Hiroki Miura "My Moment My Day"
2024年8月9日(金) LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
深紅のビロードのカーテンがアシンメトリーに吊されたステージの1階部分にはグランドピアノやドラムセットが並び、開演の時を待っている。センターの階段を登った2階には銀色に輝くポールを設置。どんなライブが行われるのか。その不思議な空間に、バンドメンバーが並ぶと、最後にフードをかぶった謎の男が入ってきた。この謎の男こそ、三浦宏規だ。
鍵盤が重厚な音を奏で始めると、表情が見えない中、右手でポールを力強く握り本人にとって初めてとなるポールダンスを披露。短い時間ではあったが高い技術と多彩なトリックで観客を魅了。その後、ポールダンスは振付・ダンサーを務めるTERUPOPにバトンタッチした。
序盤から度肝を抜く演出に圧倒されていると、三浦の背後に影のようにダンサーが加わり、主演したフレンチロックミュージカル『赤と黒』の楽曲「赤と黒」が流れてきた。階段を駆け下りると、かぶっていたフードを外す。沸き起こる歓声。観客に正体を明かした三浦は、野心家で繊細な美青年、ジュリアン・ソレルとして、影を切り裂くような怒りの歌声を披露。2人のダンサーとともに流し目で妖艶な舞いを見せるなど、多彩な表現で魅了していく。
2曲目には日本だけではなく、韓国でも上演されたミュージカル『デスノート THE MUSICAL』で世界一の名探偵・Lの楽曲「The Game Begins」を伸びやかに歌唱。まとっていた黒いジャケットをサッと脱ぐと、階段を上って2階のステージへ。持っていたジャケットを一瞬でストールに変えて見せた。優雅なフリルが印象的な真っ赤なシャツで踊る姿は、軽やかなマタドールのよう。2人のダンサーを従えた三浦は、タンゴのリズムに合わせ、アクロバティックなリフトでわかせるなど、剛と柔のパフォーマンスでファンを虜にした。
「みなさん、こんばんは」。冒頭から振り切った内容に、肩で息をする三浦。「昨日も思ったけど、早かったかな踊るの」と反省しつつ、白いペンライトを揺らして応える観客を見て笑顔。次の曲のためにファンに「口笛の練習をして」と無茶ぶりをしながら、スタッフが運んできたパネルの後ろに隠れると、公開生着替えの時間に。「生着替え、変よな」とぼやきつつ、ダンサーとともに口笛をレクチャー。「ここにいる2000人のお客さんとやったら気持ちいいんちゃうかな」と呼びかける際に、「2万人の」と言い間違え、ファンに冷やかされながらも口笛の練習を続けていた。
情熱的な闘牛士風の衣装から、ゴールドのチェーンがデザインされたブルゾンと白の上下の衣装に替え、ソファーに腰掛けて、軽やかに歌ったのは、ブルーノ・マーズの「The Lazy Song」。爽やかなアメリカ・西海岸の風を渋谷に吹かせた。客席の美しい口笛に「すごい!」と感激。昨日も来場していたファンからは「練習してきた!」と声も飛んでいた。
ライブ中には、4月からパーソナリティーを務める初の冠ラジオ「三浦宏規 MAKE RADI」(毎週金曜日午後9時、AuDeeで配信)の公開収録も実施。ステージ中央にDJブースを運び入れ、寄せられた「役者としての目標」について回答。「90、100歳になっても、舞台に立っていたい」と生涯ステージに立ち続けることを誓うと、「みなさんも、90、100歳になっても見に来てください!」と愛嬌たっぷりに呼びかける。
三重県愛もさく裂させたセクションを終えると、シンガー・ソングライターの海宝潤を招き入れ、海宝が三浦のために書き下ろした「cascade」で共演。海宝の柔らかなアコースティックギターにのせ、2人で声を響かせる場面もあった。海宝を送り出した三浦は、グランドピアノの前に腰掛けると、青い光の中でしっとりと演奏。そのまま下手に姿を消すと、バンドメンバーが「第89回アカデミー賞」で最多6部門に輝いたミュージカル映画『LA LA LAND』のメドレーで、会場を牽引していく。バイオリンを筆頭に、サクソフォン、チェロ、ギター、と交互に見せ場を作っていた。
