インタビュー/宮本英夫
“ジェイウォーク、柳ジョージを唄う”。シンプルなキャッチコピーの向こう側に、過ぎ去った年月への深い愛しみが浮かび上がる。7月18日の仙台からスタートした、「THE JAYWALK TOUR 2016“雨に泣いてる…”」。それは、今はなき憧れのアーティストに向けて、そして今を生きる仲間に向けて放つ、THE JAYWALKからの魂のメッセージ。知久光康(Vo&G)と杉田裕(Vo&Key)に話を聞いた。
──このライブの企画を聞いてから、久しぶりに、柳ジョージ&レイニーウッドのアルバムを出してきて、聴いてました。とても懐かしかった。僕の世代に限らず、そういう人、ほかにも多いような気がします。
知久 ですよね。仙台を一か所やってきたんですけど、だいたい僕らのライブには、男性客はそんなに多くないんですけど、いるんですよ。僕らと同世代ぐらいの男性客が。それで「次は柳ジョージさんの○○です」って、タイトルを言うと、ワーッて喜ぶんですよ。
──ああ~。わかります。
知久 言ってみれば、僕らもリスナーなんですよ。ジョーちゃんに関しては。だから一緒に喜べる感じで、うれしいですね。THE JAYWALKファンの方は、もとをたどると柳ジョージから聴き始めて、それから知ってくれたという人がずいぶんいるようなんだけど。今ライブに来てくれるような人たちは、その後のTHE JAYWALKのファンが多いから、柳ジョージさんの初期の曲は知らなかったりするらしいので。今回のツアーでうれしいのは、そういうところ(昔からのファンが来てくれること)ですよね。その人たちに、今のところ、がっかりはされてないみたいなので(笑)
ギターも、喜んでるような気がするね。ジョーちゃんを蘇らすことはできないけど、ギターは蘇ってますよ。(知久)
──よかった(笑)。杉田さん、ツアー初日をやってみて、どうですか。
杉田 柳ジョージ&レイニーウッドとTHE JAYWALKは、同じような流れのバンドだと思ってたんですけど、やっぱり根本が違うんですね。リズム&ブルースがベースになった曲作りとか、詞の世界とか、それは僕らがやろうと思ってもなかなかできないことなんですけど。やってみると、すごくかっこいいなと感じられて、こういうアプローチもあるんだなってあらためて感じましたね。昔はあこがれとして聴いていたものが、今になって具体的に曲の良さがわかった気がします。
知久 それと、ジョーちゃんが使ってたギターが2本あるんですけど、それを奥さんが“使って”と言ってくれたんで、使わせてもらってます。60年代のヴィンテージとか、そういうものではないけど、僕にとっては本当のヴィンテージ。大活躍ですよ。こいつが主役です。
杉田 楽器って、使ってないとね。このギターを弾くことを、ジョージさんも喜んでくれてると思う。
知久 ギターも、喜んでるような気がするね。ジョーちゃんを蘇らすことはできないけど、ギターは蘇ってますよ。
──ちょっとだけ、昔の話を。80年代の初頭、THE JAYWALKが柳ジョージさんのバックバンドをやっていた頃、“柳ジョージ&ザ・バンド・オブ・ナイト”には、どんな思い出がありますか。
知久 あれは実に面白い体験で、その時はすでに柳ジョージさんはスターで、レイニーウッドを解散して、ソロを始める時でしたから。僕らにしてみれば、もうすでに売れてる人のところに、ポンと使ってもらえたわけで。
杉田 そういう経験は、今までなかったんで。全国津々浦々を回って、大きなホールで、お客さんもみんな盛り上がってくれて。すごくいい経験をさせてもらいましたね。
知久 ちょっとうますぎる話というか、移動はいきなりグリーン車で、ホテルも全部一流ホテル。
杉田 それまでは、二人で一部屋だったから(笑)。それが一人で一部屋。
知久 僕らも若かったですからね。「えー、いいのかな、こんな思いをさせてもらって」みたいな。豪華なホーン・セクションを入れたりとか、アメリカのハーレム少年合唱団を呼んで、一緒にやったりとか。僕らにしてみると、すごくいい経験をプレゼントしてもらいましたね。
杉田 それと『GOOD TIMES』という、カバー・アルバムを、一緒にレコーディングさせてもらって。いい曲ばっかりで、“こういう曲もあるんだ”って、音楽の幅が広がった気がします。
