兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第84回[2021年7月後半]編

コラム | 2021.08.12 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、生、もしくは配信で観たライブすべてのレポを書いて、半月に一回アップしていく連載の84回目、2021年7月後半編です。
 今回は5本すべて、生で観たライブです。家からいちばん近かったのは下北沢、いちばん遠かったのは宇都宮でした。だからなんだと言われると困るが。

7月22日(木・祝)17:30 ハナレグミ@日比谷野外大音楽堂/Streaming+

 ニューアルバム『発光帯』のリリース・ツアーの追加公演として、大阪と東京で行われた野外会場でのライブの東京編。ハナレグミは、2020年4月4日にここ日比谷野音で行うはずだった弾き語りワンマンを、新型コロナウイルス禍で中止にしているので、そのリベンジ公演、という意味合いもある。
7月24日(土)18:00から事後配信もあり。チケットは税込3,300円、プラットフォームはStreaming+で、7月30日(金)18:00まで視聴可能。
 このライブ、朝日新聞の夕刊にレポを書いて、8月5日(木)発刊の紙面に掲載された。というたびに思うが、難しいですね、新聞って。ウェブメディアにレポを書いた時はリンクを貼ればいいし、雑誌なら「ぜひ読んでね」とか宣伝すればいいけど、新聞の場合、デジタル版の会員になっている人以外は、当日を逃すと読みようがないし。
 でも一応、アドレスを貼っておきますね。≫ 朝日新聞デジタル:(評・音楽)ハナレグミ 「独自にいこう」、自由さ満喫
 というわけで。ギター石井マサユキ・ベース鈴木正人・ドラム坂田学・キーボードハタヤテツヤのバンドに、曲によって美央ストリングスの4人が加わる編成でのライブで、中盤で弾き語りコーナーもありの、バラエティに富んだ構成だった。
 自分が経験した日比谷野音のライブで、お客のアルコール摂取率が高いトップ3は、Caravan、GRAPEVINE、そしてこのハナレグミが、長年にわたってキープしている。なので、コロナ禍でお酒NG、というのは、けっこうなダメージのはずなのだが(本人もMCで「いやあ、酒が飲めたら最高だったのにね」とか「酒の雨が降ったらいいのにね」とか言っていた)、自分は意外と平気だった。ライブ・パフォーマンスが、あまりにもよかったので。
 特にアンコールのサザンオールスターズのカバー「真夏の果実」に、しびれた。歌い終わって本人、「……めっちゃええ曲やあ!」とおっしゃったが、「めっちゃええボーカルやあ!」と言い返したくなりました。

7月23日(金・祝)17:00 Calmera@渋谷TSUTAYA O-EAST/ZAIKO

 ニューアルバム『誰そ彼レゾナンス』のリリース・ツアーであり、結成15周年ツアーでもある『誰ソ彼ノ演奏會』、福岡・大阪・名古屋・東京のファイナル公演。各地で『誰そ彼レゾナンス』に参加したゲストが出演したが、この東京公演は、アスタラビスタとカンニング竹山が出る、という、豪華バージョンだった。
 ZAIKOで生配信もあり、配信チケットは2,500円で、なんと8月16日(月)23:59までアーカイブ配信が観られる、というサービスっぷり。
 MCそれぞれ、飄々としつつも腰の強いラップをぶちかますアスタラビスタ、やっぱりめちゃくちゃ華があって、楽しかった。アンコールでMVと同じ赤スーツで登場した(しかしカルメラ一同はグッズTシャツに着替えており、揃いにならなかったことに愚痴ってもおられた)カンニング竹山、緊張も込みだったのだろうが、ものすごく気合いの入ったトーキング・ブルースを聴かせてくれた。
 ただ、特筆したいのは、そんな豪華なゲスト・タイムに負けず劣らず、バンドだけの時間がすばらしかったこと。カルメラの本筋であるインストゥルメンタルの曲、どれも強烈に耳にひっかかる、ライブだとさらに。
 このたとえ、適切かどうか、ちょっと自信がないが、僕が中高生だった1980年代って、カシオペアやSQUARE(後のT-SQUARE)なんかの、当時「フュージョン」と呼ばれた、歌のないインスト・バンドが、他の歌ありのバンドと並列で、ポップなものとして、普通に聴かれていた時代だった。というのと、今のCalmeraのポップさって、何か近いものがある気がする。全然フュージョンではないけど、ジャンル的には。

