どの活動でも自分たち主導のライブがあったし、そのなかでSPARTA LOCALSの新作の制作やレコーディングをしていたので、けっこう大変でしたね。簡単に言うと、僕個人としては今回のスパルタの制作に行き詰まってしまって。
久し振りのアルバムなので「期待されてるんじゃないか?」と思ったし、自分のなかでもハードルが上がりすぎて、考えすぎちゃったんですよね。心のどこかで「すごいものを作らないといけない」と思ってた。そうなると曲はできなくなってしまうんです。どんどん時間がなくなって、ただただ曲ができない。焦りが尋常じゃなかったです。
メンバーを頼りました。へんに生真面目なところがあるので、まずは自分でやらないといけないと思っていたんですけど、時間が足りなさすぎて「もうこれは1人じゃ無理だな」と。(安部)光広(Ba)と真くん(伊東真一/Gt)に「もう無理ばい。できん!俺を助けてくれ!」って(笑)。そう頼んだら気持ちがだいぶラクになって。ふたりが作ったフレーズをもとに、スタジオで楽曲を組み上げてゆく方法も導入して、そこから制作が回り出した、という感じですね。「ああ、なんとかなりそうだな」と思ってからは頭もクリエイティブな方向にはたらいてきました。心の余裕は大事ですね。スタジオで「せーの」で合わせて音を作っていく感じは、スパルタのフィジカルな感じにすごく似合っていて、やっていてピンときました。
楽器のフレーズをスタジオセッションで広げていく曲作りの良さは「制約が生まれること」
そうだったんですけど、「せーの」で作るとなるとスタジオに多く入る時間が必要で。若いときは時間があるけど、今はHINTOも堕落もあるし、ドラムは仕事もしてるし、みんなのスケジュールを合わせるのがなかなか難しい。だから今回の制作はその少ない時間で「せーの」で音を出して作っていったので、ものすごいスピードで。3時間で2曲作ったりしてました(笑)。「よし!できた!次!!」みたいな(笑)。
うん、ポジティブすぎるのかもしれないけど、そのスピード感が楽曲の熱量に変換された感覚もあって。結果論ですけど、わりと良かったですね(笑)。楽器のフレーズをスタジオセッションで広げていく曲作りの良さって、肉体的になることのほかに、「制約が生まれること」があるんですよね。
例えば、真くんのギターリフから広げて作る曲は、その時点で真くんに「同じフレーズを弾き続ける」という制約がかかるんです。俺にも「ギターリフありきでメロディやコード進行を構築する」という制約がかかる。それと、スタジオは使用時間も制約されているので、メンバーそれぞれに“あと少し煮詰められたかもな”という良い余白が生まれる。だからセッションで作るとパワーバランスがちょうどいいというか、調和するなとは昔から思っていましたね。HINTOでは僕が作ったデモにメンバーがフレーズを乗せてくるので、いろんなことが乗せられるぶん濃いものにはなる。それぞれの良さがありますね。
もともと俺はドラムのフレーズに対して指定することが多くて。昭ちゃんが無理をしないように、やれることをやって、とにかくシンプルにしていくことを考えました。一瞬でも叩けないフレーズがあったら「それはやらなくていいよ」と精査していく。昭ちゃんにとっては13年ぶりのレコーディングだし、ドラムはほとんど素人みたいなもんなんです。でももともと持っている野性的な、肉体的な第六感みたいなものがすごくいいんですよね。そこをうまく引き出せたらいいかなー……と。
いびつなまま、ただゴツゴツしていて、得も言われぬSPARTA LOCALSにしか出せないにおいのようなものが出せて、それを封じ込められれば成功
逆に言えば、そこしか要らないとも思ってる(笑)。うまくなくていい。エンジニアの南石聡巳さんにも「いびつなままでいいです。ただゴツゴツしていて、得も言われぬSPARTA LOCALSにしか出せないにおいのようなものが出せて、それを封じ込められれば成功だと思っています」という旨はけっこう伝えたし、レコーディングもメンバーには「うまく演奏しようとしないで」って――これは主に昭ちゃんにしか言ってないですけど(笑)。
いや、そんなきっかけとかではなく、「作らなきゃ」って感じですね。ライブで昔の曲ばっかりやってても飽きるし。
そうそう。だいぶ戻ってきましたね。アルバムの歌詞を書くにあたって、スパルタの狂気性を出すうえでも自分の暗部を覗き込んでいったから、けっこうピリピリ、ギスギスしてきたりもして。レコーディングに入ったときに3曲歌詞が書けてなくて、2曲アレンジができていない状態だったんです(笑)。でもあんまり振り返らないし、練りすぎない。直感で出てきたものをそのまま使うというのは、全曲そうかな。
ああ、そういうのは全然ないですね。わりと俺は器用なところがあるし、自分の意見にそこまで執着がないタイプなので、堕落も含めて自分にとっては全部違うベクトルのアウトプットというだけなんです。だから、HINTOとSPARTA LOCALSを対極のものとして話していくのは、そんなに意味がないんじゃないかな?と思っていて。HINTOとSPARTA LOCALSは4人中メンバー3人が同じメンバーなので、対立構造として語られる理由はわかるんだけど。
