恋愛の歌だって思って作った曲は、1曲もない
──じゃあ最後に、ご自分の書いた「会いたいんだよ」は──。
僕の曲は……やっぱりふたりは、視点が人以外のものにも向いてるんですよね。日常のこととか、街とか。でも僕は、人にしか向いてない。この曲も、できあがって、結局ずっと同じことを歌ってるな、と思いました。でもそれが、もう究極まで来たな、っていう、今回で。時間とか、考え方とか、合わないところはたくさんあるけど、そういう部分を会いたいっていう気持ちが飛び越えるぐらい、大事な人というか。そういう気持ちをずっと書きたいんですよね。理屈を飛び越えたところ、というか。
──「わかり合う」とか「通じ合う」のは無理、それはもうわかりました、そこから始めましょう、という──。
そうですね。それを認めたというか。
──ラブソングの体裁をとっている曲に聴けるけど、恋愛のことに限らず──。
恋愛の歌だって思って作った曲は、1曲もないぐらいなんですよ。でも、どうやったら伝わるかっていうので、いちばん身近で伝わりやすい、ラブソングっていう形を取ってる。
──わかり合えないとか、通じ合えないとか、認め合えないということは、音楽に限らず、表現をやっている人は、アウトプットしていった方がいいと、僕は思っているんですね。
うん。
──たとえば、自分の好きなミュージシャンとか、好きな作家が、ひとつ自分とは相容れない部分を持っているのを知ると、「そんな人だったなんて! もう聴きません!」みたいなね。自分もよくそういうことがあって、「いやいや、一ヵ所違っただけで全部否定しなくていいじゃん」って、そのたびに思うというか。
わかります。
──多様性という言葉がよく使われるけど、むしろひとりひとりは白か黒かを断定せずにはいられない、そうしないと落ち着かない。それは危険なことだと思っているので、杉浦さんのような「わかり合えません、ではどうしましょう?」っていう曲が、とても大事な気がして。
僕は、政治とか戦争とかの社会的なことは、自分は書けないなと思ってるんですけど。でもそういう、ひとつ違ったら全部違うってなるとか、それで相手を攻撃するとかっていう……でも、その「違う」っていうところが、社会の始まりじゃないですか。だから突き詰めていけば、直接的に社会のこととか、平和とかを歌ってるわけじゃないけど、結果的には、そういうところにも辿り着くというか。
──「平和」と歌うかなり手前の、根っこのところですよね。
その根っこのところを捕えたいというか。言葉にするのが難しい、でもそれを説明するんじゃなくて、もっと直感的なところで……説明せずとも伝えられるのが音楽だと思うんで。そういうところを目指してやっていますね。
ムダは省きたい、大事なことだけを伝えたい
──だから、すごく重要なことをやっているけど、すごく難しいことに挑んでいるとも思います。もっと直接的でわかりやすい音楽をやりたい自分だったら、ラクだっただろうなと──。
それはありますね。めんどくさいなあと思いますね。でも、それだと、自分がやる意味ないなあと思っちゃうので。そういう音楽が必要な人もいると思うんですよ。でも、そういう人にも、伝えたいというか。だから難しい言葉とか使いたくないし、説明もしたくないし。説明を苦手な人にもわからせたい。だからムダは省きたい、大事なことだけを伝えたい、というのは、そういうところから来てますね。
──世の音楽の流れとか、人気バンドの流行りとかへの、良く言えばカウンターになっている。悪く言えば、時流に乗っかれない。
そうですね。
──そもそも、プロフィールに書いてある、「2020年の夏、大学の学園祭に出るためだけに結成」っていうのも──2020年の夏って、コロナ禍になったばかりで、世の中の人たちがもっともバンドをやらなくなった時期じゃないですか。
そうなんですよね。
──ひとりでDTMで作った音楽がインターネットでヒットする、という、それ以前からあった手法が、コロナ禍ですごく加速したし──。
わざわざその時期に、スタジオに集まってね(笑)。だからやっぱり、人に魅力を感じてるんでしょうね。そこに希望があるというか。だからもう、どんどんひとりでいろんなことをできるようになっていってるじゃないですか。でも結局、その作ったものを届ける相手も、人なので。人と喜びを分かち合うことも、人間の心のひとつの姿だと思うんですよね。だからそこは、避けて通れない感じはありますね。やっぱり、わかり合えなくてもわかりたい、という気持ちがあるから、自分が書いてない曲も歌いたいし。バンドの方が、ひとりで作ってやっていくよりは、より人のことを理解できるじゃないですか。ずっとメンバーと生活するわけなんで。日常的にも、そういう環境を望んでるんだと思います。
──で、キャリア最大のツアーが始まりますが。
はい。さっきも言ったように、難しいことをやろうとしてる部分もあると思うんですよ。ただ、前の二回のツアーで、自分たちがこういう音楽をやっていて、それをどうやって届けるか、みたいなことを、考えてやってきたので。今回もっと、幅広い曲をちゃんと、その曲の意図どおりに届けながらも、お客さんがライブに入り込めるようなツアーにしたいな、っていう。そういう意図も込めてのツアータイトルですね、「君と空の下 光を迎えに行こう」っていうのは。そういう意味では、「いっせーのせーでー」から始まる「光を迎えに行こう」という曲が、このタイミングでできてよかったな、と思います。曲の幅は広いけど、「帝国喫茶やな」っていうのが、ちゃんと伝わるようなツアーにしたいですね。