7月29日(木)19:00 中村明珍『ダンス・イン・ザ・ファーム』チンと周防大島探訪@渋谷伝承ホール

 元銀杏BOYZのギタリストで、バンド脱退後の2013年に、山口県の周防大島に移住して、農家と僧侶を兼ねて生活しながら、島にミュージシャンや哲学者や落語家などを招いてイベントを行ったり、文章を書いたり、ネットラジオでしゃべったりと、いろいろ発信している、中村明珍(銀杏BOYZ時代の名前はチン中村)という人がいます。
 で、彼が島での生活などについて綴った『ダンス・イン・ザ・ファーム』(ミシマ社)という本が出て、その出版記念イベントが、これ。コロナ禍で一度延期になり、この日、改めて行われた。
 出演は、中村明珍とトークをする相手として、音楽仲間ふたり=カクバリズムCEOの角張渉と、ミュージシャンの酒井大明。チンくんと即興でセッションをした、阿部海太郎(舞台や映画、テレビの劇伴などをいっぱい作っている音楽家。チンくんの同級生だそうです)。チンくんとトークし、最後に落語を一席やった(『時そば』だった)、立川談笑。あと、オープニングで「落語ラップ」を披露した、柳屋緑太と柳亭市童。以上の方々でした。
 で、チンくんのツイッターをフォローしているのに、このイベントのことをスルーしていた私は、7月24日(土)放送のTBSラジオ『ナイツのちゃきちゃき大放送』に、ゲストで来た立川談笑が告知をしたことで、「あ、そんなのあるのか!」と知り、チケットを買ったのでした。
 ゲストたちが周防大島に来た時などの画像を、チンくん自らPCで舞台後方の画面に出しながらトークするんだけど、それがなんともテキパキしていなくて、「出す写真、『角張&酒井』『立川談笑』って、前もってフォルダに分けときなさいよ!」「そもそもPCの操作しながらしゃべるの無理があるよ、人に任せればよかったのに!」「っていうか、言ってくれればやったのに!(←なんでだ)」などと、ヤキモキしたこと以外は、とても楽しい会だった。
 なお、チンくんが周防大島にいろんなアクトを招いて、イベントを行って来た公民館が、老朽化のため取り壊されることが決まり、それを止めるために、「じゃあ僕が買います」と言ってしまったそうです。まだ奥さんにも言っていないそうで、これからクラウドファンディングか何か考える、みなさんぜひご協力を、とのこと。
 あ、チンくんの本『ダンス・イン・ザ・ファーム』、とてもおもしろかった。おすすめです。
ミシマ社:ダンス・イン・ザ・ファーム 周防大島で坊主と農家と他いろいろ

7月30日(金)17:30 THEティバ、Monthly Mu & New Caledonia、錯乱前戦@下北沢BASEMENTBAR

 フジロック等でおなじみのイベンター、スマッシュと、ソニー・ミュージックの新人開発セクションSDが組んで立ち上げた、『SMASH×SONY MUSIC presents Yellow Stage』というイベントの一回目。SD関係の新人をフックアップする企画で、今後も一回ごとに出演者を変えながら続いていくそうです。
 で、ぴあの知人にレポを依頼されて観に行ったんだけど、トップのTHEティバと二番目のMonthly Mu & New Caledoniaを観終わった段階で「俺に振ってくれてありがとう!」と言いたくなったくらい最高だった。が、そのあとの、トリの錯乱前戦がさらにすごくて、ちょっと絶句した。
 しかも、この日の錯乱前戦、実は、変則的な形でのライブだった。ということなども、ぴあのレポに書きました。ので、ぜひ。≫ ぴあ:【ライブレポート】今覚えておくべき新進気鋭バンド3組を下北沢ライブハウスで目撃!

7月31日(土)18:00 フラワーカンパニーズ@HEAVEN’S ROCK UTSUNOMIYA VJ-2

 ツアー『ふらっとフラカン・シリーズ〜36.2℃〜』(以外にも並行していろいろライブやっているのでややこしい)の、宇都宮公演。片道2時間ちょっとかけて、宇都宮まで行きました。
 で。このツアー、もうかなりの本数やっているだけあって、とてもいいライブだったんだけど、以下、ライブの内容以外で、書いておきたくなったことです。
・会場に入ってびっくりした。当然、入場者は通常よりかなり少なめに抑えられているんだけど、中でアルコール、売っていたのだ。そうか、栃木だからか。そういえば、ここまで来る途中に通ったオリオン通りの居酒屋も、どこも普通に営業していた。ただ、このライブハウスは、たとえローカルルールではOKであっても、8月からは(=翌日からは)、アルコールを出すのを自粛する、ということでした。
・この日、そのオリオン通りでは『うつのみや大道芸フェスティバル』というお祭りが行われていた。で、MCに差し掛かる度に、ライブハウス側はホールのドアを開けて換気をするんだけど、中盤、そのお祭りの終演の時間になったようで、ドアを開けるとでっかい花火の音がばんばんきこえてきて、メンバーたちも「すごいねえ」とかリアクションしたりして、お客さんみんな声は発せないながらも、何か、和やかな空気になりました。
・この時期、東京オリンピック2020の最中で、ドラムのミスター小西以外の3人は中継を観ているそうで、MCのたびにその話題になっていた。が、本編後半の、恒例の「メンバーひとりずつMC」のコーナーで、ギターの竹安堅一は、話し終わってから、「……選手だけを、応援します」と、言葉を足した。それを受けてボーカルの鈴木圭介は、「もう、わかんなくなってるんだよね。賛成か、反対か、どっちかじゃなきゃいけないのかなあ?」と言った。
 いずれも、身もフタもなく本音だなあ、と思った。で、気持ちがとてもよくわかった。コロナ禍云々の前から、東京へのオリンピックの招致自体に反対だったので、絶対に観ない、と決めている、僕のような奴であっても。

  • 兵庫慎司

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    兵庫慎司

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