取材・文/永堀アツオ
──前作『レシキ』から2年ぶり通算5枚目のアルバム『Ⅴキシ』がリリースされますが、このタイトル、よく思いつきましたね。
これが出た時は、曲を書くよりもホッとしたね(笑)。『レキシ』『レキツ』『レキミ』『レシキ』ときて、まさか5枚も作るとは思ってないでしょ。『レキゴ』だと普通だし、もう冗談で『レキシ外伝』とか、『その後』みたいな感じでいいかなって言ってたの。だから、『Vキシ』を思いついた時は、5枚目だってわかるし、レキシにも見えるし、きたー!と思って。それで安心しちゃって、アルバムの制作が遅れた感はあるね。
──ドラマ『99.9-刑事専門弁護士-』の撮影やファンクラブツアーなども行う中で、ようやく完成しました。<もはや歴史でもない。>というキャッチコピーが気になったんですが、これはどういう意味ですか?
当たり前化が進んでるっていうことかな~。前は日本史のことを書いてるっていう自覚があったけど、日本史が当たり前で、普通に曲を作ってるだけの感覚になってるというか。去年、いろんな外仕事をやったでしょ。『ちょっとレキシ(日本史)っぽさを入れてください』っていうリクエストが多いんだけど、レキシの曲もその延長で、普通に意識せず作ってる感じがあって。ヴォーカルに関しても、前は『俺が歌うなんて』っていう理由でフィーチャリングをお願いしてたはずなのに、今は俺が自然に普通に歌ってる。なんかいけないな~と思って(笑)。
──何がダメなんですか?世の中に浸透してるっていうことだと思うんですが。
いや~、このままじゃないけないよ。なんか危ないもん。ぬるま湯に浸かってる感じがするから、本当にダメだよ。何かをぐるっと変えなきゃいけない。我に七難八苦をかさないとね。それだけレキシが当たり前になってるのはありがたいことではあるんだけど。
──ライブで観客が稲穂を振るのも恒例となってますし。
嬉しかったのは、長崎のロックフェスに出た時。ほぼモッシュやダイブの中、レキシだけ稲穂(笑)。それは嬉しかったんだけど、よく考えたら、稲穂は歴史じゃなくて、農業だからね(笑)。しかも、今回のアルバムには、牛車の曲や流鏑馬(やぶさめ)の曲もあるから、稲穂、牛、馬で、もはや北海道なんじゃないかって(笑)。そういう意味でももはや歴史じゃないっていうことですね。
──(笑)とはいえ、歌詞はしっかりと日本史がテーマになってて。新作は、『旧石器ベイベ feat. 足軽先生』以外は、飛鳥、奈良、平安、室町、戦国時代と言った日本の西側が舞台になってますね。
去年の秋に初のシングル『SHIKIBU feat. 阿波の踊り子』を出した時に、すでに『やぶさめの馬 feat. ハッピー八兵衛』ができてたの。紫式部は平安で京都だし、去年の夏に流鏑馬神事で有名な京都の下鴨神社にも行ったし、これはきたな!と思って。まず、テーマを西っていう風に真っ先に言って、自分を追い込みました(笑)。
──足軽先生との『旧石器ベイベ』は?
それはね、足軽先生に相談したら、旧石器で一番有名なのは群馬の岩宿遺跡で、東京より西ならいいだろうって。強引だし、地域としては異質だけど(笑)、西にも遺跡はいっぱいあるしね。それよりも、足軽先生と話してて感じたのは、視点の面白さにあって。
──ラブストーリーになってますよね。
そうそう。去年、初めて岩宿に行って、遺跡も見学したんだけど、どうしても初めて発掘されたっていうエピソードをクローズアップしちゃうでしょ。それはそれで面白いんだけど、足軽先生が、自分が使ってた旧石器を好きな子が持ってるっていうストーリーを入れてくれて。一人で考えてるとどうしても難しい方にいっちゃうから。
──歴史をそのまま書きたいわけではないんですよね。
もっとリアルに想像しやすいというか、歴史上の人物も自分も同じだなっていうことを面白がりたいっていうだけなんだよね。鎌足の曲も、大化の改新とか、暗殺とか、大きな政治的なことがちらつきがちなんだけど、そうじゃなくて。中大兄皇子と中臣鎌足の出会いは蹴鞠だから、靴を拾ったとこだけを曲にしようって考えた時に、レキシはやっぱこれだよなって。歌詞考える時は、ついつい、年単位で見がちだけど、一月、一日、一時間単位で物事を見てたのを忘れがちで。それを改めて、思い返させてもらったなって。
──『刀狩りは突然に』もそうですよね。現代にも置き換えられるような身近な話になってます。
そう!元サヤもね、思いついた時に、今は男女の仲の言葉で使われてるけど、語源はこっちじゃん!って思って。“刀”っていう言葉を“彼女”に変えたら、女の子を奪われた歌に聞こえるし、平歌だけ見ると、普通の曲でしょ。この曲を思いついた時は、(水野晴郎で)いやぁ~、歴史って本当にいいもんですね~って思ったよ。
──(笑)歌詞に関して言うと、“言葉”について歌ってる曲が多いなと感じました。東山文化を代表する詩人でもある一休さん、万葉集に和歌が収録されている中臣鎌足、古今と新古今、平安時代の女流作家の紫式部…。
確かに。寺子屋で子供達も<いろはにほへと>って言ってるしね。言葉の歴史……それ、いただきます。あはははは。でも、全く意識してない。西に寄ったからかもしれないね。とにかく、毎回そうだけど、今回も絞り出したから!そんなこと考えてる余裕はありません!!!
