どんな人にも当てはまる核心的なこと、時代が動いても変わらないものを、作りたいし、歌いたい──三度目の全国ツアーに出る帝国喫茶・杉浦祐輝に、バンドの現在地を訊いた

インタビュー | 2024.10.11 18:00

メンバー4人のうち、ボーカル&ギター杉浦祐輝、ベース疋田耀、ドラム杉崎拓斗の3人が作詞作曲をし、ギターのアクリがデザイン等のアートワークを手掛ける。という、自身の武器を活かし、2024年7月から3ヵ月連続で、杉崎拓斗作詞作曲の「なんとなく」、杉浦祐輝作詞作曲の「会いたいんだよ」、疋田耀作詞作曲の「光を迎えに行こう」と、新曲を配信リリースしてきた帝国喫茶。
それに合わせて、地元大阪の心斎橋Music Club JANUSで、7・8・9月の3本、それぞれの楽曲にスポットを当てた「LOVE編 杉崎拓斗presents」「PEACE編 杉浦祐輝present」「MUSIC編 疋田耀presents」のマンスリー・ライブを行い、成功に終わらせた。
さらに、その3曲を携えて、10月10日札幌から11月16日Zepp DiverCity(Tokyo)までの9本、キャリア最大キャパのツアーに出る。この3曲のこと、現在の心境やビジョン、そしてツアーのことについて、9月14・15・16日に新宿・下北沢・渋谷で行われたサーキット・イベント「TOKYO CALLING」の、16日に出演するため東京に来たタイミングで(彼らは大阪在住です)、杉浦祐輝に訊いた。

もっとちゃんと言わないと伝わらないんだな、と気づくことが多かった

──2024年のここまでの活動で、新たに得たものや、気がついたことがあれば、教えていただけますか。
今年に入ってから、特に……自分たちの帝国喫茶、みたいなのが、わりと完成した気がしてて。今年の3月4月で回った二回目のツアーは、それをお客さんにどう伝えるかに、重心があった感じがしますね。それまでは、まだ自分たちを定義づけられてなかったというか。でも、そのツアーは、できあがった帝国喫茶をお客さんに伝えてもっと巻き込みたいというか、そういうことを考えてやっていましたね。
──ライブのやりかたも変えた?
だいぶ変えました。僕は、言わなくても伝わってほしい、と思ってるところがあるんですよ。だから歌を歌いたいと思ってるし。言葉で伝わる以上のことが、音楽って伝わる時があると思うんで。それを期待してる部分があったんですけど、そうじゃなくて、もっとちゃんと言わないと伝わらないんだな、と気づくことが多かったんで、今年は。
──それは、必ずしも言葉で説明するってことではないですよね。
言葉もそうですけど、歌もそうですし、演奏もそうですし……それは曲の中に込めてるつもりだったし、ちゃんと演奏すれば伝わると思ってたんですけど。うれしい時はちゃんとうれしいっていうものをそこに上乗せしないと、伝わらないんだな、というか。こっちが伝えようとしている姿勢とか、意志みたいなものが見えないと、受け取る側は、届けようとしてないように見える人もいるのかもしれない、という。
──でも、たとえばそこで、熱くて長いMCをするバンドもいるけど、帝国喫茶は違いますよね。
それを僕がやるのは違うと思ってて。そうじゃないやりかたというか……セットリストの組み方もそのひとつですし、曲をより伝えるために、歌い方とか、表情とか、そこでメンバーがどう動くか、とか。ただ歌うだけじゃなく、その曲に込めた、作った時の気持ちで毎回歌うとか。そういうところが足りてなかったんかな、と思いました。次はちゃんと表現で勝負するところに行かないといけないな、というので、そこに向かって行った感じですね。

