『男はつらいよ』シネマ・コンサート、オフィシャルレポート到着!山田洋次監督、倍賞千恵子らが登壇したトークショーでは制作当時の撮影秘話も

ライブレポート | 2024.07.01 17:30

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『男はつらいよ お帰り 寅さん』が東京国際フォーラムAで初のシネマ・コンサートを行い、駆け付けた5000人の観客が笑いと涙の渦に巻き込まれた。 山田洋次監督、倍賞千恵子も感動の涙

映画「男はつらいよ」公開55周年記念
『男はつらいよ お帰り 寅さん』シネマ・コンサート〜特別公演〜
2024年6月29日(土)東京国際フォーラム ホールA

2024年6月29日(土)、東京国際フォーラム ホールAで 『男はつらいよ お帰り 寅さん』シネマ・コンサートの特別公演が行われた。不朽の名作を巨大スクリーンと共に味わう、大迫力のオーケストラ生演奏、シネマ・コンサート。この日の上映・演奏は、高度成長期から現代までを駆け抜けた映画「男はつらいよ」の公開55周年を記念したもので、国民的映画「寅さんシリーズ」にとって初のシネマ・コンサートとなる。演目は50年を経て誕生した、シリーズ軌跡の感動作『男はつらいよ お帰り 寅さん』だ。公開55周年という節目を迎えた今年、年月の重みを心にずっしりと感じながら、決して忘れ得ぬ刻となった。

特別公演は二部制で、第一部では山田洋次監督をはじめ、寅次郎の異母妹である諏訪さくら役を演じてきた倍賞千恵子、さくらの夫・諏訪博の前田吟、寅次郎の甥で小説家の満男・吉岡秀隆、音楽を担った山本純ノ介が集い、制作当時のエピソード等を語りあった。
司会は同シリーズでカフェ「くるまや」の三平役としてお馴染みの北山雅康。登場人物として実に5年ぶりの再会を果たした面々に清々しさと共に懐かしさが滲み出る。
山田監督がMC予定だった松野太紀に触れ、存在に温かく触れてトークがスタートした。
『男はつらいよ お帰り 寅さん』は、シリーズを一つの壮大な長編作品として捉え、今度は中年を迎えた満男が主人公となり、人生に影響を与えてくれた寅さんを懐かしみ、思い出していく物語だ。
まずは本作のメインキャストである満男役の吉岡秀隆が、撮影現場での思い出話で笑いを呼ぶと、5年のブランクを急速に埋めるように次々と撮影秘話が湧き出していった。
山田監督が作曲を担った山本直純氏の言葉を思い出す。
「役者に“隙間”がないと、音楽が入れないんだよ。隙間がある役者っていうのはね、倍賞千恵子さん(笑)。」山田監督がそう笑うと、それは褒めているのかしら、と笑いながら「映画は総合芸術だから、そのためにも私には隙間があるんだわ」と返しては作品を共に振り返った。隙間とは、台詞を言わずしての“演技力の高さ”のことだろう。ここは俳優として基本を教わった学校で、山田監督を校長先生だと例える倍賞千恵子。二人の穏やかな掛け合いは山田組の”お茶の間シーン“のように温かった。
イントロ1秒で映画の世界が成立するのが名映画音楽であり、「男はつらいよ」テーマ曲は疑う由もなく名曲である。山田監督が「出だしの(音)ターン!と聞いただけでわかる、これは凄いことだよ」と発すると、後を受け継いだ息子の山本純ノ介は、その一部分だけでもユニゾンと言って、さまざまな音を重ねて表現しているのだ、と父の業を補足した。
世界的指揮者である小沢征爾氏から天才だと言われていた「男はつらいよ」作曲家・山本直純。山田監督は、その場で曲を修正してみせていたことに、最高の敬意を示しながら、これより始まるシネマ・コンサートへの期待を膨らませた。
この日は倍賞千恵子の誕生日でもある。サプライズでピアノがバースデーソングを奏で、山田監督が倍賞千恵子に花束を渡す一幕もあり、コンサート直前に会場は温かな空気に包まれることとなった。

第二部ではいよいよシネマ・コンサート本編の幕が開ける。
指揮は岩村力。演奏は日本で最も古い歴史を持つ東京フィルハーモニー交響楽団だ。
先ほどトークショーで登場した面々が客席に登場、一般観覧者と共に鑑賞するという。
渥美清に捧ぐ―という一文から始まった本編は、満男の夢のシーンから生演奏が如実に生きていた。
流れゆく波と砂と音楽と。混ざり合うように奏でられた音は、満男の目覚めと共にさらりと消える。
シネマ・コンサートは、通常の演奏とは異なり、映像と演奏がシンクロし合う難解さを持つが、同オーケストラはその信頼も厚いだけあって、音楽が映像に引き込むように始まり、増幅し消えていく。 
随所で表現豊かな主題労作が映画の凄みを強調していく。登場人物の心の揺らぎに生演奏のクリアな音色がより鮮明に描かれていた。
ほろ苦いクライマックスを終えると、静かにコントラバスがスタンバイする。振らずして指揮者・岩村の背中が奮い立つのが見えた。ラストシーンが映し出され、役者の感情に寄り添うように流れ出すシンフォニーは、指揮者と演奏者の表現の増幅も相まって、観客の感情も高ぶるようだ。寅次郎とマドンナとの数々の出会いを振り返り、寅次郎の名台詞が聞こえてくると、やがてオーケストラを伴奏に寅次郎が歌っている場面に立ち会うことになる。その場で歌っているように見えてほしい、いや、この場で歌って欲しいと言う切なる願いが、実現されたシーンとして、本当に目の前に映し出されるのだ。
超満員の会場で、観客の拍手が会場を一気に沸かせた。拍手は鳴り止まぬことなく、鳴り響き続けた。こうして心豊かなシネマ・コンサート本編を終えた。

アンコールは、高らかに鳴り響いた「男はつらいよ」テーマ曲だ。スクリーンに映し出されたのは、今日まで寅次郎として生きた“渥美清”の居る風景達。誇り高き名曲は盛大に振り切って、心豊かなシネマ・コンサートのフィナーレを飾った。
鳴り止まぬ拍手と歓声が、立ち上がった出演者を再びステージに呼び寄せた。映画に極上の花を添えたオーケストラと抱き合い、「映画は凄いと思いました!」と顔を真っ赤にした前田吟が、泣き顔の吉岡秀隆が「今日の日のことは一生忘れません」と観客に投げかけた。
スクリーンに捉えられた倍賞千恵子は涙を拭っていた。「こんなふうに終わるとは夢にも思わなかった。」「(ご来場いただいた)皆様から素敵なプレゼントをいただきました。ありがとうございます。」と山田監督は瞳を潤ませながら、たくさんの人々に愛されてきたことに、心からの謝意を述べた。

第1作目公開から55年。完成された映画が、シネマ・コンサートによって真の完成を迎えた、比類なき感覚を得た。そう言い切るだけの感動が、鳴り止まぬ拍手喝采に本当に、満ちていた。

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