風街で松本 隆とあひませう。【横山シンスケのライブオアダイ】連載:第1回

コラム | 2017.08.19 17:00

僕が松本 隆という名前を初めて見て、記憶したのは、やはり「木綿のハンカチーフ」だったと思う。
まだ小学低学年で、歌謡曲を意識して聴くようになり、テレビの歌番組で太田裕美が、大好きなこの曲を歌うのをいつも必死でチェックし、ワクワクしながら観ていた。今はあまり見かけなくなったが、当時の歌番組は歌手が歌を歌う時は、必ずその曲のタイトルと一緒に作詞家名と作曲家名のテロップで出ていた。だから、この曲がテレビで歌われる度に「作詞・松本 隆」という名前が出るので、その名前と、作詞家という仕事が世の中にはあるという事を、子供ながらに何となく知ったんだと思う。
小学高学年になると、自分にとっての一番最初のアイドルであり、ロックスターでもあった原田真二がデビューした。出すシングルは全て大ヒットし、僕は夢中になった。そしてその全ての楽曲の作詞家として、またも松本 隆という名前がクレジットされていた。何となくこの顔も見た事のない松本 隆という人は、きっととんでもない人なんだろうと、僕は子供ながらに思い始めた。
中学生になると、すぐ洋楽のロックやポップスに没頭し始めたが、同時にYMOやRCサクセションなど、その頃やっと本格的に台頭し始めた日本のロックバンドや、テクノポップにも並行してのめり込んでいった。そんな僕が洋邦のロックやポップスに対し一番多感でどん欲になっていた頃に、あの大瀧詠一の「A LONG VACATION」が発売された。

A LONG VACATION

今も日本のロック・ポップスアルバム史上最高傑作といわれる(僕もそう思う)、このアルバムの全曲の作詞を手がけたのが、またしても松本 隆であった。僕の中で松本 隆という作詞家の存在を決定的にしたのは、やはりこのロンバケだった。今にして思えば、中高生のとにかくトンガリたくて仕方ない盛りで、パンクやうるさいロック村の住民になろうとしかけていた僕は、有無を言わせず圧倒的で、完璧なこのアルバムに衝撃をうけ、そこから音楽の揺り戻しアーカイブ現象を起こし始め、過去のはっぴいえんどや、松本 隆が関わってきたアーティストや楽曲も調べて聴き始めた。そして、その頃カッコつけてバカにしかけていた歌謡曲やポップスを、やかましいロックと分けへだてなく、再び聴くようになった。そんな風に、僕にとってロックやポップスや歌謡曲の壁を、一番最初に自然に全部取っ払ってくれたのが松本 隆であった。
実際、松本 隆はまだまだ黎明期だった日本のロックと、ポップスと歌謡曲の間を、自由自在に行き来し、壁を取っ払い、すべてを「松本 隆」というキーワードとブランド、そして「ヒットさせる」という最強の武器の才能を使って、本能的に結び付けていた。
原田真二という、日本初とも言うべきアイドル的なロックスターを歌謡界に送りこみ、大ブレイクさせ、はっぴいえんどのバンド仲間だった細野晴臣と大瀧詠一、そして旧友のポップスの女王、ユーミン(呉田軽穂)を歌謡界に引っ張っり出し、松田聖子や薬師丸ひろ子の今も代表曲となるナンバーを次々と共作して大ヒットさせた。ロックや歌謡曲だけではない。演歌の森進一まで、大瀧詠一との共作「冬のリヴィエラ」で、演歌とポップスと歌謡曲を混在させた最高の化学反応を生み、大ヒットさせた。松本 隆の最大のヒット曲「硝子の少年」や「ルビーの指環」とか、語る事を忘れる位、とにかく松本 隆の凄まじい記録や伝説、そして次々と突破してきた壁の歴史は、あげるとキリがない。
でも僕にとって、松本 隆が取っ払ってくれた一番の壁は、その歌詞においての「男女」という壁だった。

木綿のハンカチーフ

「木綿のハンカチーフ」は、歌の最初で、男のコが恋人の女のコに対しての別れを歌っているのだが、歌の途中から突然、その恋人の女のコが、その男のコの彼氏に対しての想いを歌いはじめ、その互いへの想いや気持ちのやり取りが、歌の最後まで交互に繰り返されるという画期的な歌詞だ。女性はこれを聞く事により、男というものがどういう事を考えたり思ったりしている生き物なのか、という事を知りながらも、更に、その男性が歌う歌詞の中にも、女の自分と同じ部分があるという事にきっと気付いたと思う。そして、僕ら男性も同じく、この女性の歌詞の中に…..。
というか、実体験なので恥ずかしいのだが、僕は過去に女のコにフラれる度に、この大好きな曲をヘビロテで聴いていた。その度に、別れを告げるこの男性側の歌詞より、圧倒的にそれ対し自分の切ない想いを歌う女性側の歌詞の方に共感し、そこに自分の気持ちを重ね合わせ、自分をなぐさめる為に聴いていたのだ。
ついでに言ってしまうが、僕が松本 隆作品の中で一番好きな、吉田拓郎の「外は白い雪の夜」という名曲がある。この曲も、別れる男女がそれぞれの相手への想いや気持ちを交互に歌うのだが、これも過去に自分がフラれる度にヘビロテで聴いていた。その時も圧倒的に女性側の歌う歌詞に共鳴し、「この女性はオレだ」と、今こうやって書くと、要するに病んでたんだと気付くが、本気で自分をそこに置き換えて、弱い自分を何とか肯定し、自分の心を救済する為に、真剣に何度も何度も聴いていた。
この名曲2曲の、男が歌う歌詞も、女が歌う歌詞も、全部自分と同じで、全部自分だったのだ。

