──リード曲になった「TOMODACHI」は、軽快なリズム、キャッチーなメロディ、でも歌の表情はかなりナイーブだし、歌詞も内省的。多面性を感じる曲です。
涼音「TOMODACHI」に関しては、けっこうわがままに書きました。今まで書いた曲には、「自分の中でこう思っているけどできないな」とか、「こう思ってるけど伝えるのって難しいよね」みたいなニュアンスがあったんですけど、「TOMODACHI」のサビでは、“〇〇しておいてよ”って、こっちからのわがままというか、自分は悪くないという視点で書いていて。今までの曲は、自分の悪いところを自己反省している曲が多かったんですけど、この曲はまったく反省しないで書こうと思ったので、3曲の中でも異質なんですけど、でも人間の根本的な欲求とか、精神って、全員わがままなんですよね。結局、「自己が得するか損するか」みたいなところで、無意識的に生きていると思うので。そういう意味では、もっと深いところまで足を踏み入れたような楽曲になるのかな?と思います。
──「TOMODACHI」というのは、自分の中のもう一人の自分に向けて歌っている、という意味合いですか。
涼音というよりも、今までは、俯瞰して書いていたんですよ。自分の人生を、ちょっと傍から見ている感じ。でも「TOMODACHI」に関しては、僕自身ですね。(アーティストの)涼音というより、僕自身がどういう生き方をしてきたのか?というものが…そういうことをあんまり曲にしたくなかったんですけどね。「自分はこういう人間です」ということを、人に言うのって、防御をなくす感じがあったから。でも、この曲に関しては、「こういうこと言っちゃったけど、言わなきゃよかったな」とか、性格と、気持ちと、いろんなところで、自分の至らない部分を書いてるんですけど、でも歌詞の書き方としては“自分は悪くない”“ 相手が悪い”にしている。自己反省しているんだけど、「でも自分は悪くない。相手が悪い、と思っちゃうんだよな」という感情を、そのまま書いたなという感じです。
──「TOMODACHI」というタイトルだから、てっきり誰かに向けて話しかけているような歌詞かな?と思っていたけど、そうではなくて。
涼音…僕、友達いないんですよ。
飯沼一暁(Ba)そんなこと言うなよ(笑)。
涼音いやいや(笑)。本当に自分が、「この人は友達だな」と思っている人がいなくて、それに対する皮肉もあって、タイトルが「TOMODACHI」なんです。だから、最後は♪ラララ~になるんですけど、それも一人で歌ってるんですよ。
飯沼涼音しかいない。ハモリもね。
涼音僕の声が二つあって、外界的な自分と、内面的な自分の二人だけでハモっている。曲調は明るいんですけど、意外と寂しいところがあって、でもタイトルは「TOMODACHI」という、人間の複雑性みたいなところが描けたらいいなと思ってました。
──深いですね。深い。
涼音♪ラララ~も、一度みんなで録ったんですけど、「なんか違う」って(笑)。
永山明るすぎたよね。
涼音この曲、結局、ハッピーエンドじゃないんですよね。なので、気づいてほしいわけでもないんですけど、曲調とは真反対の内容だなと思います。
──ともかく、「TOMODACHI」は、涼音くんの中で、最も自分の内面に迫る部分を描いた歌詞になっていると。
涼音僕の人生史上、最も自分に近い曲かな?という感じはします。ただ、それを押し付けるつもりはなくて、僕から離れてリリースされたら、あとは自由に育ってくれればいいんです。たとえば「深夜6時」も、いろんな受け取り方をされるんですけど、元々は僕の不眠症の曲なので(笑)。それをみんな、自分の恋愛に重ねたりして。
miri(Key)経験と重ねたいからね。共感したいから。
涼音この間、面白いなと思ったのが、「ネット恋愛をしてます」というコメントがあって。私は彼の顔もわからないし、彼は私の顔もわかりませんと。それで、「サビの♪君に会ってしまえば、という歌詞が刺さりました」と言われて、「なるほど」と。一般的な恋愛の話として、「別れてしまったけど、会いたい」という意味で聴く人もいれば、「会ったら壊れてしまう」というふうに聴く人もいるんだなと。
──それ、すごく面白いですね。なるほど。
涼音僕が出した言葉が、違う性質を持って育っていくのを見るのが好きなので。いろんな人の、いろんな感情で、曲の性質が変わっていくのは、面白いなと思いますね。
──それは、そうさせるだけのイメージの力が、涼音くんの歌詞にはあるということだと思います。
涼音僕自身は、そういう歌詞の解釈を、音で表現してたりもしているんですけど。さすがに、まだいないね。そこまで拾ってもらえることは。
miri歌詞の内容を受けて、アレンジを調整することは、けっこうあります。やっぱりレトロリロンは、歌詞が前にあってほしいし、そこにどう後押しできるか?という感じなので。
涼音それを一番やったのは、「独歩」かもしれない。一番のサビが終わって、ワルツの拍子になるところ。普通に3拍子に行くだけだと、この曲の感情があんまり伝わらないから、miriに「ピアノを叩いてくれ」と。一番は、わりと客観的な感覚で歌詞を書いていて、一番が終わったあとのセクションが、すごく内面に入っていくところなので、そこで一回(流れを)壊したくて、「そういう音を入れてほしい」という話をしたり。あと、「独歩」の落ちサビのところ、2個だけの音で弾いてるんですよ。
──♪お別れしてきた心をまた、のところですね。
miriコードの概念として、ルートと3音(三度上の音)があれば、コードという認識はできるので。重要なものだけを厳選して、2音だけ弾いてます。
