NEMOPHILA Zepp Tour 2023 ~二兎を追うものは二兎を得る~
2023年6月15日(木)KT Zepp Yokohama
昨年のZepp対バンツアーの第2弾として、4都市にて開催されたNEMOPHILAの「二兎を追うものは二兎を得る」。各所でラウドロック界の実力者たちを招いたツーマンツアーのファイナルのゲストはデーモン閣下、SAKI(Gt)が音楽を始めるきっかけとなったバンド・聖飢魔Ⅱのヴォーカリストである。ゆえにこの日は、普段のツーマンとは一味異なる趣を持つライヴとなった。
先攻ソロで出演したデーモン閣下はソロリリースした楽曲を中心に歌唱し、バックバンドはNEMOPHILAの楽器隊が務めるという、この日限りのバンド“DEMOPHILA”としてステージをまっとうする。聖飢魔IIのオープニングとしても使用されているゴジラのテーマ曲をSEに、“魔王の娘”に任命されたNEMOPHILAの4人と、サポートキーボードの松崎雄一が現れると、1曲目に閣下の翻訳詞によるシューベルトの「魔王」のイントロに乗せて閣下が登場。ストーリーをその場に立ちのぼらせる情感豊かな歌唱力に加え、歌詞の一部を“NEMOPHILAのライヴもあるし”に変えるなどエンタメ精神溢れるパフォーマンスを見せる。一気に場内が魔界に包まれると、続いて披露したのは閣下が“世を忍ぶ仮の姿”で言う中学時代から大ファンであるALICEによるプロデュースシングル曲「NEO」。その曲で聖飢魔Ⅱの大ファンであるSAKIがギターを弾くという構図もかなり胸熱だ。
閣下は小気味よいトークで場内やステージをリラックスさせると、「砂漠のトカゲ」ではNEMOPHILAの面々のコーラスや、葉月(Gt)の鳴らすトカゲに模したびっくりチキンなどでユニークなステージを作り、さらに「FOREST OF ROCKS」のイントロではNEMOPHILAの「Night Flight」の振り付けを取り入れ、「♡8」に入る前の口上では今回のツアータイトルやNEMOPHILAの歌詞を交えるなど、観客だけでなく共演者のテンションも高めていく。彼女たちのツアーファイナルを祝福するべくスマートに展開される気遣いは、サービス精神という言葉では片づけられないほど思いやりに溢れていた。
閣下は“今日は配信もないし映像記録もない。でも「映像として残してくれればよかったのに!」と悔しくなるようなライヴをやるからな。お前らは今日ここに来て正解だ! 彼女たちの別の魅力を大発掘して帰ってもらいたい”と告げると、晴れやかな青空を想起させる「SOLA」を慈愛に満ちた歌声で届け、ラストの「太陽がいっぱい」では白熱するSAKIと葉月のギターソロラリーの最中にはフラッグを持って応戦する。終始NEMOPHILAに花を持たせ、それでも自分自身の世界観を崩さない閣下の器の大きさに感嘆するステージだった。
この日のホストを務めるNEMOPHILAは、1曲目「OIRAN」から勢いと爽快感のある爆音でギアを上げていく。昨年12月に2ndフルアルバムをリリースし、その翌月の今年1月にmayu(Vo)が産休から復帰しバンドにとって初のワンマンツアーを行うと、3月からはアメリカツアーとSXSWの出演を実現させた。この約半年間で様々な初体験を果たしている彼女たちはまさに脂が乗っている状態と言えるだろう。その後もmayuのカラフルなボーカルアプローチと観客のコールとシンガロングが光る「鬼灯」、憂いと衝動性を併せ持つ「RISE」と、迷いのないプレイとボーカルはたちまち場内の空気を掌握していった。
「Rollin’ Rollin’」のアウトロではハラグチサン(Ba)が板を張り手で割るというパフォーマンスをする。のちのMCによると、1公演ひとりずつ板にメンバーの名前といたわりメッセージを書き、それを割ることで“メンバーをいたわる”という意味が込められているという。こういうお茶目を交えるところも、このバンドの魅力のひとつだ。
