど、すごく小さなことの方に目を向けたくなるんです。そういう意味で舞台の上で役者が、ちょっとした言い回しでがらりと景色を変えたり、ダンサーの人が指先とかその体の動き一つで、日常と隣り合わせにある、ちょっと異様な空気を作ってることの方に、今はむしろ強さとかしぶとさとか破壊力を感じるんですね。
音楽って横方向に流れていくけど、リーディングは縦に杭を打っていく感じがあってドキッとします。音楽だけでは出せない緊張感を彼女が生み出してくれる
今回やってて思ったのは、音楽って横方向に流れていくけど、リーディングはその流れに対して、縦に杭を打っていく感じがあってドキッとします。それに彼女の声を聴きながらその曲が進行していくのが、なんていうか、音楽だけでは出せない緊張感を彼女が生み出してくれる。
あとはやっぱり彼女の持つ、声の眼差しがすごくて。特に彼女は英語とフランス語もできるので、聴いていても言葉の意味は理解できない部分があると思うんです。だけど、声の質感や肌触りだけで読み解ける何かを、彼女の声は持ってる。前にどこかで話したかもしれないけど、声そのものが記憶を持っているというのを、ずっと考えていて。彼女の声には様々な記憶を感じるし、多分、いろんなことを考えて生きてきてる人の声だろうなーと。そして子供の声にも聞こえるし、すごく年を取ったお婆さんの声にも聞こえるし、今の彼女自身の年齢の女性の声にも聞こえる。そこに理由はなくていいし、この声を聞いて、きっと何かが思い浮かぶはずだから、僕としてはもうそれで大正解なんです。自由度の高い、だけど力のこもった何かっていうのを、自分の音楽の中に巻き込めたんじゃないかなと。その喜びが今回の「THE MOMENT 2025」にはあるんです。嬉しいことに、2026年2月に追加公演を行えることが決まったから、ぜひ観てほしいなって思います。
僕とよっちゃん(中納良恵)のお互いの声が重なると、果たしてどこまで行っちゃうのかっていうのを見届けてほしいです
自分が恵まれたタイミングで音楽やれているなって思うのは、同世代に尊敬できるシンガーがいるってこと。よっちゃん(中納)もそうだし、二階堂和美さんとかね。よっちゃんは、最近ではスカパラでも一緒に歌ったけど、もうお互いに気持ちいいぐらい抑えることなく。デュエット相手としては、こんなに心強いものはないです。追加公演では、よっちゃんの声も思う存分に浴びてほしいし、僕とよっちゃんのお互いの声が重なると、果たしてどこまで行っちゃうのかっていうのを見届けてほしいですね。







