10/10(水)Zepp DiverCity(TOKYO)
ライブ終演後。会場を後にする観客の波に飲まれながら、「想像以上だったね」という声を耳にした。ツイッターにも「思った以上だった」「期待以上だった」という感想が上がっていた。その行間を補足するならば、「想像、期待、思った以上に“バンド”だった」という意味であろう。
ハナレグミとフジファブリックによるスペシャルユニット“ハナレフジ”の全国ツアー「ハナレフジ LIVE TOUR “宝船” 〜僕らはすでに持ちあわせている〜」の東京・Zepp DiverCity公演の1日目。フジファブリックのサポートドラマーであるBOBOを加えた5人は、間違いなく1つの“塊”となっていた。もちろん、バンドという形態は一石二鳥で完成するものではないし、MCの進行やそれぞれのファンの反応など、いつもとの勝手の違いに戸惑った部分はあるだろう。それでも、この日のステージからは、対バンでの共演や即席ユニットではない、バンドとしての確かなグルーヴを感じることができた。
ここで、二組がバンドを結成するまでの経緯を改めて振り返っておくと、最初の対バンは2007年3月1日のZepp Tokyoまで遡る。フジファブリック主催のイベント「倶楽部AKANEIRO vol.6」にPeridotsと共にハナレグミが出演。この時は対バンだけだったが、2010年7月17日に富士急ハイランド・コニファーフォレストで開催された「フジフジ富士Q」では、フジファブリックの演奏をバックにハナレグミが「ダンス2000」「ルーティーン」の2曲を歌った。そして、2016年9月13日にEX TEATER ROPPONGIで開催された「LIVE OASIS」での対バンがあり、2017年3月12日に両国国技館で開催された「J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE」ではハナレグミのステージに山内総一郎が飛び入り参加し、「ハンキーパンキー」で共演。同年7月1日にZepp DiverCity(TOKYO)で開催された「フジフジフレンドパーク2017」ではフジファブリックの出番の後、“ハナレグミ with フジファブリック”として、くるり「男の子と女の子」のカバーや、SUPER BUTTER DOG時代の楽曲もフィーチャーしたメドレーなど、アンコールを含む全12曲を演奏した。この時点ですでに永積がMCで「ハナレフジですから」と冗談めかして語っている通り、現在の雛形となったステージであった。そして、同年12月29日にインデックス大阪で開催された「FM802 RADIO CRAZY」のR-STAGEにて、“ハナレフジ”としての初ステージ(メドレーを含む全6曲)を踏み、今年10月4日からスタートした全国5箇所6公演に及ぶファーストツアーの開催へと至った。
本ツアーでの最大の見どころは、やはり、“ハナレフジ”としての新曲披露であろう。まずは、ハナレグミではほとんど聴くことのない四つ打ちのフレンチエレクトロ〜ニューウェイヴ・ディスコ。フジファブリックの演奏あってこその楽曲であるが、同じ穴の<MUJINA>にも聴こえるし、<MUSICA>(ラテン語で音楽)にも聴こえるという複層的な言い回しはハナレグミらしいとも言える。そして、アコースティックギターを基調に、バンドメンバー全員による“5声”で歌われる、ツアータイトルの“宝船”をテーマにした1曲。観客による<ヨーソロー>の大合唱とクラップを誘う楽曲はハナレグミによく似合う。さらに、バンドバージョンの突き抜け感は、ハナレグミでもフジファブリックでもない、ハナレフジとしかいえない折衷的な個性が際立つ楽曲となっていた。あの、深遠なるエコーとドリーミーさ、目の前の壁を突き破るような爽快さはぜひ、生のライブで体験していただきたい。あのスケール感を聴けば、彼らのバンドへの本気度がいやが応にも伝わってくると思う。
また、メジャービュー21年目と15年目を迎えようかとする2組の「こなれた新人」によるライブは、それぞれのファンでないとしても、音楽好きなら「想像、期待、思った以上」の“豊かさ”や“奥深さ”、“満足感”を感じるはずだ。ライブが進むにつれ、いつの間にか、自然に体は揺れ始め、クラップし、大きな拍手をし、思わず「最高!」と声を上げてしまうだろう。
永積はアコギ、エレキ、ブルースハープ、シェイカー、鳥笛などを演奏し、山内はアコギ、エレキに加え、「台湾旅行で買ってきたばかり」だという民族楽器“ルアン”も披露。金澤はエレピやオルガン、アコーディオンを弾き、加藤もエレキベースのみならず、エレキのアップライトベース、シンセベースも導入。永積と山内がツインヴォーカルを務め、金澤も終始、見事なコーラスを聞かせてくれた。歌の言葉の輪郭の付け方が全く違うのも面白いし、普段、聞き慣れたそれぞれのオリジナル曲も、歌い手次第で違う発見をもたらしてくれる。
さらに、ジャンル的にも、ロック、ポップ、フォーク、カントリー、スカ、ソウル、ファンク、ブルース、ラップ、テクノと幅広く、オリジナル楽曲とカバー曲の生ミックスもあったし、その場のノリで歌う曲を決めるアコースティックコーナーも用意されていた。永積、山内、金澤の3人を中心とした声が織りなす“歌”のグルーヴ、歌詞の言葉の意味が作る“意味”のグルーヴ、そして、ベースとドラムのキックを中心にしたバンドアンサンブルからなる“低音域”のグルーヴが重なった瞬間にとてつもない興奮を感じた。音楽の持つあらゆる楽しみと豊かなグルーヴが詰まったライブだった。
「僕らはすでに持ち合わせている」というタイトルをつけたときは持っていなかったはずの“ルアン”が加わっているように、“宝船”と名付けた船に乗って出航した彼らは、音楽の旅を続ければ続けるほど、次々と新たな宝物を獲得していくだろうし、それぞれのライブに持ち帰るものもあるだろう。ハナレフジで最初に聴いたフジファブリックの新曲「Water Lily Flower」がフジファブリックのワンマンではどう響くのか。ハナレグミは自身のライブでフジファブリックの楽曲を演奏するのか。そして、ハナレフジの次の出航先はどこで、いつなのか。どちらにしても楽しみと期待しかないし、不定期でも続けて欲しいと願っている。まだこのバンドで聴きたい曲が山ほどあるから。