兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第96回[2022年1月後半・宇多田ヒカル、グループ魂、ピーズなど7本を観ました]編

コラム | 2022.02.04 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽ライター兵庫慎司が、生もしくは配信で観たすべてのライブのレポを書き、月二回ペースでアップしていく連載の96回目、2022年1月後半編。今回は7本で、生が6本、配信が1本です。
 オミクロン株によるコロナ感染拡大状況のわりに、これまでと違ってライブはそんなに延期・中止にならないなあ、と、1月半ば頃までは思っていたが、だんだん状況が変わって来て、2月10日(木)のBUMP OF CHICKEN@幕張メッセなど、延期になるライブも出始めた。今回のサカナクション@日本武道館も、もうちょっと日程が後だったら、危なかったかも……という状況で、今これを書いています。

1月17日(月)18:30 カネコアヤノ × eastern youth@USEN STUDIO COAST

 この1月でスタジオコーストはクローズなので、その別れを惜しむファイナル・イベントが、連日行われていた。この日も、その中の1本。開催を知った時「なんていい組み合わせなんだ」と思い、実際に観て、さらに強くそう思った。
 SENSAにレポを書いたので、そちらをぜひ。
 ≫ SENSA:カネコアヤノ×eastern youth、1/17 USEN STUDIOコーストのファイナル・シリーズで実現した「この2組である必然」に満ちた一夜

1月19日(水)20:00 宇多田ヒカル@Stagecrowd/LINE LIVE-VIEWING/Streaming+/ABEMA/PIA LIVE STREAM/U-NEXT/O-チケLIVE STREAMING

 この日にニューアルバム『BADモード』の先行配信がスタートする(CDは2月23日発売)、というタイミングで行われた、宇多田ヒカル初の有料配信ライブ、『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios』。
 「Air Studios」はロンドンのレコーディング・スタジオ。メンバーは、2018年のツアーでバンマスを務めたベーシスト、Jodi Millinerを中心に、凄腕ミュージシャンが集結。エンジニアや映像スタッフも一流どころが揃った、まさに鉄壁の布陣。
 確かに、メンバーと宇多田がスタジオに入って来て、1曲目「BADモード」が始まった瞬間に、思わず「うわ!」と声を出してしまったほど音が良かったり、メンバーの位置やカメラアングルやカット割などなど、映像が「ライブ中継」というより「ライブ映画」のそれだったりして、もうあからさまにクオリティが違う配信だった。まあそれはそうか、宇多田ヒカルなんだから。でも、ただただ圧倒された。
 生配信ではなく事前収録であることが、事前に告知されていたが、観れば「こんなの生じゃ無理」とわかるレベル。そういえば「ほぼ全部」ってくらいの配信プラットフォームの多さも、さすが宇多田ヒカルだ。5万人がリアルタイムで観たそうです。
 『BADモード』の15曲の中から9曲、プラス、9曲目に「Hotel Lobby」、ラストの11曲目に「About Me」をやった。どちらも、2004年に「Utada」名義でアメリカ進出した時のアルバム『Exodus』からの曲である。
 ちょっとびっくりした。このメンバーで演奏したかったからなのか、『BADモード』の曲たちにテイストが合うと思ったのか、その両方か、どのどちらでもないのか。いずれにしろ、うれしいサプライズでした。
 11曲が終わったあと、宇多田、英語と日本語で、唯一のMC。
 「今日は、時間を一緒に過ごしてくれてありがとうございました。私たちと同じくらい楽しんでもらえてたらいいなと思います。今回は、普通の会場でのライブはできなかったけども、でもこういうふうにやることによって、普段は共有できない、ほんとに中の奥の方の、特別な空間を、初めて共有できた気が、私はしているので、みんなもそれを感じてくれてたらいいなと思います」
 確かに、そんな、特別な時間だった。

1月21日(金)18:00 グループ魂@中野サンプラザ/PIA LIVE STREAM

 1年前にYouTubeで「1年間の解散」を発表したグループ魂の再結成ライブ。配信もあり。その1年前のYouTubeでは、スタジオで突然解散を伝えてメンバーをだます動画で、ショックで号泣した石鹸(三宅弘城)が、ネタバラシされても涙が止まらなくて延々と泣きじゃくるさまに爆笑させられたが、その石鹸さん、頭3曲終わったところのMCでまた泣き出し、メンバーを困惑させていた。暴動(宮藤官九郎)、ソデを指差して「スタッフみんなドン引きしてるよ!」
 「夢グループ」の石田社長と保科有里によるグッズ宣伝動画で始まったり、いつもなら冒頭にある港カヲル(皆川猿時)の前口上が頭3曲の後ではさみこまれたり、「職務質問」の前に荒川良々にゆべしと水を交互に食わせるコントがあったりする、ちょっとトリッキーで豪華な構成。コロナ禍でライブができなかったので生では初公開となる『神々のアルバム』の曲を続けるゾーンからは、パーカッションの念仏(ASA-CHANG)が加わる。「欧陽菲菲」では、サックスで遅番(少路勇介)も参加。
 で、YouTubeでおなじみ、港カヲルが皆川利美14歳に扮する『皆川スポーツ』のコーナーでは、峯田和伸が登場。コントを経て「モテる努力をしないとモテないゾーン」と「君にジュースを買ってあげる」を、グループ魂と共に歌う。得した気持ちになった、生で熱唱する峯田を久々に観れて。
 アンコールの、「大江戸コール&レスポンス」からの、「お客さんとスリッパ上げゲームやって最後まで勝ち残った人にプレゼント、のはずが、途中からじゃんけん大会になる」という、謎の展開にも笑った。

