<おどろ曼荼羅~人間椅子2018年春のワンマンツアー>
2018年4月27日(金) 東京・TSUTAYA O-EAST公演
バンドにとって初のMV集『おどろ曼荼羅〜ミュージックビデオ集〜』(2018年4月4日)の発売に伴って、全国ツアーを行った人間椅子。強固な世界観を持つバンドだけに、これまでMV関連アイテムのリリースがなかったということにやや意外な印象を受けたし、同作の発売がファンにとって嬉しいニュースだったことは想像に難くない。4月27日に渋谷TSUTAYA O-EASTで開催された同ツアーの最終公演もウィークデーにも拘わらず満員となり、人間椅子の動員力の高さを改めて感じさせる中でのライブとなった。
オーディエンスがあげる大歓声と拍手を浴びながらステージに姿を現した人間椅子は、パワフルな「超自然現象」と「地獄の球宴」を続けて聴かせる流れからライブをスタートさせた。和装姿で伸びやかに歌い、ソリッドなバッキング・ワークやホットなギター・ソロを決める和嶋。白塗りの僧侶姿で退廃的な雰囲気を漂わせつつ太くウネるベース・サウンドを轟かせ、粘りのある歌声を聴かせる鈴木。フロント2人とは異なる鯉口シャツ姿や明るいオーラとパワフルなドラミングの取り合わせが印象的なナカジマ。キャラクターの強い3人がステージに並び立った姿には目を奪われるし、重さとキレの良さを併せ持った爆音は心地好さに溢れている。オーディエンスもオープニングから熱いリアクションを見せ、ライブは上々の滑り出しとなった。
2曲聴かせたところで、「こんばんは、人間椅子です」と鈴木が挨拶。「今日はお仕事の後、こんなにも駆けつけてくださいまして、どうもありがとうございます。今回のツアーは、北は北海道から南は沖縄まで、『おどろ曼荼羅〜ミュージックビデオ集〜』の実演販売です(笑)。実演を見て、気に入ったらDVD/Blu-rayを買ってください」。
続いて、和嶋がMC。「『おどろ曼荼羅〜ミュージックビデオ集〜』を引っ提げてのツアー・ファイナルです。DVD/Blu-rayの発売記念ライブですが、生演奏で皆さんと楽しさを共有したいと思います。今日は最後まで、よろしくお願いします」。客席からは温かみに満ちた拍手と歓声が起こり、人間椅子がミュージック・シーンではやや珍しいともいえる“MV集リリース・ツアー”を行ったことを、ファンの皆さんが大いに喜んでいることが伝わってきた。
その後は、重々しい世界から切迫感に満ちたアップ・テンポの後半に移行する「幽霊列車」や、鈴木の「珍しい曲をやりましょう」という言葉と共に演奏されたミディアム・テンポの「悲しき図書館員」、サイケデリックな雰囲気を纏った「怪人二十面相」などをプレイ。今回のツアーは過去にMVを制作した楽曲を軸にしたセットリストではあるものの、「悲しき図書館員」のように普段のライブではあまり演奏しない曲が多かったこともポイントといえる。レア曲が演奏されるたびに客席からは「おおっ!」というどよめきが起こり、場内の盛り上がりに一層の拍車が掛かっていた。“スペシャル”と呼ぶにふさわしい内容に、来場したオーディエンスは満足したに違いない。
ライブ中盤では抒情的な前半からパワフルな中盤を経て、和嶋がギター・ソロを熱く弾きまくる後半に至る「夜叉ケ池」や、ダーク&ハードな「命売ります」、ヘヴィなシャッフル・パートとおどろどろしいセクション、豪快に疾走するギター・ソロなどのコントラストが光る「東洋の魔女」などが演奏された。大胆な場面転換を活かした彼らの楽曲はストーリー性を感じさせると同時に、シアトリカルな雰囲気を纏った視覚面も加わって強大な惹き込み力を発する。人間椅子が創出する深みのある世界観を生で体感するのは、本当に気持ち良かった。また、「命売ります」はBSジャパンで放映された三島由紀夫原作ドラマ『命売ります』の主題歌だったわけだが、人間椅子の中でもかなりアグレッシブな楽曲なことは注目といえる。タイアップ曲なのに濃い…というのは珍しい。こういう攻めの姿勢も彼らの魅力だなと思わずにいられないし、激しい曲でいながらキャッチーという辺りもさすがといえる。
ナカジマがメイン・ボーカルを取るシャッフル・チューンの「悪魔の添乗員」からライブは後半へ入り、狂騒感を湛えた「地獄のヘビーライダー」やメタル・テイストが香る「迷信」、アップ・テンポの「針の山」などが畳みかけるように演奏された。テイストの異なるハードネスでボルテージを上げていく流れやステージ全体を使ってメンバーが織りなす激しいパフォーマンス、爽快感に溢れたラウドなサウンドなどが一体になって生まれるパワーは絶大で、ライブを観ていると気持ちを引き上げられずにいられない。オーディエンスの熱気もさらに高まり、場内はツアー・ファイナルにふさわしい盛大な盛り上がりとなった。
今回のライブで、揺らぐことのない魅力を見せつけた人間椅子。彼らは“自分達に正直な音楽”を追求し続けている、非常にピュアな存在といえる。ライブ中のMCでメンバー自身が語っていたように29年に及ぶ活動の中では浮き沈みがあったわけだが、沈んだ時期に方向変換などを図ることなく、本当に自分達が好きな音楽をやり続けたことには頭が下がる。そういうスタンスのバンドだからこそ、彼らが創る楽曲は普遍性や説得力を備えているし、ファンと強い信頼関係で結ばれているし、若い世代のリスナーにも支持されるのだと思う。そして、メンバー達の音楽に対する情熱が薄らぐこともないだろう。今年の夏は多数のフェスに出演し、夏の終わりに再びワンマンツアーを行うことなども含めて、人間椅子の物語がまだまだ続くことを強く予感させる良質なライブだった。
セットリスト
1. 超自然現象
2. 地獄の球宴
3. 幽霊列車
4. 悲しき図書館員
5. 怪人二十面相
6. 夜叉ヶ池
7. 命売ります
8. 東洋の魔女
9. 恐怖の大王
10. 洗礼
11. 水没都市
12. 悪夢の添乗員
13. 地獄のヘビーライダー
14. 迷信
15. 針の山
EN.1-1. 浪漫派宣言
EN.1-2. ダイナマイト
EN.2-1. どっとはらい