兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第78回[2021年4月後半]編・お詫びと追加あり

コラム | 2021.04.28 17:00

イラスト:河井克夫

 音楽などのライター兵庫慎司が、音楽もそれ以外も含めて生で観たすべてのライブの短いレポを書いて、半月に一回アップしていく連載の、2021年4月後半編です。
 って、まだ4月後半終わってないのに、なんでもう書いたのかというと、前回=2021年4月前半編で、観たのに書くのを忘れていたライブが1本あったからです。
 4月3日(土)日比谷野音のイベント『若者のすべて #1』、観たのに書いていませんでした。25日(日)に同じ日比谷野音にGRAPEVINEを観に行った時、「日比谷野音、今年もう3回目だな、来たの……あれ? えーと……あ! 1回目、書いてない! しもうた!」と思い出したのでした。申し訳ございません。
 4月が終わってから書くと、アップが連休明けになってしまう、それは自分の気持ちが落ち着かないので、25日(日)まで観た時点で書くことにしました。それ以降にも、もし何か観たら、次回の5月前半編に書きます。
 あ、今回も、7本すべて生で観ることができました。次回は減るだろうなあ、東京、三度目の緊急事態宣言中なので。

4月3日(土)16:00 『若者のすべて #1 -YOUNG,ALIVE,IN LOVE MUSIC-』@日比谷野外大音楽堂

 フジテレビ日曜深夜の音楽番組『Love Music』(全国ネットになればいいのに、と、いつも思っている、いい番組です)がサンライズプロモーション東京と組んで立ち上げたイベント。言うまでもないが、タイトルはフジファブリックの曲名ですね。
 出演は、浪漫革命、Cody・Lee(李)、小林 私、キタニタツヤ、Awesome City Club、というブッキングなので、基本的に新人をフックアップする趣旨ってことですね。現に私も、オーサム以外は、初めてライブを観ました。
 その初めて観た4組、どのアクトもよかったが、特に強烈だったのが小林 私。「人を食ったキャラ」とはこういう人のことを言うんだなあ、とつくづく思わされる、シリアスに受け取られるのはまっぴらごめん、みたいな立ちふるまいなんだけど、歌い始めるとすっごい吸引力。張りがあって適度に苦い声といい、直接性と叙情性を併せ持った歌詞といい、耳が離せなくなる。
 あと、トリのAwesome City Club、「勿忘」以前と以降でステージが上がったんだなあ、とわかる、風格すら感じるライブだった。PORINが出演し(バンドもAwasome City Clubとして出演)、「勿忘」が使われた大ヒット映画『花束みたいな恋をした』を自分も観に行った、パンフまで買った、だからそう感じた、というのもあるだろうけど。
 でも、「勿忘」、「2021年にはこの曲がありました」というレベルで後世に残る存在になったんだなあ、と、この曲が歌われた時のオーディエンスの反応を観ていて思った。
 あと、こういう、新人を含めて何バンドも出るイベントが日比谷野音で行われている、ということ自体、すんごい懐かしい! ということに、途中で気がついたりもした。
 90年代はこういうイベント、日比谷野音でよくやっていたし、よく観ていたんだけど、00年代以降、どんどん減っていったのだ。アーティストの活動の重心が「CDリリース」から「ライブ」に移行していくのに従って、それでなくても高かった日比谷野音という会場の人気がどんどん上がっていって、どこの事務所もどこもイベンターもクジ引き(なのです)で引き当てるの大変、当選したらワンマン優先でイベントに回してる余裕はない、というふうになっていったのだと思う。

4月17日(土)18:30 teto@日比谷野外大音楽堂

 去年2020 年はコロナ禍だったので、日比谷野音に来れたのは10月4日のエレファントカシマシの一回だけだった(この時 ≫ 兵庫慎司のとにかく観たやつ全部書く:第65回[2020年10月前半]編
 で、今年もコロナ禍だけど、早くも二回目の日比谷野音。雨でした。かなり、しっかり降りました。
 けど、teto、雨の野外、似合ってた。小池貞利(Vo/Gt)、最近の若いバンドのボーカリストとしてはめずらしいくらいカリスマ性のある人だけど、それに拍車がかかっていて。バンドとしても、歌や演奏がグシャーッとジャンクになる瞬間が何度もあったりしたんだけど、それが却ってこの4人の魅力を増している感じだった。
 なお、ギターの山崎陸、本編が終わった時も、アンコールが終わった時も、濡れたステージの床をヘッドスライディングしてから去りました。