1月22日(土)18:30 OBLIVION DUST@SHIBUYA Spotify O-EAST

 結成25周年のキックオフ・ライブである『“No Quarter”Live 2022 』。この翌日は、川崎クラブチッタでファンクラブ会員限定ライブ、なので、2デイズでのキックオフだったことになる。
 なお、“No Quarter”というのは「容赦しない」というような意味だそうで、そのあたりに関しては、このDI:GA に12月にアップされたインタビューで触れているので、未読の方はぜひ。
 ≫ DI:GA ONLINE:2022年、デビュー25周年を迎えるOBLIVION DUSTにインタビュー!Zepp Tokyoでのライヴの思い出、年明けのアニバーサリー・ライヴについてメンバー3人に訊いた
 いつもながらのものすごい出音、すさまじいアンサンブル。それを全身で食らう快感にクラクラしていたら、あっという間に終わってしまった。全18曲、アンコールなしで1時間半ぴったりだったが、正直、「え、そんなにやった?」という感じ。
 なお、毎日増え続けるコロナ感染者数、この日の東京は11,227人、1万人を超えたのは初めて。という状況だったので、KEN LLOYD、MCのたびに「今年は攻めて行く」と言っていたが、「みなさん感染に気をつけて」という話も、何度もしていた。「感染だけじゃなくて、ただの風邪でも、今ひくと面倒なことになるから」みたいなことまで言う。本当にお客さんのことを心配している。普段シニカルなキャラだけど、本当は倫理的で善人、というのはファンはみんな知っていると思うが、それがいつも以上に出ちゃっていた。とツイートしたら、本人から否定されました。

1月23日(日)18:00 ピーズ@渋谷クラブクアトロ

 このライブのレポに関しては、書いてみたら「ちょっとこれは、あまりにも!」と自分で思うくらい、長くなってしまった。でも短くまとめたくはなかったので、自分のブログにアップすることにしました。未読の方はぜひ。
 ≫ 兵庫慎司のブログ:2022年1月23日(日)、新生ピーズのツアーファイナルを観た

1月25日(火)19:30 うつみようこ&YOKOLOCO BAND@新代田FEVER/Streaming+

 2022年一発目のライブ。Streaming+で配信もあり。ようこさん以外の4人(ギター竹安堅一、ベースグレートマエカワ、ドラムクハラカズユキ、キーボード奥野真哉)は、ツナギ姿。2001年の結成当初はツナギがユニフォームだったそうで、それを模してみたらしい。
 オリジナル曲のほか、いつものようにカバーもふんだんにあり。グレートマエカワ曰く、2001年の活動開始以来、このバンドでカバーした曲を数えてみたら、106曲あったそうです。「ホール&オーツの曲もやりたい」とようこさんが言い出し、今後カバーすることに決定。
 その他、一昨年は新曲を作ったが去年は作らなかったから今年は作る、「落花生物語」という曲名にする、とか、アンコールで「みなさんお大事に。手洗い、うがい、鼻うがい……あたし『鼻うがい』って新曲作るわ」とようこさんが言い出す、などの、2022年の目標が、MCのたびに決まっていきました。
 なお、新代田FEVER、感染予防が厳戒態勢で、FEVERの中ではドリンク交換は行わない、持ち込むのもNG。終演後にロビーでドリンク交換する、もしくは開演前・開演中にロビーのカフェPOOTLEで20時までドリンク交換を受け付ける、でもその場合もFEVERの中では飲めません、POOTLEで飲んでください、というオペレーションだった。
 ただし「※ドリンクチケットは次回来場時にも使用可能です」というルールにしているのが、さすがFEVER、とちょっと感心した。僕も使わずに持って帰りました。

1月30日(日)18:00 サカナクション@日本武道館/FanStream、Streaming+、ローチケLIVE STREAMING、PIA LIVE STREAM、U-NEXT、ABEMA

 これは、2月3日(木)の朝日新聞夕刊掲載のレポを書きました。(朝日新聞デジタル:(評・音楽)サカナクション 危機をも「乗りこなす」新表現)よろしければそちらをぜひ、なのですが、こちらでもちょっとだけ説明。
 コロナ禍における昨年秋からの活動を、アルバム2作にわたるプロジェクトとして位置付け、第一章を「アダプト(適応)」、第二章を「アプライ(応用)」と銘打って活動しているのが、今のサカナクションで、まず昨年11月、配信のみのライブでニューアルバム『アダプト』収録の新曲を公開した。次に、その新曲たちを含むアリーナ・ツアーを行った。そしてその上で、3月30日にアルバムをリリースして第一章が完結する。つまり、「リリースしてからツアー」という通常のルートとは逆のアクションを取っているわけだ。
 で、そのアリーナ・ツアーのファイナルの日本武道館、追加公演2日を含む4デイズの4日目が、この日だった。音響も照明もステージセットも効果映像も、特効なんかも含めて「アイデアと手間ひまとおカネの盛り込み方が日本最高峰」なライブをやるのがサカナクションだが、そこに俳優(川床明日香)を加えることで、表現の幅を新しく広げた、そういうライブだった。新鮮で衝撃的。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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