涼音そうすることによって、ヒリヒリ感というか、ちょっと押したら壊れちゃうようなものにしたくて。“お別れしてきた心をまた”という歌詞の持つ、ヒリヒリ感に合わせる感じで。
──すごい。そこまで考えてアレンジしていたとは。
涼音そういうのも、実はやってたりしますね。♪あのこにいわれたわるぐちかかえて、のところも、左(チャンネル)と右で違う歌詞で歌っているんですけど、ここが一番、今作で遊んだところかな。ワルツっぽいところは、4文字縛りで歌詞を書いていて、そのあと4拍子に戻るんですけど、そこからは3文字にしていて、なので、わざとそこは全部ひらがなで書いている。そういうふうに、今作は、音でもちゃんと遊ぶというか、感情的なところを表現するという意識があって、「独歩」が一番それができた曲かな?と思います。
飯沼考察し放題ですね。
──いやー、めちゃくちゃ面白い。「この一音にも意味があるんじゃないか?」とか、いろいろ考えちゃいますね。
涼音でもそれは、全然汲み取られなくてもOKです。自己満足なので。
永山気づいてほしいというよりは、曲の完成度のためにやっていることなので。
miri まずは、自分たちが納得すること。
涼音聴く人の、心の琴線に触れに行くためには必要な作業というか、たとえ気づかなくても、アシストはしてると思うんですよ。どんどん音を増やして、盛大にアレンジしていくほうが、現代的なポップスのアレンジとして人気だとは思うんですけど、それだとあんまり、奥まで入っていけないんですよね。「どうやったら、聴いた人の中に、勝手に入り込んでいけるか」みたいなところで、歌詞もメロディもアレンジも、全部細かくこだわってはいる、という感じですかね。どんなミュージシャンも、たぶんそうだと思うんですけど。
──それはそうだと思いますけど、ここまでやる人は、あまりいないと思いますよ。
涼音まあでも、楽しくてやっていることなので。しかもそれを、リアルタイムでやっていて、後付けのアレンジがない。
miri 持ち帰って家でやる、みたいなことはあんまりなくて。4人で集まって、その場でやって、足し引きして。
涼音その衝動性がないと、整理されてしまって、綺麗になっちゃうんですよね。綺麗にしすぎると、つるつるになっちゃうというか、引っかからないから。
──もう1曲、6曲目に入っている「夢を見る」も、新曲ですか。
涼音これは実は、結成1年ぐらいの時にありました。ライブでは、やっていたんですよ。
miri ちょいちょいね。
涼音今回、書き下ろし3曲があって、すでに出している「ヘッドライナー」と、「たださよなら、命燃え尽きるまで」と、5曲は入ることが決まっていて。あと1曲は、まだ世に出していないストックの中から決めようと思っていたんですけど、満場一致でした。この曲が、すごくいいバランス感で、最後を締めてくれたなと思います。今後、ライブでは定番化してくんじゃないかな。「アンコールと言えばこれでしょ」みたいな曲って、あんまりないんですけど、この曲はたぶん、そういう大事な役割を担ってくれそうだなという感じはしていますね。
飯沼この曲、めっちゃ好きなんです。最初に聴いた時から。
涼音たぶん前作の「インナーダイアログ」よりも、バランス感が良い1枚になったかなと。前作は、シングルで出した曲が集まってきて、新しい曲を2曲書いて、それを受けて(バランス感を)考えてたので。今作はすべてが、決まるべくして決まってた感じがしますね。
──ここから涼音くんが、どんな曲を書いてくるのかはわからないけれど。ここまで、自分史上最高に自分の内面を掘り当てる曲を書けたということは、すごく自信になったんじゃないかなと思います。
涼音そういう意味では、「こういうことをやりたい」というアイディアが今はあるというか、温泉を掘り当てた感はありますね。
miri 湧き出ている(笑)。
──楽しみです。2024年が、レトロリロンにとって、素晴らしい年になりますように。
涼音そうしていかなきゃいけないですね。
──そして、今回は、ジャケットのデザインにも大事な意味があるんですよね。
涼音はい。やっと、黒木渚さんと仕事ができました。
──この、青い服のモデルは、実は、涼音くんが敬愛するシンガーソングライター・黒木渚さんです。顔は出てないですけど。
miri でも、渚さんじゃないと、このシルエットは出ないですよね。
涼音そういう意味でも、特別なEPになったなと思います。高校生から追っかけしていた人と、仕事として、ちゃんと現場にお招きして、自分のCDのクレジットにその人の名前が入っているというのは、とても嬉しいです。次は音楽で、何か一緒にやりたいですね。
──さあ、そして、EPのリリース後にはツアーがあります。東京公演は、2月12日の渋谷クラブクアトロ。キャパシティもどんどん大きくなる中で、どんな思いを持って臨みますか。
涼音このセカンドEP「ロンリーパラドックス」を引っ提げての、リリースワンマンツアーということで、東名阪を回るんですけど、去年は東京と大阪だけで、今年は名古屋も追加されて、さらに追加公演も決まって、本当に嬉しいです。新しい曲も増えて、セットリストも様変わりすると思いますし、 1年かけて経験してきたライブ力みたいなのを、もっと感じてもらえるライブになると思うので、ぜひぜひ、迷わず来てもらって全然問題ないなと思います。絶対に来た方がいいです。
miri 来ていただきたい。
永山頑張ります。
飯沼待ってます!
PRESENT
直筆サイン色紙を1名様に!
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