名前のないツアー
2017年5月12日(金) 横浜BAY HALL
Report:兵庫慎司
Photo:田中聖太郎
アルバムやシングルのリリースに紐付いたツアーではないせいなのか、「名前のないツアー」というタイトルが付けられた2017年3月〜5月のハナレグミのライブハウス・ツアーのファイナル、横浜BAY HALL。ホーン隊も含めたバンド編成、ひとりで弾き語り、そしてボーカル&ギターの永積崇とキーボード/ドラム/ベースの4人編成、の3パターンがハナレグミのライブにはあるが、このツアーは4人編成バージョン。
なお、このツアー、全18本という公演数だが、「今まで行ったことのない場所にも行きます」とアナウンスされ、東京・大阪・名古屋・札幌・福岡といった大都市での公演はなしで、北海道だと旭川と小樽、関西だと和歌山と京都と神戸、九州だと長崎と鹿児島……というふうにスケジュールが切られている。関東は、ツアー1本目の3月3日の熊谷とラストのこの日、5月12日の横浜BAY HALLの2本だった。
「見たところ、(自分と)同年代くらいの人が多いですけど。2時間ぐらいになっちゃいます。飽きのこないセットリストでやりますけど、倒れる時(左右の)どっちに寄りかかったらいいか、今から決めといてください」
ステージに出てきて「大安」でライブをスタートさせる前に、永積崇はそうMCした。2曲目「旅に出ると」を歌い終わると、「……なんか調子いいな、今日」と漏らす。「大好きなレストラン、なくなったんですけど、そこに向けた歌です」という紹介で始まった4曲目「きみはぼくのともだち」にオーディエンスみんなじっと聴き入った、と思ったら、「静かな曲でも叫んでもいいんだぜ!」と急にあおったりする。で、「こんなに長くライブハウスを回るの初めて。楽しいですね!やっぱり目の前とつながるのがいちばん楽しいぜ!ヘッドホンだけじゃつまんないぜ!」と叫んだりもする。
5曲目「あいまいにあまい愛のまにまに」でフロアにシンガロングを求め、ビールの量(250ml、500ml、1L、一升)を声のボリュームの目安にして250mlから始めるも、返ってきた声の大きさに「これもう1Lだよ」と喜んでみせる。自身の曲たちの途中に小沢健二「ラブリー」もはさみこんだメドレーを聴かせ、続く「オリビアを聴きながら」では5曲目を超えるボリュームの大合唱が巻き起こる。にしても、2013年のカバー・アルバム『だれそかれそ』でハナレグミがこの曲をカバーした時は、こんなふうにライブで盛り上がるキラーチューンになるとは思いませんでした。杏里のオリジナル・バージョンをリアルタイムで知っている世代としては(元はしっとりとした悲しい歌なのです)。さらにこの曲ではフロア前方の女の子にマイクを預け、彼女の歌声が響き渡って拍手喝采──という一幕もあった。
東京スカパラダイスオーケストラの沖祐市に書いてもらったという新曲も披露。アンコールでは、YOSSYがドラム、菅沼がアコースティックギターにコンバートして、「YOSSYがドラムを叩くための歌」だという新曲をもう1曲。野田洋次郎が書いた「おあいこ」に続いて、ひとりで弾き語りで「光と影」を聴かせてくれた。
なお、ライブの合間、数度にわたって、「声張ってください」「声が(マイクに乗らずに)ポトッと落ちる、きこえない」などと、ベース伊賀航をいじって笑いをとる。しまいにはウッドベースでモノマネをリクエスト、弓を使ってウミネコの鳴き声や船の汽笛の音を再現することに腐心する伊賀なのだった。
というわけで。総じて、なぜこのタイミングで、この編成で、この選曲で、このような地方を回るツアーを行ったのか、何がやりたかったのか、何を届けたかったのかがはっきりと伝わってくるステージだった。
1曲1曲、一瞬一瞬の歓喜や興奮や感動や多幸感を味わい尽くそう、という姿勢でハナレグミのライブに臨むオーディエンスの力もあって(いつもつくづく感心するほど温度が高い)、本当に熱くて楽しくて幸福な時間になった、頭から最後まで。
という2時間40分の中にあって、個人的にハッとさせられたこと、ふたつ。
ひとつは後半、「Oi」をやる前に「手紙を読みますね」と朗読を始めたこと。本当に誰かから自分に届いた手紙を読んでいるのか、手紙という体で書いた自分の作品なのかは明言しなかったが(たぶん後者)、その散文、福島の避難区域に行ってきた体験、そこで見たこと、感じたこと、考えたことが綴られたものだった。
そしてもうひとつは、ツアーが楽しいという話をしていた時に口にしたこと。ツアーが楽しすぎて、終わるとどうしていいかわからなくなると。それで人がいっぱいいるところに行きたくなって、新宿駅まで行って、意味なくエスカレーターで上がったり下がったりをくり返していたと。それを知り合いのミュージシャンに見られて、あとで「怖くて声をかけられなかった」と言われたと。どうでしょう。ぶっ壊れてるでしょう、確かに。でも本当にそういうものなんだろうな、と、素直に思った。
物事の表の面と裏の面、光の面と影の面、そのどちらかを前に出したり後ろに引っ込めたりしない。そこで強弱をつけない。どちらもあたりまえに出す。というか、そもそも「どちらか」という発想をしない。全部を出す。すべてがある。というふうに曲を作り、言葉を紡ぎ、歌と演奏で人に伝えてきたハナレグミらしい瞬間だったと思う、どちらも。
なお、今このツアー・メンバーで新しい作品のレコーディングをしていることが明かされた。それから、これはMCでの告知はなかったが、11月から12月にかけて次のツアーを行うことが、終演後に発表になった。今度は主に大都市を回るツアー、大阪は11月26日オリックス劇場、東京は12月6日の国際フォーラム ホールA。2016年は所属事務所ラフィンの10周年イベントでレキシと共に立った国際フォーラムのステージに、今度はワンマンで立つ、ということですね。
名前のないツアー 5月12日(金) 横浜BAY HALL ~SET LIST~
01. 大安
02. 旅に出ると
03. 360°
04. きみはぼくのともだち
05. あいまいにあまい愛のまにまに
06. オアシス
07. フリーダムライダー
08. <Medley>
うららかSUN
Crazy Love
ラブリー
Peace Tree
09. オリビアを聴きがら
10. 新曲
11. Oi
12. ぼくはぼくでいるのが
13. 音タイム
14. 無印良人
15. 明日天気になれ
-ENCORE1-
01. 新曲
02. おあいこ
03. 光と影
-ENCORE2-
01. 深呼吸
【バンドメンバー】
Keyboards、Background Vocal : YOSSY
Bass : 伊賀 航
Drums、Background Vocal : 菅沼雄太