the shes gone
2020年7月26日(日)@Streaming+
the shes goneが初めて行った、無観客の有料配信ライブ。プラットフォームはイープラスのストリーミング・サービス Streaming+で、尺は約60分の予定。「通常の配信ライブとは異なりスタジオ内が間接照明やドライフラワーなどで装飾されており、the shes goneのミュージックビデオの世界観を意識した演出となっている」(オフィシャルサイトより)。チケット代は1,500円で、8月1日(土)22:00までアーカイブ視聴が可能。また、7月28日(火)から、そのアーカイブと同じ期間までの限定で、この日のライブから「想いあい」が、YouTubeのthe shes gone公式チャンネルで公開された。
兼丸(Vo.Gt.)が、しばしひとりでギターを爪弾いてから歌い出した「最低だなんて」でスタート。兼丸とマサキ(Gt.)、Daishi(Ba.)、サポート・ドラムの熊谷亮也の4人が向かい合った形のフォーメーション。予告どおりメンバーの周囲はほぼ闇、というかメンバーの身体も半分くらい闇の時もある、かなり抑え目な照明。その照明も、テーブルの上に置かれたランプ(メンバーの私物もあり)や床に敷かれたラグ等の装飾も、確かにライブハウスでのいつものthe shes goneよりも、MVの世界に近い演出が施されている。
2曲目「化物」は、兼丸の「さあ、ここから化けていきましょうか」という言葉で始まり、「緑とレンガ」では、イントロの途中で「どこか崩せそうなのにきれいな壁がレンガ、そしてまだ青くさい僕が緑。行こうか」という言葉をはさむ。「甘い記憶」では、「さあ、今日という1日を甘い記憶にしていきましょう」──というふうに、兼丸が短く言葉をはさんでいく。
で、曲が終わると同時に、次の曲が始まる。曲間が空かない。5曲目の「シーズンワン」が終わったところで、初めてMCの時間が設けられた。
「全国ツアー」と銘打ったツアーはまだ一回しかやったことがない、だから初めてthe shes goneを観てくれている人も多いと思うので──と、メンバーそれぞれ自己紹介する。兼丸、順番が回ってきて挨拶したあと、「……お客さんいないで自己紹介すると、こんな感じなんだね」と、戸惑いを見せる。
「さあ、これからみなさんと一緒に歩きますパレードは、僕ではなく、あの子が勝手に作っていった──」と、イントロにのせてちょっと長めに曲紹介した「君のパレード」から始まった後半も、曲間なしで「サプライズ」「想いあい」「ふたりのうた」と続いていく。
このバンドが、言わば“ちゃんと世の中に見つけられる”きっかけになった「想いあい」は、基本、アレンジもメロディも、終始淡々とした描かれ方でできている曲であるにもかかわらず、歌も、4人の音も、いっそう高い熱を持って、こちらに届いたように感じた。
「好きなことを歌って好きなように音楽を作っても、誰かが必ず聴いてくれるわけじゃない。それなら、どうせ聴かれない可能性があるなら、自分の根っこにある部分を……さみしいだとか、なんであの時あんなこと言われてしまったんだろう、とか、そんなことを言葉にして歌おうと思いました。そしたら、『この曲があってよかった』と言ってくれる人が、少しずつ増えていきました。これから歌う歌は、誰かを傷つけるための歌じゃなくて、あなたのための歌です」
兼丸はそんな言葉を、この歌のイントロにのせた。聴かれないかもしれないから自分の根っこの部分を歌おうと思った、という前半部分が、「あなたのための歌です」という矛盾した出口になるところに、とてもリアルなものを感じた。「あなたのための歌」を生み出す方法は、兼丸にとってはそれだった、ということなんだなあ、と。
MCをしているうちに話がとっちらかってしまったり、どこか自信なさそうだったり、という姿を過去にライブで観たことがあるから、そう思うのかもしれないが、2020年に入ったあたりのライブから、兼丸のパフォーマンスは目に見えて変わった気がする。
肝が据わったというか、腹をくくったというか、どんな心構えでどんな言動をもってライブという場に臨めばいいのかをつかんできたというか、そんな印象があったのだが、今日の兼丸はそこからさらに、ちょっと驚くくらいジャンプアップしている。
ひらたく言うと、堂々としている。配信ライブという、本来やりやすいわけがない場であるにもかかわらず。カメラ目線で歌うなんてできないタイプだろう、と勝手に思っていたが、1曲目からいきなりバチッとカメラに視線を合わせてきたりする。眼差しが強い。一瞬一瞬の表情もやけに魅力的だったりして、目を惹きつけられる。
最後に設けられたちょっと長めのMCを、「どうか、今ライブを観てくれているあなたの毎日が、明日が、何もなく平和に続きますように。これからも、どうか僕らの歌があなたのそばにありますように」という言葉で終わらせた兼丸は、5月29日、つまりコロナ禍以降にリリースした「春の中に」を歌った。そして、「この曲ができた時に、このバンドでならいけるんじゃないかと、この曲でもっと誰かに聴いてほしいと、初めて思えたかもしれない」という「ラブストーリー」で、ライブを締めくくった。
SET LIST
01.最低だなんて
02.化物
03.緑とレンガ
04.甘い記憶
05.シーズンワン
06.君のパレード
07.サプライズ
08.想いあい
09.ふたりのうた
10.春の中に
11.ラブストーリー