mayuが対バンを承諾してくれた閣下に恐縮しながら感謝の意を示すと、思いがこみ上げてきたSAKIは涙を浮かべながら感動を口にする。するとむらたたむ(Dr)が“バックバンドでヘタこいたらSAKIちゃんに殺されると思ってた”と会場を笑わせ、貴重な経験ができたことへの喜びを語った。“今日は地獄のゆるふわサウンドではなく、地獄の悪魔的サウンドで皆さんをぶっ殺していこうと思うので覚悟してください……じゃなく、覚悟しろよな!”とmayuが呼び掛けると、閣下がブログでNEMOPHILAの聖飢魔Ⅱ「呪いのシャ・ナ・ナ・ナ」のカバー動画を紹介したことを受けて同曲を1コーラスカバーする。それ以降「ZEN」、「DISSENSION」、「徒花-ADABANA-」、「A Ray Of Light」と5人の楽曲のなかでもアグレッシブでハードな楽曲を畳み掛けていった。
荒波のようなセットリスト。それをこれだけ豪快にプレイできるのは、確実に去年よりバンドの体力や精神力がついている証だろう。それに加え、今回の競演者はSAKIにとって特別な存在だ。mayuもその後のMCで、楽器隊4人が閣下のバックバンドを務めるにあたり練習を欠かさなかったことを明かしていたが、SAKI以外の4人も閣下だけでなくSAKIのためにもいいライブにしたいという思いがあったと推測する。ライブでお馴染みの最新デジタルシングル「Night Flight」をサングラス姿でプレイすると、その後も「MONSTERS」、「SORAI」、「雷霆-RAITEI-」とアッパーな楽曲と笑顔で観客を果敢に華麗に巻き込んでゆく。本編ラストまで並々ならぬ気魄の演奏とボーカルを響かせ続けた。
アンコールはNEMOPHILAの楽器隊と松崎が登場し、閣下による「呪いのシャ・ナ・ナ・ナ」の替え歌(※NEMOPHILA大好きヴァージョン)が乗るという予想だにしない幕開けを経て、mayuと衣装チェンジした閣下がステージに現れると聖飢魔Ⅱ「1999 SECRET OBJECT」のカヴァーをツインヴォーカルで披露。mayuと閣下がハーモニーを織り成すだけでなく、全員でターンを合わせたり、ギターソロを弾くSAKIをmayuと閣下で囲むなど、華やかな立ち振る舞いを見せた。
閣下と松崎がステージから去ると、SAKIは閣下から前日の夜にEメールで“替え歌でやるのはどうだろう?”と提案された旨を明かす。すると再び感極まったSAKIは、閣下がこの日のために様々な気遣いをしてくれたことを涙ながらに語ると、駆け寄ったメンバー4人もSAKIをあたたかく包み込んだ。対バンのおかげで今回のツアーも充実したと語るmayuは、“ここからもこつこつと腕を磨いて、気持ちをもっと深く深くして皆さんに届けられたらと思います”と7月に東京ガーデンシアターと神戸国際会館こくさいホールで開催される初のホールツアー「NEMOPHILA 4th Anniversary -Rizing NEMO-」への意気込みを露わにする。すると5人はフルスイングと言わんばかりの歌と演奏で「REVIVE」を披露し、勢力を上げ続けたまま盛大にツアーファイナルを締めくくった。
ミドルテンポの楽曲やロックバラードを一切演奏しないという挑戦的なライブ。ゆえに“ファイナル”や“節目”といった要素を感じさせない、まだまだ加速していくNEMOPHILAが体感できたこともこの日の収穫だった。おそらく彼女たちが見据えているのは、MC中にも語られた初のホールツアー。このZeppツーマンツアーは、それに向けての武者修行の意味合いもあったのだろう。そして“DEMOPHILA”の経験も、バンドの結束をより強めたはずだ。ツアー初日のガーデンシアターまであと約1ヶ月。彼女たちがあの大きなステージでどんなライブを見せてくれるのか、期待が高まる夜だった。
SET LIST
デーモン閣下
01.魔王
02.NEO
03.ゴールはみえた
04.砂漠のトカゲ
05.FOREST OF ROCKS
06.♡8
07.SOLA
08.太陽がいっぱい
NEMOPHILA
01.OIRAN
02.鬼灯
03.RISE
04.Rollin’ Rollin’
05.呪いのシャ・ナ・ナ・ナ
06.ZEN
07.DISSENSION
08.徒花-ADABANA-
09.A Ray Of Light
10.Night Flight
11.MONSTERS
12.SORAI
13.雷霆-RAITEI
ENCORE
01.呪いのシャ・ナ・ナ・ナ(※NEMOPHILA大好きヴァージョン)
02.1999 SECRET OBJECT(聖飢魔II)
03.REVIVE