職人たちの華やかな演奏が終わると、2階ステージに、ブラックのスーツに身を包んだ三浦が姿を見せた。サクソフォンが、体のラインをなぞるような、なまめかしいメロディーを紡ぎ始めると、三浦が吐息がこぼれるような歌声で安全地帯の「じれったい」を歌い上げていく。狂おしい表情とともに、一気に色気を爆発させる。
終盤のMCでは「ここからはミュージカルの曲をやっていきたい」と説明し、米ハリウッドの光と影を描いた『サンセット大通り』の「Sunset Boulevard」。オーストリア出身のクラシック作曲家モーツァルトの生涯を描いた、ウィーン発のミュージカル『モーツァルト!』の「僕こそ音楽」など、それぞれの作品の名曲を熱唱。1つのステージに、いくつもの物語の登場人物が現れる三浦ならでは演出で会場を釘付けにした。
「残すところあと2曲」のMCには、「えー!!」と落胆の声が会場にこだました。過去の公演を振り返った三浦は「全ての人に感謝を込めて、お届けしたい」と玉置浩二の代表的なバラード「メロディー」をピアノの音に合わせて歌唱。夢に向かい羽ばたいていくような歌声を聴かせたその時。会場のあちこちで緊急地震警報が鳴り、会場には一瞬で緊張感が走った。揺れはあまり感じられなかったが、不測の事態に備え会場の照明が付けられる。そんな状況の中、動揺する客席を鎮めるように、目を閉じた三浦は声で動揺をおさめるように、しっかりと言葉を、思いをその場にいる一人ひとりに届けていく。両手でマイクを握り紡ぐ、渾身の歌声に会場は落ち着きを少しずつ取り戻していった。
「メロディー」が終わると、三浦は深く一礼。6月に開催された「菊田一夫演劇賞」の授賞式のスピーチで「死ぬその日まで舞台に立っていたいという夢がある」と宣言した三浦の生き様を見たこの時間、2000人から割れんばかりの拍手が送られていた。
全身で拍手を受け止めた三浦はそのまま、舞台袖へ。入れ替わるようにダンサーたちが飛び出し、会場を盛り上げていく。Tシャツとデニムに着替えた三浦は走ってセンターに戻ってくると緊急地震警報に「びっくりしたよねー!」といいながら、現在起きている状況を的確に説明し、「最後までやりきるぞ!」と意気込み。昨年、東京・恵比寿で開いた初の単独ライブで歌ったオリジナル曲「Supernova」をダンサーとともに踊りながら披露。「♪いつだって胸に情熱を!」と軽快に歌い、会場を揺らしていった。
舞台の中央にバレエシューズが置かれたアンコール。冒頭と同じように2階部分から登場した三浦は、階段を降り大切そうにシューズを持ち上げると、右足から左足の順でシューズを履き、真ん中でステップ。感触を確かめていく。リストの「愛の夢」に合わせ、最後に披露したのは5歳から始めたクラシックバレエで学んだ美しい舞いだった。無駄を省いた身のこなし、美しい回転。持てる全てを舞台から発信し、唯一無二のショーの幕を閉じた。
先述した通り今年は、ミュージカル『のだめカンタービレ』、舞台『千と千尋の神隠し』、フレンチロックミュージカル『赤と黒』の演技が評価され、大衆演劇の舞台ですぐれた業績を示した者に贈られる「菊田一夫演劇賞」を受賞。
10月には「ミュージカル『刀剣乱舞』 祝玖寿 乱舞音曲祭」に髭切役で出演。12月には来年2月に建て替えのため休館する、ミュージカルの聖地、東京・帝国劇場のクロージング公演として上演される『レ・ミゼラブル』にマリウス役で出演することが決定しており、さらなる飛躍が期待されている。
SET LIST
01. 赤と黒
02. The game begins
03. (三浦タンゴ)
04. The lazy song
05. summerville
06. royal flash
07. 心のはな
08. (ラジオ公開収録)
09. cascade with 海宝潤
10. LA LA LAND メドレー
11. じれったい
12. Oh what a night
13. Sunset Boulevard
14. 僕こそ音楽
15. New York, New York
16. メロディー
17. Supernova
ENCORE
01. At the ballet(コーラスライン) / 愛の夢 / At the ballet