インタビュー/兼田達矢
人の魂を揺さぶりたいという思いがあってこそのロックンロール。イメージ通りに声が出て、完璧に動けて、メンバーのリアクションも良いし、お客さんも最高っていう。そういうライブを常に追いかけちゃうんですよね。
──HOUND DOGは、かつては毎日のようにライブをやっていた時期がありましたが、その頃と、最近のように数を絞ってライブに臨むようになってからとでは、そのライブに向かう気持ちに何か違いはありますか。
いちばん多い時期には年間170本やってたんですよね。しかも、その間にアルバムを1枚作ってますから、だいたい月平均にすると18本。3日やって1日休んで、また3日やって、という感じですよね。しかも、3日やるのに同じ場所で3デイズということもありましたけど、たいていはライブをやっては移動しということが3日続くわけです。その頃は単純に、ライブをやれる喜びだけでやってたような気がします。お酒にも食べるものにもあまり執着心は無くて、酒はバーボンしか飲まないし、食べ物は「肉、肉、中華、肉、中華」という感じで(笑)。当時、いまくらい日本酒が好きだったら、もう糖尿病になっちゃってるでしょうね(笑)
──体調も含め、後先を考えずに、ただライブをやれる喜びを満喫していたわけですね。
僕は野球が好きなので、野球のピッチャーの肩に例えてボーカリストのノドというか声帯の話をするんですけど、日本ではピッチャーは投げ込みをたくさんやったほうがいいと言うし、アメリカでは球数制限をしたほうがいいと言われますけど、でもどっちにしても肉体を酷使することは間違いなくて、だからその人それぞれに合った調整方法を探すし、そうしないとダメなわけですよね。実際、日本のプロ野球で200勝するようなピッチャーは全盛期には年間20勝とかするわけですけど、でも通算勝利が190勝くらいになった頃には体力が落ち始めていて、年間2勝がやっと、みたいな状態になったりするじゃないですか。その感じに、いまの僕は近いと思います。僕も、90年代の頃、L.A.にいるボイス・トレーナーのところに通っていました。
──ただライブの喜びを楽しむ時期から次の段階に入ったわけですね。
そのボイス・トレーナーはマイケル・ジャクソンから(ルチアーノ・)パヴァロッティまで担当してるという人なんですけど、そのレッスンの様子は録音してもかわまないので、その録音したものをiPodに入れ、クルマでも聞けるようにして、ヒマさえあれば発声練習をするというのが日課になってるんですけど。それだけボイス・トレーニングもやってて、節制もして、それでもちょっとしたイベントで数曲歌っただけで声がかすれちゃったりしますから。もちろん、毎日ライブをやってた頃も声のことはずっと考えてたというか、気になることではあったんですけど、最近のようにライブの数を絞ってやるようになっても同じ悩みというのは付きまとうんだなということは思いますね。僕の歌い方はご存知の通りですから(笑)。ただ、声帯というのは生まれ持った強さだけなんですよ。で、僕はたまたま強いほうに産んでもらったということなんでしょうね。
──ご自身のボーカル力も、ライブを積み重ねることで鍛えられたというよりは天性のものであるような感覚が強いですか。
僕はテクニックで歌うタイプではないし、人に上手いと言われることもないし。「アイツ、すげえな」と言われるスタイルでやってきたんで。上手い人はたくさんいますから。ただ、人の気持ちを動かすというか、もっとかっこよく言えば人の魂を揺さぶりたいという思いがあってこそのロックンロールですからね。おかげで、僕は本当に何度かノドをつぶして、回復するまで1週間くらい何もしゃべっちゃいけないという時期がありました。その時期には、「音楽を聴くな」と言われてたんですよ。音楽を聴くと、歌わなくても無意識のうちに声帯が反応しちゃうんだそうで。そういうことも繰り返していまに至るわけで、いまの僕の声帯を、シンガーの声帯を診察したことがない医者が見たら、びっくりしちゃうような状態になってるそうなんですよね。それでも、30代半ば頃の感じでやるぞ!って、つい理想を追いかけてしまうところもあるんです。その欲望はずっと持ってていいものかな、と自分では思ってるんですよ。で、実際のところ、年間に170本とかやってる頃には年に5本か6本、自分でも“これは完璧だな”と思うようなライブがあったんです。イメージ通りに声が出て、完璧に動けて、メンバーのリアクションも良いし、お客さんも最高っていう。そういうライブを常に追いかけちゃうんですよね。逆に言えば、いちばん絶好調のときでも170分の5くらいの確率だということなんですけど(笑)
──ただ、「いつでも理想を追いかけてしまう自分がいる」ということで言えば、今回は東京と大阪で3公演ですが、そのすべてが完全試合、つまり3分の3をやるつもりで臨むということですよね?
そうです。その通りです。