そうそう。そういうことです。アウトプットが多いことが俺にとっては自然なことだし。スパルタの暴力性、狂気じみた感じ、シリアスに自分の暗部を覗き込んでいく感覚を表現することがアウトプットのひとつとしてあると、ものすごく気持ちがいいですね。あと、楽しめる範囲で活動していたいと思ってます。真剣になることと、神経質になることやイライラすることって、わりとみんなつなげて考えるような気がするんですよ。でも真剣になるということは、目的に早く辿り着きたいということだと思うんです。そのためには視野が広いほうがいいし、心がやわらかいほうがいいはず。だったら真剣になることが、ヘラヘラすることやふにゃふにゃしてることとイコールになってもいいんじゃないかなって。
そうやって自分を正当化してるんです(笑)。
そうですね。結果的にそういう作品になってよかったです。途中から「昔よりいいものにしよう」とは思わなくなったんですよ。とにかくその場に出てきたものを素直に、目の前にあることをとにかくかたちにしていくことと、今面白いと思う痺れる感覚を実行していこうとしました。それにあたって、スパルタの持ち味、大事なニュアンス、スパルタにおける安部コウセイという人間のムードはなんだっただろう……というのを曲作りでもレコーディングでもすごく考えましたね。そこがぶれてしまうと、作品としてもスパルタとしてもぶれてしまう気がして。
自分がなにを表現したいかはわかっておきたいけれど、そのうえでなにをやるかというのはそれほど重要じゃなくて、バンドに限らず個人としても、なにをやらないかのほうが大事ですね。捨てる部分を決めるとやるべきことがはっきりする。それもさっき言ったような「制約」だと思うんです。たとえば「うまく演奏しようとすることを目的地にしない」みたいに、制約をかけることでSPARTA LOCALSとしての個性は出てくると思うんですよね。それが解散前のスパルタの時とは違うところかな。若い頃は感情任せでテキトーだったから(笑)。
スパルタの解散も、HINTOの結成も、スパルタの再結成も全部いい方向にはたらいてる
それはHINTOの活動で得たノウハウですね。スパルタの過去作を聴き返すと、アルバムとしてまとまりがあるのは3作目の『SUN SUN SUN』までだなと思うんです。あのあたりまでは若いゆえになにも知らないしできないから、だからこそ制約が生まれて作品性が立っていた。でもそれ以降はいろんな雑音も入ってきたし、気持ちの意味でも範囲が広くなって「多くの人に届けなきゃいけない」と思うようになった。でもそれは今のスパルタにとって要らない考え方なんです。
うん。スパルタは「もっとたくさんの人に届けるためには、もっとわかりやすいほうがいいんじゃないか」という考えのもと作っても、多くの人に刺さるものにはならない――それが昔はわからなかった。そもそも、バンドを始めた時って、べつに売れようと思ってなかったんですよ。「こんなアングラな音楽をいいと思う人間いないだろ」と思ってたから、大人が声を掛けてくれたときも「えっ?こんなのお金になります?」と思った(笑)。そう思ってた頃の作品は作品の目指すものもはっきりしてるし、エッジも立ってる。「俺はこれがかっこいいと思う」という感覚に純粋に向き合ってるから、曲としてもパンチがあるしパワーがある。だったらその方法で曲作りをするのが健全だなと。
だからそれを信じてやればいいんですけど、若いとどうしても気付けなかったりしますよね。もっとやらなきゃ、もっと売れて周りの人間を養わないと、と思ってしまう。でも、時代は変われど、ロックバンドなんてろくでなしの集まりですからね……。そんなろくでなしが人の生活のこととか考えてもね!(笑)スパルタを解散して自分たちの作品と距離を置いたことで、頭ではなく体感としてそれに気付けたんです。だからスパルタの解散も、HINTOの結成も、スパルタの再結成も全部いい方向にはたらいてると思うんですよね。
この曲は最後の最後にアレンジが完成した曲で――ぎりぎりまでHINTOでやろうかどうか悩んだ曲でもあったんですよね。でもスパルタでやりたいと思ったんです。アメリカのインディーエモバンドのアルバムに1曲だけある、やけにメロが綺麗な曲みたいな立ち位置になればいいなと。
これは完全に、直前に『ファイト・クラブ』を観ていた影響ですね(笑)。「デストロイ」は、最後にビルが壊れるイメージから出てきたものだし、『ファイト・クラブ』のエンディングにThe Pixesが流れるんですよ。あそこが死ぬほど好きで。映像と音楽のギャップが、なんて美しいんだろう……とずっと思っていて。超個人的な気持ちとしては、あのシーンに流れたら似合う曲みたいになったらいいなとも思ったんです。『ファイト・クラブ』でThe Pixesが流れるシーンで「noRmaL」を流してみてほしいですね(笑)。
新曲を初披露する瞬間が好きなんですよ。お客さんがポカーンとしてるし(笑)、世の中にまだ鳴っていない音を鳴らす瞬間はすごく刺激的で気持ちがいいんです。大阪と東京のワンマンはもうめちゃめちゃにしてやりますよ(笑)。血の雨が降るでしょうね!(笑)
PRESENT
サイン入りポスターを3名様に!
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