松本 隆の書く歌詞は、どこか両性具有というか、男と女の境目のようなものを感じさせない歌詞が多い。松本 隆本人もインタビューで「色々な境界線が嫌いで、それを超越しようとして歌詞を書いてきた」「僕の歌詞は助詞を変えれば、男でも女でも関係なく歌える」と語っていた。ああ、やはりそういうい気持ちで、今まで作品を作ってきたんだ、という事を知り、僕はとても感動した。
音楽ジャンルの壁を越え、男女の壁も越え、すべての境界線といわれるものを嫌い、それを超越してきた。それにより、松本 隆の作品は、普遍性を手に入れ、老若男女の誰しもが、いつの時代になっても共感する事ができ、そして、いつまでも愛する事のできる作品へとなったのだろう。

10月に開催される「風街ガーデンであひませう2017」のチケットは発売日にすぐゲットした。
考えてみたら、沢山の名曲をリアルタイムで聴いていた小中高生の頃は、お酒を飲みながら松本 隆を聴いて胸をアツくするなんて事は、当たり前だができなかった。それがこの「風街ガーデン」では、お酒も楽しみながら、生のライブで、松本 隆の沢山の名曲を堪能できるというのだ。最高じゃないか。これ以上何がいるというのだ。
ライブ演奏予定曲も発表されていて、「木綿のハンカチーフ」から、僕のアイドル原田真二の「てぃーんず ぶるーす」「タイム・トラベル」。ほろ酔いで聴いてみたかった「スローなブギにしてくれ」も入っている。「卒業」もある。ああ、想像しただけで、ため息が出る。
ビール、ライブ、松本 隆。僕が一番好きなもの三つが揃ってる。完璧じゃないか。

サッポロ生ビール黒ラベルPresents「風街ガーデンであひませう2017」

10月6日(金)『風街ガーデンであひませう』DAY 1
18:00 開場、19:00 開演
出演:上白石萌音 / さかいゆう / 冨田ラボ・冨田恵一/ 中島 愛 / 秦 基博 / 吉澤嘉代子 ほか
SPECIAL“風街レジェンド”GUEST:南 佳孝

10月7日(土)『風街ガーデンであひませう』DAY 2
17:00 開場、18:00 開演
出演:クミコ / 手嶌 葵 / 冨田ラボ・冨田恵一 / 畠山美由紀 / 藤井 隆 / 堀込泰行 ほか
SPECIAL“風街レジェンド”GUEST:斉藤由貴

10月8日(日)『風街ガーデンであひませう』DAY 3
17:00 開場、18:00 開演
出演:安藤裕子 / OKAMOTO’S / 田島貴男(ORIGINAL LOVE)/ 中川翔子 / ROLLY ほか
SPECIAL“風街レジェンド”GUEST:太田裕美

各日コンサート終演後「CLUB 風街」開催有

【予定演奏曲目 全曲作詞 松本 隆】
赤いスイートピー / WOMAN“Wの悲劇”より / 風の谷のナウシカ / 綺麗ア・ラ・モード / 罌粟 /
さらばシベリア鉄道 / スローなブギにしてくれ(I want you) / 星間飛行 /
セクシャルバイオレットNo.1 / 卒業 / 代官山エレジー / タイム・トラベル / てぃーんず ぶるーす /
ないものねだりのI WANT YOU / はいからはくち / 花いちもんめ / パラレル / 瞳はダイアモンド / 魔女 /
木綿のハンカチーフ / 夜行性 / 指切り / 瑠璃色の地球 ほか
※50音順。各日で演奏曲目は異なります。

演奏:『風街ガーデンばんど』
鈴木正人(音楽監督・Bass)/ 八橋義幸(Guitar)/ 松本圭司(Keyboards)/ ハタヤテツヤ(Keyboards)/ 玉田豊夢(Drums)/ 平陸(Drums) ほか

チケット一般発売日:2017年8月19日(土)

オフィシャルサイト http://kazemachi-garden.com/

横山シンスケ

渋谷のイベントライブハウス「東京カルチャーカルチャー」店長・プロデューサー。その前10年くらい新宿ロフトプラスワンのプロデューサーや店長。司会やライターもやる。小学生の時に「木綿のハンカチーフ」が好き過ぎて、自分で歌ってカセットテープに録音していたが、何かの間違いでそれを校内放送で流されて、一時登校拒否になった事がある(笑)。
横山シンスケ ツイッター:https://twitter.com/shinsuke4586
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