ねぐせ。ワンマンライブ 「ワンダーランドに愛情を︕」
2022年11月8日(火) LIQUIDROOM
彼らが掲げる“宇宙でいちばんあたたかいバンド”の二つ名に偽りなし、と断言してもいいだろう。2022年9月に『ワンダーランドに愛情を!』をリリースし、10月に東名阪ツーマンツアー「ファストパスでワンダーランドツアー」を回ったねぐせ。による、初の東京でのワンマンライブはソールドアウト。LIQUIDROOMのフロアに集った大勢の若い男女は、開演前から目を輝かせながら色とりどりのカーテンとバンドのバックドロップが下がるステージを眺めていた。
KALMAの「ねぇミスター」をSEにメンバーが登場すると、まず伸びやかな歌と演奏で観客の心を掴んで1曲目は「猫背と癖」。甘く人懐っこい楽曲で会場を陽だまりのように包み込むと、りょたち(Vo/Gt)が“新曲やりまーす!”と告げ、なおや(Gt)、しょうと(Ba)、なおと(Dr)のソロ回しを経てポップナンバー「タイムマシンにのって」を届ける。これまでのねぐせ。の持ち味を踏襲しつつも、りょたちとしょうとのツインボーカルセクションなどの新しい要素を取り入れた楽曲に、フロアもさらに高揚を示した。
3曲目からは一転、「秋の終」、新曲「愛してみてよ減るもんじゃないし」、「死なない為の音楽よ」などロックナンバーを畳みかける。「ペイベイベイビー!」で安定感と同時に爆発力も併せ持つなおとのドラムは楽曲の躍動感を際立たせ、しょうと、なおやは弦楽器で彩り豊かな音色を繰り出すだけでなく、ステージ前に2人同時に乗り出したり、頭突きをしながらプレイをするなど時にキャッチーな、時に型破りなパフォーマンスを見せる。ミドルナンバー「独占愛」では燃え上がる愛を体現する演奏で魅了。じっと自分の中に湧き上がる愛情を見つめるような演奏と歌に、フロアも思いを重ねていった。
ねぐせ。の音楽はりょたちのソフトなボーカルと軽やかなメロディの相性が良いことに加え、楽器隊3人がそれを受け皿としてしっかり支えているのが特徴的だ。そしてその受け皿のスケールがとにかく大きい。3人が歌を立たせるために演奏の集中力を高めれば高めるほど、個々のプレイヤーの存在感も浮き彫りになっていく。 “ほっとくと延々に話し続けてしまう”という4人の自由度の高さと仲の良さは、バンドのグルーヴに直結しているのだ。そして彼らの自然体で情熱的な演奏は、こちらの心臓を目掛けて貫くというよりは、焚き火のようにただただステージで燃え上がっているようにも感じられる。だから彼らの音楽が寄り添ってくれるとぬくもりに包まれ、時に火の粉が飛んでくるように心がちくりと痛むのかもしれない。
「愛煙家」を迫真の演奏で締めくくり、「スウェット」「花束が似合う君へ」など失恋ソングを連続で演奏。りょたちの歌声は感傷的でありながらも、指し示す先にあるものは愛する人への尊敬と感謝だ。後悔や失った悲しみが生まれるということは、それだけ大切だったということ――ねぐせ。の音楽の心地よさとは、感情の奥行きから生まれるものなのだろう。
歌い終わるや否や“ねぐトーク!!”と高らかにタイトルコールをするりょたちに、“感情の起伏がすごくない?”とすかさずツッコむ3人。なおとが“ねぐせ。のライブは感情が急上昇したと思ったら急降下するからジェットコースターみたい”と言うと、りょたちが観客に向けて“ご乗車ありがとうございます”と語り掛けるという小粋な返しを見せた。
“ねぐトーク”とはワンマンのみで展開される、メンバーのトークタイム。トークテーマはなおと発案の“東京での思い出”ということで、ユーモアを交えながら自由に語り合っていく。いろいろと脱線しながらも、なおとが “まだまだ俺らには東京での思い出が足りん!
だからみんなと俺らで盛り上がりましょう!いちばん後ろまで全員見えてます、思い出を作りましょう!” とまとめ後半戦へ。りょたちが“俺たちの出会いに乾杯しよう!”と呼び掛けると「片手にビール」でほろ酔いにも似た可愛げで包み込み、新曲「ダーリン」では各メンバーのテクニックの光るギミックが効いたアンサンブルでまた新しいねぐせ。の姿を見せた。
ひとつの物語から生まれた「彩り」と「日常革命」を立て続けに披露したセクションは、息を飲むほどに圧巻。4人の鳴らす一音一音と歌が胸に迫り、観客も拍手をするのを忘れるほどにじっくりと聴き入る。りょたちが「彩り」のアウトロで語った“君からもらった幸せを、ライブハウスのあなたに届けています”という言葉は、まさに彼の音楽へのスタンスを表すものだった。うまくいかない生活のなかでくよくよしながらも“幸せ”を感じられる、そんな人間だからこそ持ち得る強さが、ねぐせ。の音楽を生み出しているのだろう。
りょたちは“東京で自分たちのことを好きなこんなにたくさんの人にちゃんと面と向かって曲を届けられることがうれしくて泣きそうになった”、“こういう機会をいただくことができたのも自分たちの音楽をいいなと思ってサポートしてくれるスタッフの方々がいるから”とあらためて感謝を告げる。今回のワンマンについて“僕らが成長できる大事な日にできたらと思うし、あなたにとって運命的な日になったらいいなと思う”と強いまなざしで語り披露したのは「最愛」。《僕は君の中にいる》という歌詞のとおり、彼らの思いが自分の心のなかに浮かび上がってくるようだ。
本編の締めくくりは、会場一体となってダンスに興じた「グッドな音楽を」、観客が高く手を掲げてクラップでステージに思いを伝えた「スーパー愛したい」の2曲。曲中でも4人は観客とコミュニケーションを取ってライブならではのドラマを作り、ステージの装飾以上に華やかなラストを飾る。アンコールでは会場全員で「グッドな音楽を」のTikTokを撮影し、りょたちが“みんなも自由に生きてください。やりたいように生きてみたら、それを面白いと感じて寄ってきてくれる人がいる。俺たちに出会ってくれてありがとう!”と告げ、最後「恋夜」であらためて思いをひとつにしてこの日を晴れやかに締めくくった。
彼らはステージでつねに自然体であり、さらに地に足がついていた。それはすべて“自分は幸せだ”と感じられるからであり、幸せを感じられるのはそばに自分たちの音楽を愛する人々がいるからだろう。彼らの作るワンダーランドは、あなたの愛情があるからこそ鮮やかで幸せな空間へとたちまち景色を変えるのだ。
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