知久 あれは勉強になりました。
──僕は、お会いしたことはないんですが。テレビで拝見した限りだと、穏やかで、シャイで……。
杉田 そういうイメージ、ありますよね。でもお酒を飲むと豹変するというか……豹変は言い過ぎか(笑)。あれ、こういう人だったの?みたいな。
知久 僕らが知ってるジョーちゃんは、ご機嫌な酔っ払い(笑)。ジョーちゃんの一番いい時期だったし、そういう時に一緒に過ごせたのは、ありがたいと思いますね。面白くて、優しくて、豪快で、ジョーちゃんのいいところだけを見せてもらった。ジョーちゃんは寅さんが大好きで、高倉健が大好きで、なぜかわからないけどゴジラが大好きで(笑)。そういう面白いジョーちゃんと過ごせたのは、THE JAYWALKの宝だと思うんですよね。そのあと僕らがけっこう忙しくなって、あまり会わなくなりましたけど。だから、すごくラッキーだったと思います。THE JAYWALKというものが、まだくすぶってた頃に、ジョーちゃんに使ってもらって、いい体験をいろいろさせてもらって、そのあと僕らもヒットが出て。すごく感謝してます。
──今回のツアーの話に、戻ります。セットリストは、みんなで考えたんですか。
知久 そうですね。でもジョーちゃんの曲に関しては、ポピュラーなもののほうが喜ばれるのか、それとも、マニアックなところも混ぜたほうがいいのか。どちらもありますから。
杉田 ギターのフレーズにしても、あのチョーキングの感じを見せたほうがいいのか。
知久 そうそう。あれをやらなきゃダメだろうとか。だから僕らも楽しいんですよ、いちファンの気持ちで。でも、それを僕らがやって、柳ジョージのファンがそれを聴いて、許せないと、ダメだと思うんですよ。リスペクトで、オマージュのつもりでも、冒涜になっちゃうのは嫌なので。
──それは、ないと思いますけどね。THE JAYWALKの、柳ジョージのファンならば。
知久 そういう曲を聴いて、ジョーちゃんのファンが、いいエピソードとしていろいろ思い出してくれたらいいですし。今回のツアーは、一番良かった時のジョーちゃんを、みんなで思い出しながらやってるところがありますね。THE JAYWALKは、その頃のジョーちゃんしか知らないから、いいと思うんですよ。ギターもその時のギターだし。そういう意味で、すごくHOLLY(神聖)な気持ちになるというか。
1曲1曲が大事だった頃の感覚を思い出せた気がします。これから作っていく曲も、大事に作っていきたいと思うんですよね。(杉田)
──わかります。
知久 重い感じで、追悼とかそういうものでもないし。それと、音楽的にも、ジョーちゃんのステージを僕が客席で見ていたあの感じを、思い出すんですよ。シンセサイザー以前の、MTV以前の、あの頃のロックの感じが蘇ってきて、“そうか、これは忘れてたな”みたいな感じがありますから。
杉田 昔は、家にステレオがあって、LPを1枚買うにも、貴重なお小遣いの中からやっと買えたみたいな、1曲1曲が大事だった頃の感覚を思い出せた気がします。そこに気づけたことで、これから作っていく曲も、大事に作っていきたいと思うんですよね。
──このツアー、ライブ盤を作るんですよね。全会場録音されて、申し込むと公演後2週間で届けられる“2weekCD”という企画。
杉田 編集なしで、ノーカット。ライブに行った方には、いい思い出になると思います。
知久 途中で弦が切れたりしたのも、入るんだよね(笑)
──そしてツアー・ファイナルが、9月11日の赤坂BLITZ。このライブを楽しみにしている方へ、メッセージを。
杉田 古き良き柳ジョージさんの曲を、今のTHE JAYWALKが料理して、蘇らせているような、光り輝くステージにしたいと思っていますので。ぜひ来ていただけたらと思います。
知久 でもジョーちゃんのあのギターは、特に料理もせずに(笑)。ギターに関しては、そのまま再現しますから。“ジョーちゃんが弾いてるあのフレーズだ”というものを、散りばめてありますので、そのへんを楽しんでいただきたいと思います。それと、そのギターは自由に撮影(開場時、終演時のみ)していいことにしたんですよ。写真をSNSに上げてもらってもいいですし。それもぜひ、楽しんでください。