ピノキオピー 2024 TOUR「モンストロ」
2024年8月23日(金)豊洲PIT
今年2月に活動15周年を迎えたピノキオピーによる、5年ぶりの全国ツアー「モンストロ」。モンストロとはアニメ映画『ピノキオ』に出てくる巨大クジラのことで、アニバーサリーツアーでありキャリア史上最大規模の全国ツアーという意味合いを込めて名付けられた。ファイナルである豊洲PIT公演はソールドアウト。3000人超えの観客とともに笑顔溢れる空間を作り出した。
オリジナルキャラクターのアイマイナとどうしてちゃんが海の中を漂うオープニングムービーに乗せて、ピノキオピーが高らかに銅鑼を打ち鳴らす。それを合図にサポートメンバーのRK(Scratch&Sampler)とサガット(Dr)が演奏に参加し、そのまま鮮やかに1曲目「ありふれたせかいせいふく」へとなだれ込んだ。自身のサンプラーブースとステージ中央を往来しながら、時にユニゾン、時に掛け合い、時にハモリ、時にラップ/ポエトリーリーディング風に重ね、初音ミクとツインボーカルを繰り広げる。
冒頭7曲はDJプレイのように楽曲をノンストップでつなぐ。同時に「Aじゃないか」では観客にマイクを向けたり、「おばけのウケねらい」では幽霊のポーズを頭上に持ってきて振るなど、観客が楽しめる要素をスマートに提供した。そこはかとなく切なさが漂うメロディと深みのある歌詞でありながらも、これだけ軽快なムードになるのは彼の音楽のポップネスと巧妙なリズムワーク、そして「この日がみんなの楽しい思い出になってほしい」という強い思いの賜物だろう。「ラヴィット」の後の「からっぽのまにまに」では3人の演奏で迫力ある音を届け、歌詞に掛けて「会いに来ましたよ!」と呼びかける。ピノキオピーの名刺代わりの楽曲「すろぉもぉしょん」は歌詞に綴られた思いがクリアに届き、会場をあたたかく包み込んだ。
ピノキオピーは「すごいね、めっちゃいる!」と大勢の観客に出迎えられた喜びを率直な言葉で語る。そして5年ぶりにツアーを回れたことに触れ、この場に集まれたことへの感動をあらわにした。コールアンドレスポンスに「ライブっぽい! いいね!」と無邪気な笑顔を見せた後は、「今日は僕がインタビューしたいと思います」と告げ、「匿名M」へ。ミクがインタビューに答えている最中は、画面上の彼女にマイクを向ける。ミクとのツインボーカルや、打ち込みと生演奏の融合、ブースの上に鎮座するアイマイナとどうしてちゃんのぬいぐるみなど、ピノキオピーのライブはデジタルとリアルの境界線が時に小気味よいコントラストを作り、時に曖昧に溶け合う。「匿名M」には後者の心地よさが生まれていた。
最新曲「ユーチューバー」からはじょじょに深海を漂うようなディープなセクションに入る。「頓珍漢の宴」は仄暗く陽気なムードが広がり、「ウソラセラ」はピノキオピーがメインボーカルを務めエモーショナルでセンチメンタルなメロディが琴線に触れた。その後も幻想的なサウンドとまっすぐな歌声が響く「Fireworks+」、ぬくもりと純粋性を感じさせる「eight hundred+」、観客のコールが軽やかに響いた「嘘ミーム」と、柔らかくも寂し気なミクの声が映える、感傷性がきらびやかに昇華された曲が続く。その後は「海へ行こうぜ!」というメッセージがポジティブに響いた「アポカリプスなう」、この日いちばんの巨大なコールとシンガロングが起きた「神っぽいな」、ミクスチャーロックテイストの「ぼくらはみんな意味不明」と挑発的かつハッピーな空間を作り出した。
ピノキオピーはメンバーを紹介し、メンバーとスタッフ、会場、そして観客へと丁寧に感謝を告げる。そしてツアーに対して「本当にできるんだろうか」「実際に人は集まるんだろうか」と不安があったが、実際に始まってみるとどの会場にもたくさんの観客が集まり、盛り上がってくれたと語り、「夢のようです」「実際にみなさんがここにいることをうれしく思います」と感慨に浸った。
「きみも悪い人でよかった」「ノンブレス・オブリージュ」と会場を曲の奥深くへと引き込むと、「内臓ありますか」「東京マヌカン」ではグッドメロディで高揚感を生み出し、「Honjara-ke」では摩訶不思議な世界観でトランス状態に持っていく。「Mei Mei」「LOVE」と雲を突き抜けて青空を掴みに行くような空気感で魅了し、ラストの「祭りだヘイカモン」は声を張り上げての歌唱や、クジラのぬいぐるみをフロアに投げ入れるなど、祭りの狂乱を作り上げた。ドラマチックな展開は、広い海を旅するモンストロの物語を体感するようだった。
アンコールでは「こんな気持ちになるとは思わなかったんですけど、今回の公演が終わるのがかなり寂しいんですよ」「またツアーやりたいですね。ライブってやるたびにいいなと思います」と告げる。そして実家の4畳半の畳の部屋で、誰に届くともわからないなか曲作りを続けていた活動当初を振り返り、「そこから15年経ってこんなに人が集まるとは夢にも思わなかったので、素直に感動しております」とあらためて感謝を告げると、初投稿楽曲「hanauta」を披露する。宇宙を想起させるサウンドが、ピノキオピーの15年間の人生の奥行きを見せるようだった。
「アンテナ」では歌詞とかけて「モンストロ、豊洲PITに集まったことを数年後に思い出して!」と呼び掛け、ラストの「すきなことだけでいいです」は丁寧に歌詞を届ける。好きなことに打ち込む人であっても、好きではないことに耐えている人であっても、この会場にいた人間のほとんどは「この時間のために頑張ってきたんだ」「また次もこの場所に来たい」と感じられたのではないだろうか。多角的な視点や相反する要素を同居させたピノキオピーの音楽は、聴き手それぞれに存在理由を与えてくれるようだ。だからこそ観客も、ライブという場で彼の音楽に安心して身を任せることができるのだろう。15周年という節目を、観客や信頼するチームとともに盛大に彩ったピノキオピー。さらなる可能性を感じさせる、非常に懐の大きなツアーファイナルだった。
SET LIST
01.モンストロOP
02.ありふれたせかいせいふく
03.Aじゃないか
04.おばけのウケねらい
05.ラヴィット
06.からっぽのまにまに - Original Remix -
07.すろぉもぉしょん
08.匿名M
09.ユーチューバー
10.頓珍漢の宴
11.ウソラセラ
12.Fireworks+
13.eight hundred+
14.嘘ミーム
15.アポカリプスなう
16.神っぽいな
17.ぼくらはみんな意味不明
18.きみも悪い人でよかった -Live ver-
19.ノンブレス・オブリージュ
20.内臓ありますか
21.東京マヌカン
22.Honjara-ke
23.Mei Mei
24.LOVE
25.祭りだヘイカモン
ENCORE
26.hanauta
27.アンテナ
28.すきなことだけでいいです
<Streaming+ アーカイブ配信あり>
【受付期間】9月22日(日祝)18:00まで
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