杉崎と疋田の曲を最初に聴いた時、むしろ、ちゃんと説明するふたりだな、と思った

──メンバー4人のうち3人が詞曲を書く、ということについては、もうさんざん訊かれてきたと思うんですけど──。
そうですね。
──でも、組んだ最初からそうなんですよね。
はい。ふたりはそれまで曲を作ったことがなくて、僕は弾き語りをやってたんで、ちょっと作ってたんですけど。でも、その頃から、僕は、最初に言ったような、言わなくてもわかってほしいみたいな部分があるっていうのは、無意識に感じてて。でも世に出て歌いたいっていう気持ちはあったんで、そういう時に、誘ったメンバーが曲を書いてきて、その曲を聴いた時……むしろ、ちゃんと説明するふたりだな、と思ったんですよ。
──(笑)。確かに。
自分の足りない部分を補ってくれるな、そういうバンドになっていくんだな、というのは、もう組んだ瞬間に定まった感じですね。
──杉崎さんが書いた「なんとなく」と、疋田さんが書いた「光を迎えに行こう」を、歌う人としてどう捉えたか、教えていただけますか。
ふたりに共通して言えるのは、そのまんまだな、という。ふたりの人間そのまんま。今までの曲は、帝国喫茶のアルバムに入れようとか、帝国喫茶として出す曲だから、という要素も感じるけど、この2曲はそういうのをとっぱらって、人間がそのまんま出てるなあと。杉崎が書いた「なんとなく」は……「なんとなく」っていうぼんやりした気持ちを、疋田だともっと突き詰めて考えると思うんですよ。でも杉崎は、無理に突き詰めて考えないというか。「なんとなく」のままいてもいいっていうまっすぐさというか、素直さが、杉崎そのものだな、と。

帝国喫茶「なんとなく」Music Video

──このインタビューの前に、杉浦さん、J-WAVEの生放送にゲスト出演して、僕もそれを聴いてからここに来たんですけど(2024年9月17日の夕方、『GRAND MARQUEE』に出演)。自分たちの曲のほかに、好きな曲を1曲かけるというルールで、杉浦さん、ザ・ブルーハーツの「夕暮れ」を選んでましたよね。
ああ、はい。
──あれ、「はっきりさせなくてもいい あやふやなまんまでいい 僕達はなんとなく幸せになるんだ」で始まる歌じゃないですか。「なんとなく」とリンクしてるなあ、と思ったんです。
僕も思いました、聴いて。あの番組は、曲を選ぶ時に「東京、夕方5時」っていうテーマがあったので。消去法というか、「東京」で選んだら、ほかの人とかぶりそうなので、あの曲を思いついたんですけど。
──あと、そんな「夕暮れ」が、言わなくても伝わってほしい、という、さっき杉浦さんがした話と、つながっている気もして。
ああ……うーん……まあ、ふたりが書く曲は自分では書かない曲だとか、自分は気づかなかった気持ちを書いて来てくれるから、歌ってておもしろい、みたいなことを言った時に、「それをなんで歌えるんですか?」とは、よく言われるんですよ。そこって矛盾じゃないですか。でも、僕の中で一貫してるのは、ずっと、人に興味があるんですよ。たとえば、大学の一般教養科目を選ぶ時に、「社会」「人間」「自然」みたいな項目があって、僕、無意識に「人間」からばっかり選んで授業を取ってて。人に興味があるんですけど、自分だけではそこに辿り着けないな、と、どっかで思ってるんですよね。どんな人にも当てはまる核心的なこととか、時代が動いても変わらないものを、作りたいし、歌いたいっていう気持ちがあるから。そうなった時に、自分ひとりで曲を作って歌うよりは、自分にないものも理解して歌えるようにならないと、本当に核心的なこと、本質的なことは、残せないんじゃないかな、って思ってるから。そういう意味では、人間を歌う、というのが帝国喫茶だなと思ってるんです。そういうところは、ザ・ブルーハーツだって──。
──ヒロトとマーシー、ふたりのソングライターがいますもんね。ザ・ハイロウズも、ザ・クロマニヨンズもずっとそうだし。
で、ずーっと聴かれるじゃないですか。そういうところを目指してるから、でしょうね。
──「光を迎えに行こう」は?
これは、まさにそういうことに気づかされたというか。僕、大事なことだけを歌いたい、というのがあるんですよ。「言わなくても伝わってほしい」にもつながりますけど。たとえば3ヵ月、制作期間があったら、その中で感じたひとつだけを伝えたいというか。いちばん自分の心の中に残ったものだけを1曲にしたい。でも「光を迎えに行こう」は、1日1日の中に、1秒単位で大事なものは転がってるから、という曲で。そういう姿勢が疋田だな、その視点が自分に足りないところだな、ってと思ったんです。

帝国喫茶「光を迎えに行こう」Music Video

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