4月19日(月)18:30 『シブヤデアイマショウ』@Bunkamuraシアターコクーン

 シアターコクーンの芸術監督に就任した直後に新型コロナウイルス禍に見舞われた松尾スズキが、その状況へのカウンターとして(だと思う)立ち上げた「歌あり、踊りあり、演劇あり、笑いあり! シアターコクーンならではのエンタテインメントショー!」(公式サイトより)。
 4月18日(日)から25日(日)までの9公演。出演は、松尾スズキ、のん、猫背椿、宮崎吐夢、近藤公園、桑原裕子、康本雅子、秋山菜津子など。で、そこに日替わりで歌手や芸人や俳優などがゲストで加わる構成で、私が観たこの日は、井上芳雄(歌った)、石丸幹二(もちろん歌った)、笑い飯(ネタやった)が出ました。
 で。稽古中の時期に、松尾スズキは有料メルマガ(があるのです)で、この公演のことを「ショーとしか言いようがない」と書いていたが、まさにそのとおりだった。歌、ダンス、コント、ギャグ、芝居、漫才、もうあらゆるものが詰め込まれているのだが、それぞれが独立していて順番に出て来るのではなくて、全部つながっているというか、すべてトータルでひとつの作品になっているというか。
 確かに観たことない、こんなもの。松尾スズキ演出の舞台を観るようになって20年以上の間で、「この人の頭ん中、いったいどうなってるんだ」と思わされることは何度もあったが、今回、その最たるものだったかも。しかも、こんなにわかりやすくてゲラゲラ笑えるエンタテイメントでありながら。まいりました。
 なお、公演最終日の25日(日)が、三度目の緊急事態宣言の初日になってしまい、中止を余儀なくされたのが、気の毒だった。

4月21日(水)19:00 KALMA ゲスト:ズーカラデル@Zepp Tokyo

 KALMAはKALMAは4月6日(火)から5月30日までワンマン・ツアーを行っているが、合間に、それとは別に、東名阪で対バンツアーを行う、その東京編=4月20日(火)・21日(水)@ Zepp Tokyoの2日目。1日目のゲストはSaucy Dogで、私が観た2日目は、ズーカラデル。2日とも「3ピース・バンドが3ピース・バンドを呼ぶ」というブッキングですね。
 で、この2日目は、北海道出身バンドの先輩後輩対決、でもある。MCによると、札幌でも東京でも対バン経験があり、ゆえに今回、それらの時と同じこの2組で、こんな大きな場所でやれるのがうれしい、とのこと。
 で、どちらのアクトも、ハコの大きさと、コロナ禍仕様(座席を出して1席飛ばし)ならではのやりにくさなどを、微塵も感じさせない、この場で歌って演奏できていることを楽しんでいるのが伝わってくる、かといって張り切りすぎて無理したりもしない、いい意味でマイペースなステージだった。
 おかげで、双方のバンドがもともと持っている、楽曲のメロディのよさを堪能できた。単に、どちらも好きなバンドだ、というのもあるが。でも、どちらも「ロック・バンドに最小限必要なもの」「でもそれさえあれば他に何もいらないもの」を持っていると思う、本当に。

4月23日(金)19:00 フラワーカンパニーズ@リキッドルーム

 フラワーカンパニーズ、バンド年齡32歳の誕生日に行ったワンマンで、題して『フラカンが生まれた日〜32周年記念ライブ』。セットリスト、書いておきます。
1揺れる火 2いましか 3最後にゃなんとかなるだろう 4モンキー 5DIE OR JUMP 6産声ひとつ 7丑三つのライダー 8深夜高速 9うたは誰のもの? 10履歴書 11元少年の歌 12こちら東京 13東京ヌードポエム 14東京タワー 15DO DO 16どろぼう 17脳内百景 18TEENAGE DREAM アンコール19サヨナラBABY
 コロナ禍で急遽作ってリリースしたニュー・アルバム『36.2℃』10曲のうち「揺れる火」「産声ひとつ」「うたは誰のもの?」「こちら東京」「履歴書」「DO DO」の6曲をプレイ、それらがいずれもライブのいいポイントになっていた。あと「こちら東京」「東京ヌードポエム」「東京タワー」の、言わば「東京曲三連発」も、すばらしいハイライトになっていた。
 それから、全体に、ギター竹安、調子よかった気がする。特に16曲目の「どろぼう」のプレイ、圧巻のかっこよさだった。
 と、終演後に本人に言ったら、コロナ禍以降、なかなかスタッフがフルメンバー揃って行う規模のライブがやれない、ツアーも最少人数でパッと行ってパッと帰る、でも今日は久々にスタッフ全員でやったライブだった、だからすごくやりやすかった、そのせいじゃない? とのこと。なるほど。