──あははは。また、バンドマンが多い印象もあって。阿波の踊り子(チャットモンチー)やハッピー八兵衛(後藤正文 from ASIAN KUNG-FU GENERATION)、ネコカミノカマタリ(キュウソネコカミ)が参加してますよね。
それも、たまたまで意識してなかったけど、バンドとやりたいなっていうのは前から考えてて。キュウソとやった鎌足の曲は、アレンジと演奏をバンドに丸ごと投げて、ほぼ俺が乗っかる感じ。キュウソとはフェスで一緒になることが多かったんだけど、俺がキュウソの<スマホはもはや俺の臓器>っていう歌詞をいじったり、向こうも<縄文土器>とか<稲穂>とか言ってて。いつか一緒にステージに出ようと言ってたし、バンドと丸ごとやりたいって思ってたのが実現した感じだね。
──ラストナンバーのロックバラード「最後の将軍」では森の石松さん(松たか子)とデュエットもしてて。
松さん、可愛かったな~(笑)。それが、今回のレコーディングの一番の思い出だね。
──あははははは。歌力もすごいですよね。
そう、第一声で一気に全部、持っていくよね~。それも想定してお願いしたんだけど、改めて素晴らしいなって思いました。
──全曲揃って、曲順はどう考えてました?
前の『レキシ ト ア・ソ・ボ』や『Takeda’ feat.ニセレキシ』みたいに遊びの曲がなくて、キャッチーな曲が多いから難しいかなと思ってたんだけど、そんなに悩まずに早めに決まって。今、配信とかで曲を聴く形態も変わってきてるでしょ。だったら、アルバムは自分のストーリー重視で考えたほうがいいなって思って。
──どんな流れになってると言えばいいですか?
まず、シャウトで幕開けて、2曲目でキュウソと勢いよく踊り、一休さんでいきなりバラードの感じになって。真面目やな~と思った瞬間、不真面目な語りから始まり、安定のゴダイゴマナーの曲でゴッチが歌ってひと段落。後半の幕開けが『SHIKIBU』で、変拍子のファンクサウンドで音楽的なところに行ったな~と思ったら、さらにコアな旧石器が始まり、チャラい足軽先生が出てきて、刀狩りから大団円に向かっていって、最後に『最後の将軍』で美しく終わるっていう……。そのまま言ってるだけだけど(笑)。
──あはははは。全体的にライブを想定して作ってるような生の疾走感もありました。
そうだね。以前はトラックを編集することもあったけど、今回はレキシのバンドメンバーと一緒に作った感が強くて。バンドに背中を押されてできた曲も多いし、特に1曲目の『牛車』はライブのことしか考えてないくらい。サビの<♪牛牛牛牛牛牛牛牛牛牛牛牛牛牛車>は、きっと伸びるよね。俺は終わろうとするんだけど、バンドが終わらないとか、いろいろ見えるよね。
──(笑)7月からは全国ツアー「遺跡、忘れてませんか?」もスタートします。前回の武道館では大きな埴輪を建立し、劇団も発足。昨年12月の両国国技館は映画がテーマになってましたが、今回は!?
アルバムのツアーだから、面白い系はやめて、ちゃんと曲をやりなさいよっていうお達しが出てます(笑)。だから、今回は断言します!今までで一番多い曲数をやります。これまでの最多は3時間弱で14曲だから、15曲はやるっていうことだけは約束します!
──さらに、ファイナルは2度目となる日本武道館です。こちらには「遺跡、忘れてませんか?~大きな仏像の下で~」という気になるサブタイルがついてますが……。
武道館に関しては、またでっかい何かを作る流れがあるかもしれないし、スペシャルゲストがくるかもしれないよっていうことだけは言っておきます。あとは、ベースが(山口)寛雄で、ドラムが(伊藤)大地くんという組み合わせはワンマンでは初なのね。それを考えるのも楽しみの1つ。とにかく、俺が面白ければいい。客がドン引きしても。ま、まだ何も決まってないけどね!!!ああはははは。
──(笑)もう次も見えてます?
……毎回そうだけど、今回は本当に大変だったの。レコーディングでバタバタするのは毎回なんだけど、さらに精神的にも追い詰められたから。隣でマネージャーが『自業自得だよ』って言ってますけど(苦笑)、その辺を回避するためにも、次はリリース日とか先に決めないようにしようと思ってます!ある程度見えてから発売しょうかなって。だからね、今回、一休さんのカッコしたけど、次こそ、<あわてないあわてない。ひとやすみひとやすみ>が効いてくるよ。
──タイトルも今から考えます?
今回、かなり裏かけたでしょ。みんなが想像できなかったものを出せたから、次は『やっぱりね』でいいかなって、1回、安心してる。『レキシックス』でいいかなと思いつつ、それでいいのか?と自問自答する日々だね。次のキャッチコピーは『それでいいのか、レキシ』もいいな。うん、それで決まりだね(笑)。
▼「KMTR645 feat. ネコカミノカマタリ」Music Video+メイキング You Tube