4月24日(土)18:00 Calmera ゲスト:Gecko&Tokage Padrade@下北沢シャングリラ

 カルメラが行っている対バンイベント『Calmera“Let’s Be Together”』の19回目と20回目を、この日下北沢シャングリラ(旧下北沢GARDEN)で、ダブルヘッダーで開催。19回目は13:00開演で、ゲストはMomonoband(モノブライト桃野陽介のバンド)、20回目は18:00開演で、ゲストはGecko&Tokage Parade。
 Gecko&Tokage Paradeは、初めて観た。ピアニストWataru Sato/Geckoが中心、彼にギター・ベース・ドラムが加わった4人編成のインスト・バンド。僕が高校生の頃によく触れた「フュージョン」というジャンルを思い出させるような、テクニカルな面と、聴く人の意識とか理性とかをどっかに飛ばしちゃうトリップ・ミュージックの面、両方を持っているバンド、という印象を受けた。
 で、久しぶりに観たカルメラは、とにかくもう、踊らせ熱狂させ興奮させるダンス・ミュージックとしてのインスト・バンド。ただし、MCで本人たちも言っていたが、インストなのでシンガロングとかないから、コロナ禍でも大丈夫。入場者を本来の1/3以下に抑えていたのもあって、お客さんみんな、静かに、でもすんごい楽しそうに踊っているさまが、とてもいい光景だった
 あ、カルメラ、今結成15周年企画でいろいろやっていて、5月12日にはニュー・アルバム『誰そ彼レゾナンス』がリリースされる。で、それに先駆けて、YouTubeのチャンネル「blackboard」にアップされた、カンニング竹山とのユニット「タケヤマカルメラ」の「ヘイ・ユウ・ブルース〜許せ、友よ〜(blackboard version)」(左とん平の名曲のカバー、というか新しい歌詞をのっけたもの)が、めちゃくちゃかっこいい。
 未見の方はぜひ。カルメラはもちろんだけど、カンニング竹山もすばらしすぎるので。まさに魂の叫び。

タケヤマカルメラ「ヘイ・ユウ・ブルース ~許せ、友よ~ (blackboard version)」

4月25日(日)17:00 GRAPEVINE@日比谷野外大音楽堂/LIVEWIRE/PIA LIVE STREAM

 この日から、東京・大阪・兵庫・京都に三度目の緊急事態宣言が出たもんで、いったいどうなるか非常に気をもんだが、結果、無事開催されてホッとした、GRAPEVINEの日比谷野音。LIVEWIRE/PIA LIVE STREAMで生配信もあり。チケットは前売3,000円で当日3,500円、5月5日(水)23:59まで見逃し配信あり。
 考えてみれば、GRAPEVINE、もともと、お客さんみんな「一緒に歌わない」「騒がない」「動くのは身体をユラユラ揺らすのとたまに両腕を上げるくらい」なバンドなので、オーディエンスがコロナ禍以前と以降で違うのは「マスクをしている」ことだけなのよね。
 という意味では、ここからクラスターが起きる心配などないんだけど、この前日の4月24日(土)には、4月30日(金)から開催だった、『ARABAKI ROCK FEST. 20th×21』の開催中止が発表されたりもしたので(「まん防」は出ているが緊急事態宣言は出ていない宮城なのに)、このバインの日比谷野音も心配だったのでした。
 「雨が降るかも」という予報が外れ、この季節ならではのちょうどいい気候の中、緑に包まれた日比谷野音で、じわじわと日が暮れていく中で、GRAPEVINEのライブ・パフォーマンスをじっくり堪能できる、という、他の何にも替えられない、至福の時間だった。唯一、アルコールが売っていなかったのが残念だったが、しょうがないというか、そりゃそうだというか、それくらい全然平気です。
 本編18曲、アンコール3曲。終始、手応えを感じつつライブを終えた(んだな、と思える、いい表情をしていた)田中和将、アンコールで「Arma」「スロウ」「smalltown,superhero」の3曲を聴かせて去る時に、「あ、今日0時に、ねずみが現れます、よろしく」と言った。
 で、24時、新曲「ねずみ浄土」&そのMVが公開された。ニューアルバム『新しい果実』は5月26日リリース、そのツアーもあり。

GRAPEVINE - ねずみ浄土(Official Music Video)

  • 兵庫慎司

    TEXT

    兵庫慎司

    • ツイッター

SHARE

最新記事

もっと見る